北村薫著 『街の灯』、 『玻璃の天』
初出 「朝日新聞」2005年8月から2006年3月に連載。 「虚栄の市」 別冊文藝春秋 2002年1月号 「銀座八丁」 別冊文藝春秋 2002年5月号・7月号 「街の灯」 別冊文藝春秋 2002年9月号・11月号 本書 2003年1月刊行。
初出 「幻の橋」 「オール読物」 2005年11月号 「想夫恋」 「オール読物」 2006年7月号 「玻璃の天」 「オール読物」 2006年11月号 本書 2007年4月刊行。
北村薫: 1949年12月、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業、89年「空飛ぶ少年」でデビュー。 91年「夜の蝉」で第44回日本推理作家協会賞を受賞。
花村英子 (わたし) 兄 雅吉
花村家は相模の士族の出。祖父の代に御家老の養子になり格こそ上がったが藩主ではない。 英子は《中期》の学生(「街の灯」)。 《後期》の学生。 (満14歳)(「玻璃の天」) 兄の雅吉は文科の大学生(「街の灯」)、大学院生(「玻璃の天」)。 パパは日本でも5本の指に折られる財閥系列の商事会社の社長。進歩的な父親。
別宮みつ子 (べっく) 愛称 ベッキーさん
弓原太郎 (叔父) 松子 (叔母)
子爵。 叔父は東京地検の検事。 犯罪がらみのエッセイを引き受けて書いている。 叔父叔母に子供いないため、わたし(英子)を可愛がってくれる。
有川八重子
桐原道子 姉 麗子 兄 勝久
侯爵家、道子とは学校で会釈を交わす程度の仲。 軽井沢の別荘は花村家のすぐ近くにある。
「玻璃の天」: ステンドグラスの天窓から墜落死した思想家。事故か、殺人か。英子の推理が辿り着いた切ない真相とは。謎に包まれていたベッキーさんの出自も明らかに。令嬢と女性運転手、昭和初期を舞台にしたシリーズ第2弾。
読後感:
読み慣れてくるとこの作品はシャレた内容のロマンあふれる作品かと。時は昭和初期(昭和7年)の設定、相模の士族出の花村家の家庭、そして新人の運転手として雇われたのはこの時代珍しい女性運転手別宮(べっく)みつ子(愛称“ベッキーさん”)、周りの侯爵、子爵の間での優雅ではたまた身分の違いも桁外れの別世界のひとびとがおりなす粋な出来事と日常の謎めいたお話が奇妙な世界を醸し出している。 実は最初本の題にある「街の灯」の章(?)を読み出したら、何ともその世界の味が判らず、辞めようと思っていた。でまあそういわずにと「虚栄の市」の章(?)の途中当たりベッキーさんこと新人の運転手が道を覚えるための初めての運転から戻ってきたところで、壮士風の男達が白木の仕込み杖を持っているところに降りたつ。その場面の情景ですっかりベッキーさんの人柄に興味を覚え、のめり込んでいった。そしてベッキーさんが仕える花村英子の機知のある人柄にも。 さらに話の中にチラリと表現されている教養のある言葉なり音楽のこと、常識といった事柄に。こんなことを理解できるような人でありたいなあと・・・。 またごく日常的ななぞ解きも楽しいものである。 読書の楽しみとは無限かな。 「玻璃の天」: 第2弾の「玻璃の天」を読み、さらに主な参考文献のリストを見てやはり物を書くということは大変な労力がいるのだなあと感じる。さらっと書かれている簡単な文章にも、文字にするという行為にはきちんと誤りがないかとか、それが世の中でどういう風な位置にあるのか知っていないと一度書き物として世の中に出るとその責任をおわなければならないということ。そんなことをふと思ってしまった。 作品の中に出てくる話題、謎解きのヒント、考え方などの知識の豊かさに驚かされる。 枕草子、伊勢物語、歌舞伎のこと、詩歌のこと、海外作品のことなどまだまだ知りたいこと、読みたい物いっぱいあるとこの著者の作品を読んで感じてしまった。
花村英子とベッキーさんのコンビによるこの作品のシリーズに「鷺と雪」という完結編ががある。(2009年4月出版)図書館の予約も一杯、数ヶ月後に読めることを期待してまとう。