桐野夏生著 『メタボラ』  

                
2010-10-25

    (作品は、桐野夏生著 『メタボラ』    講談社による。)

                 
 
 

 初出 「朝日新聞」2005年11月28日から2006年12月21日
 本書 2007年5月刊行。

 桐野夏生(なつお)
 1951年金沢生まれ 成蹊大学法学部卒。
 1993年「顔に降りかかる雨」で第39回江戸川乱歩賞。


◇ 主な登場人物

磯村ギンジ
(記憶喪失後の仮の名前)本名:香月雄太

ネットで集まった自殺集団の最後の行為から逃げだし、沖縄の森の中をさまよう途中で昭光と会う。
そこから自分が誰なのか記憶を呼び戻しながらも、放浪の生活に流されていく・・・。

伊良部昭光
(別名 ジェイク)

宮古では建設会社オーナーの息子。オヤジから沖縄の独立塾に行かされるがたちまち脱走し、途中記憶喪失の男と遭遇する。
最後は宮古に帰る船賃だけ残し、ワイルドでクールで蔭のあるいい男を生かして漂流生活を楽しむ・・・。

ミカ

コンビニに勤める女性。ルームシェアの相手聡美と、昭光とギンジを連れてきたためトラブル発生。
その後ギンジとジェイクは別々の道を歩む。

“仲間石材店”

・社長 何か事情があるのでしょうとギンジを雇う。
・奥さん ギンジを社長に紹介、専務とギンジの弁当を用意する優しい女性。
・専務  社長の兄に当たる、ギンジを住まわせ、庭に石像を造るのが趣味。「好きな人間の像に見守られたいのだ。視線を感じて暮らしたいのだ。何という寂しさだろう」とギンジ。

“安楽ハウス”

沖縄国際通りのある木賃宿。ギンジ雇われる。
・釜田オーナー 内地から移住、選挙に打って出ようと。
釜田がテレビで集団自殺者もいると発言したことが波紋を呼ぶ。
・香織 釜田の結婚相手。東京の両親が亡くなり、沖縄に移ってくる。遺産や生命保険を選挙資金に拠出。
・リンコ ギンジと相部屋の仲間、やがてスタッフに。ギンジを好きと告白。

“パラマニ・ロッジ”

パラダイスマニアというコンセプトを共有する仲間が集まって飯と寝るとこ保証のボランティア宿泊施設。テント暮らし。
ジェイク、住み込みでのバイト先として参加するも、コンセプト理解せず、追い出される。
・イズム カリスマオーナー。

“ばびろん”

ホストクラブ、昭光、“ジェイク”としてここで働く。
・店長 天海優希紀 新城愛は店長の客。
・チーフ 麗
・師匠 礼温
客の飛びによる借金はホストの借金のルールがあり、ジェイク苦境に。

“エロチカ”

下地銀次が経営するバー。新城愛は銀次に尽くす。
・新城愛 昭光が中学高校時代に一番好きだった女。
銀次は昭光のにくい相手。


物語の概要

 なぜ、「僕」の記憶は失われたのか。 世界から搾取され、漂流するしかない若者は、日々の記憶を塗りかえる…。 孤独な魂の冒険を描く、全く新しいロードフィクション。 桐野夏生が新境地に挑んだ最新長編小説。

読後感:

 自殺集団から脱落し、記憶を失った磯村ギンジ(仮の名)、宮古出身の坊ちゃん育ちのジェイクこと伊良部昭光のふたりの主人公が沖縄というここでも本島と離島、内地と沖縄という差別も織り交ぜながら、漂流生活の有様、底辺の生活描写やたくましさ、人間の本質をさらけさせながら次第にお互いを求めていく。

 方言を織り交ぜ、何か放浪生活にあるものが不思議とひきつけ、読み進んでいくことが出来た。
 こんな生き方も出来るのかと・・・。

 後半になって記憶を呼び戻した香月雄太の家庭崩壊のいきさつ、さらに自殺集団に至る話はなんだか理解できる。父親の自殺の原因とその血が自分の身体にもに流れているのではないかという怖れ、柏崎での派遣労働者として同室の人間関係、心を通わせ会える人間との遭遇の喜びとその人との別れで次第に疲弊し自殺を考えるようになり背中を押されていく・・・。
 それを押しとどめてくれる人が側にいてくれたら、思いとどまることが出来たのに・・・。

 切なさ、人生経験、認められること、前向きに考える姿勢、鈍感さの必要さなど考えさせられる内容に、暑さも苦にならなくなってくる。
 
 読んだ後に残る何か重苦しい気分はなんなんだろう。自分の記憶が戻って香月雄太で生きるのか、磯村ギンジで生き続けたいのかの選択で選んだ人生は、限りなく暗雲を抱えながらのラストシーンにふたりの生き方を象徴するものでありそう。
 沖縄という場所、旅行者の放浪人生の人間模様、色々な問題が含まれた展開は興味深いものであった。



余談:

 自殺者の数が3万人との報道、働きたくても働くところもなく、お金もない、自分勝手で集団生活に適用しない人間も多く、なにか自分にも当てはまる内容も多い主人公。
沖縄旅行を計画し、離島や本島の国際通りのことを調べた結果、記されている場所とか非常に身近に覚え、いっそう親密感があった。

        背景画は、本作品の描写舞台のひとつ沖縄本島の国際通りの風景。

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