桐野夏生著 
               『アンボス・ムンドス』 
 




              2014-09-25



(作品は、桐野夏生著 『アンボス・ムンドス』     文藝春秋による。)

             

  初出誌 植林           別冊文藝春秋229号(1999年10月)
      ルビー         オール読物2000年10月号
      怪物たちの夜会     別冊文藝春秋249号(2004年1月)
      愛ランド        小説現代2003年6月号
      浮島の森        オール読物2005年2月号
      毒童          オール読物2005年6月号
      アンボス・ムンドス     オール読物2004年9月号
 本書 2005年(平成17年)10月刊行。
 
 桐野夏生:
 1961年、金沢生まれ。成蹊大学法学部卒。会社員を経て、93年「顔に降りかかる雨」で江戸川乱歩賞受賞。99年「柔らかな頬」で直木賞、2003年「グロテスク」で泉鏡花文学賞、2004年「残虐記」で柴田錬三郎賞受賞。98年に日本推理作家協会賞を受賞した「OUT」で、2004年日本人初のエドガー賞候補となった。2005年「魂萌え!」で婦人公論文芸賞受賞。著書に「水の眠り 灰の夢」「錆びる心」「ジオラマ」「光源」「玉蘭」「ダーク」「リアルワールド」「I’m sorry mama.」などがある。


物語の概略:

人生で一度の思い出にキューバへ旅立った女教師と不倫相手の教頭。帰国後待っていたのは、生徒の死と非難の嵐だった…。煌く(かがやく)7篇を収録。直木賞受賞後の著者の変遷を示す、刺激的で挑戦的な作品集。

主な登場人物:

<植林> 大阪でも東京でもいじめられっ子の自分。何がそんなに他人の憎悪をかき立てるのだろうか。グリコ・森永事件に自分が利用されていたことを知り生まれ変わる。

宮本真希(24歳)

医薬品や化粧品の安売り量販店にバイト。暗い顔のデブ女。コンプレックスが強すぎると言われたことある。
家では兄と兄嫁、香奈
(4歳)一家が転がり込んできて自分の領分が浸食されてゆく。

船井伸也

小学校の同級生。転校してきた真希をさんざん苛めた男の子。
「あれ以来暗い女になった元凶はおまえだ」と真希は思う。

<ルビー> ホヘムレスの中にルビーという女が共有物に・・・。
登喜夫(32歳) 上司と喧嘩1年前辞めてホームレスに。
イアン ダンボールハウスでのリーダー的存在。
ルビー 20代初めとおぼしき女。
<怪物たちの夜会> 別れる決心をするも妻と私のプライド合戦での結末は・・。
峰岸咲子(42歳) 女性誌のライター。田口との付き合い9年。

田口裕作(48歳)

父親、息子

咲子に対し、「咲子が一番好き、だけど女房とは離婚できない」と。
ルイ子 好奇心から咲子と裕作の不安定な状況に口だし。10年ほど前離婚、フラワーアレンジメント教室初めて成功。
<愛ランド> 三人の女性が海外旅行で行った告白ごっこ。
山本鶴子(48歳) 社のPR誌を担当。40代初めマンション購入、独身。地味で堅実。
野々村佳枝 中堅処の出版社に鶴子と同期入社。児童書の編集担当。派手で都内実家に住み、給料そのまま小遣いの独身。
森田菜穂子(34歳) 女性誌の編集担当。
<浮島の森>

伊藤藍子
夫 龍平
次女 直子
藍子の父親 北村敬一郎
藍子の母親 赤木日出子

藍子の父は「作家だからこそ・・悪人として生きる」と妻の日出子と離婚し、日出子は赤木祥吉と結婚する。(“妻譲り渡し事件”)
そして藍子の浮遊がはじまった。
・龍平は赤木祥吉を伯父にもつ。
・北村敬一郎は三度結婚。
・日出子が赤木と結婚したとき、藍子は北村の姓のまま一緒に暮らす。赤木を父とは呼べず。

赤木祥吉
妻 日出子

作家であり、詩人。和歌山の裕福な家の出。
写実小説「宝物譚」(赤木作品)が藍子を傷つけ、以降赤木は写実小説は書かなくなって文人としての赤木を弱らせた。

石鍋要 文壇社の出版部長。藍子が15歳の時藍子の性で火傷を負うことに。そして34年という時を経た今、藍子に「宝物譚」を読み、何でも赤裸々に書く作家の娘は何を考えて生きているのかを知りたい。心の中を語って下さいとせまる。
<毒童> 袈裟子の寺に見知らぬ親子が。その2歳の子の特技で義父が・・。夢の実現と意外な結末。

袈裟子(27歳)

義父
弟 正史

私生児の袈裟子。母と暮らすも寺は朽ちそう。
母の所に婿入りした義父が寺を救うも、正史が生まれると袈裟子は邪魔者に。

<アンボス・ムンドス>
浜崎あゆ(26歳) 2年前に赴任の新任の国語の教師。5年一組の担任。
池辺(46歳) 小学校の教頭。新任の浜崎の面倒をよく見る。妻子持ち。
小学5年一組の女の子たち

・金子サユリ ボス的存在の女の子。我が儘で、ませていて弁が立ち、クラスの子たちからは嫌われ者。
・青木玲子 典型的な優等生タイプ。サユリの敵。
・野口綾 家は裕福、兄は知的障害児でサユリからかっていた。
     玲子と綾は仲良し。
・服部清花、西村多佳子 二人ともサユリグループのメンバー。
     清花はませていてかなりの情報は清花が提供。
        多佳子は完全な付和雷同型。


読後感

 どの作品もかなりの重さを感じさせるものばかり。しかも何か反発的な物が感じられ著者の作家としての生き様が現れているそんな作品群である。
 中で特に印象深かったのは「浮島の森」と「アンボス・ムンドス」。

「浮島の森」は二人の作家たちの間での複雑な人間関係そして行為になんとなく引かれてしまい、人間関係を先ずスッキリ把握しようと関連図を書いて理解しようと思った。
 主人公の伊藤藍子が北村と別れて赤木と暮らし始めたその時期は今の直子と同じ年齢。その直子の表情の幼さを見、周囲の大人たちが自分に何を見ていたかが、やっと分かった気がしたことを思いやる。

「アンボス・ムンドス」では新任女教師が不倫の教頭との仲が知られることを恐れるあまり小学5年生の女の子に手を焼き怖れている。そしてその子が仲のよくないとされる2人と一緒に木振川に遊びに行ってサユリが崖から転落して怪我をしそして死ぬ。残りの4人が夜を明かして励ましていたという真相に迫ろうとするもそこに作意を感じながらも諦めて教師を辞め、今は塾の講師をしている。何か現在の教育現場を痛烈に批判している怒りを感じる。 

  

余談1:

 表題の“アンボス・ムンドス”とは“アンボス・ムンドス”の物語の中で出てくるがキューバのハバナに海外旅行したときに泊まったホテルの名前で「両方の世界」という意味らしい。

余談2: 

 和歌山の新宮に「浮島の森」という場所があるが、そのことの描写をみて思い浮かんだことがある。和歌山、新宮、浮島の森で連想されてきたのが以前読んだ辻原登の「許されざる者」ではなかったか。断片的にではあるが、新宮の街でうごめく物が頭の中に沸き上がってきた。面白いものである。

背景画は、作品中に記された和歌山新宮の名所浮島の森の案内図を利用。

                    

                          

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