物語の概要:
『OUT』
雅子、43歳、主婦。弁当工場の夜勤パート。彼女は、なぜパート仲間が殺した夫の死体をバラバラにして捨てたのか?自由への出口か、破滅への扉か?四人の女たちが突っ走る荒涼たる魂の遍路。魂を揺さぶる書下ろし犯罪小説。
『 IN 』
彼は、小説に命を懸ける、と何度も言った。小説は悪魔ですか。それとも、作家が悪魔ですか…。恋愛の「抹殺」を書く小説家の荒涼たる魂の遍路。『OUT』より12年目の衝撃、桐野夏生の最高傑作。
読後感:
『OUT』
バラバラ死体殺人の描写、冷血なヤクザ上がりの佐竹光義のなぶり殺しの描写は想像するだけで眉をひそめるものである。それなのにどうしてこのようなことをしでかしたか、そしてその後の四人の女の生き様、境遇の描写から、そんなたいそれたことをせざるを得なかったことと納得してしまうような出来映えである。
新宿署刑事の地道な捜査から次第にばらされていく過程で、四人の女の家庭の状況、人格、生きざまが作品に厚みを感じさせ、刑事物としての読み物としても面白い。
一方で女をなぶり殺したことからその後の自分が変質してしまい、さらにバラバラ死体事件によって周囲に自分の過去がばれてしまい、商売もだめになり、真犯人捜しに取り組むようになる。刑事の追求の他に、恐ろしげな男の追求が果たしてどのような結末になるか・・・。
雅子の自由になりたいという不確かなもの、佐竹の眼に宿る沼のようなものそんなことも読者を引き込んで物語は展開していく。読み終わった後救われるものがあるのか・・・。
『 IN 』
作品中に「無垢人」の小説が載せられているが、これを読んでいるとふと夏目漱石の作品群(「こころ」や「明暗」など)を読んでいるような気持ちにさせられた。 そして元の作品に戻ると明らかに雰囲気が違っている、小説の中の小説というのも面白いものだ。 書く方の感覚は果たしてどんなものなのか知りたいもの。
今まで読んだ桐野夏生の作品とこの作品はぜんぜん異なる感じで、いよいよこういう心境に達したのかと、丁度高村薫の作品で「晴子情歌」「新・リア王」「太陽を曳く馬」の三部作にあたるように思えた。
作品を読んでいる内に、「無垢人」の〇子探しで緑川家未来男と妻の千代子の夫婦関係、未来男と〇子の関係にのめり込んでいく中で、ふとタマキと青司の関係は未来男と千代子の関係と同じなのではという感覚になってきた。
恋愛の抹殺をという言葉、涯てをみてたいという欲求に物語の後半で86歳で存命の千代子夫人にインタビューをして明らかにされる「無垢人」の真実、7年間の、作家と編集者そして恋愛関係にあった後別れざるをえなくなり、変貌してしまった青司が蜘蛛膜下出血でこの世から消えようとしていくなかで、青司の幻を体感するタマキの苦悩、文句なしに興味深く読んだ。
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