桐野夏生著 『魂萌え』 




                   
2010-05-25


(作品は、桐野夏生著 『魂萌え』 (毎日新聞社) による。)

            
 

「毎日新聞」2004年1月から12月連載
 2005年4月刊行

 

桐野夏生(なつお):
 1951年金沢生まれ 成蹊大学法学部卒
 1993年「顔に降りかかる雨」で第39回江戸川乱歩賞


◇ 主な登場人物

関口敏子(59歳)
夫 隆之
(63歳)

隆之は定年退職後ゴルフと蕎麦打ちを楽しんでいる。
夫隆之の突然の死(心臓麻痺)により敏子の生活が大きく変化することに。 夫の裏切り、息子夫婦とのこと、娘の結婚のこと、相続問題、友達とのこと、恋愛のことなどどう立ち向かう?

息子 彰之
妻  由佳里

8年前ミュージシャンを目指し家を飛び出し渡米、結婚、古着屋の商売に。
由佳里の親は千葉で零細の運送屋。

娘  美保
恋人 マモル

マモルは前橋の酒屋の長男。 今は美保と同じコンビニのバイト。
伊藤昭子 隆之の10年来の不倫相手。 夫婦で蕎麦屋「阿武隈」を営む。

敏子の高校時代の同級生の友人たち:
山田栄子
西崎美奈子
江守和世

栄子: 40代で夫を亡くし以後独りで暮らす。 子供なし。 元々資産家の娘。
美奈子: 定年退職した夫(第2の職場に勤務)、30代の娘二人と未婚の息子があり、人一倍家族思い。 利殖にも長ける。
和世: 二歳年下の夫と気ままな生活。 自宅の1階を改装して服やアクセサリーを扱う。 気の置けない明るい人物。 敏子と一番気が合う。

蕎麦食べ歩き会の仲間
今井
(69歳)
塚本
(67歳)
小久保
(61歳)
(57歳)

蕎麦打ち教室の先生である今井が月一回食べ歩き会を催している。
塚本は元デパート業界にいて洒脱、陽性の男。
小久保は元リゾート会社勤務、倒産してあちこち渡り歩く。
辻は高校の国語の先生、現役。

野田
宮里

敏子は夫の死後のいらいらで独りになりたくプチ家出、初めて入った立川駅前のカプセルホテルの店員。
そこで出会った老女の宮里は長逗留中の“フロ婆さん”。その生い立ちを聞かせてお金をねだる。 野田の叔母に当たる。


物語の展開

 夫の急死後、たった一人で世間という荒波に揉まれ、漂流しつづける主婦・敏子。惑う心は何処へ。 ささやかな日常の中に豊饒な世界を描き出した、大反響の毎日新聞連載小説、待望の単行本化。

読後感:

 このテーマは全く自分の世代の現実感とほとんど同じような内容に驚き(但し、妻の立場での話であること、そして自分は不倫などしていないのでそこの所は違うとして)、果たして主人公の敏子がどう息子や娘に立ち向かっていき、自分の置かれた立場にどういう解決方法を模索していくのか大いに興味を持ち、また参考にするところが大きかった。
 
 連れ合いに突然死なれ、世間の荒波にも幸い揉まれず、純粋培養のように育ってきた自分を思い、果たして独りになった時の自分が孤独に耐えて生きていけるか?考えてしまった。また妻のことを考えた時、同じような内容の問題が発生し、どうやって生きていくのだろうかと考え、遺言なり何かしておかないといけないかと考えさせられたり、こんな小説もありなんだなあと今までそれほど類似の作品は読んでいなかったようなので新鮮な思いをしてしまった。

 


余談1:

 最近の幼時殺害事件が多発している点も、厭な世の中を象徴しているようでもある。

                  背景画は、季節の花黄色いボタンを配する。        

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