川村元気著 『世界から猫が消えたら』
 







                2013-06-25


   (作品は、川村元気著 『世界から猫が消えたら』 マガジンハウスによる。)

                  
 

 本書 2012年(平成24年)10月刊行。
 

  川村元気:(本書より)

 1979年生まれ。映画プロデューサーとして「電車男」「告白」「悪人」「モテキ」「おおかみとこどもの雨と雪」などを製作。2010年、米The Hollywood Reporter誌の「Next Generation Asia 2010」に選出され、2011年には優れた映画製作者に送られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。現在Casa BRUTUS誌にて「Tinnyふうせんいぬテイニー」を連載中。本書が初の著作。

物語の概要: 図書館の紹介より

 今日もし突然チョコレートが消えたなら、電話が消えたなら…。30歳郵便配達員、余命あと僅か。陽気な悪魔が僕の周りにあるものと引き換えに1日の命を与える。僕と猫と陽気な悪魔の摩訶不思議な7日間が始まった。


主な登場人物:

僕(主人公) 30歳の郵便配達員。末期ガンの宣告を受け、余命半年ほど、もしくは1週間後かも。悪魔が現れ、僕に取引を提案する。
母親 4年前亡くなる。母の仕合わせは何だったんだろうか?
父親 父は小さな時計屋を営む。母親が亡くなった後父親とは会っていない。

悪魔
(アロハと呼ぶ)

僕と同じ顔をした人間の姿で現れる。取引を提案、“何かを消せば1日命を延ばしてあげる”と。

愛猫
 レタス
 キャベツ

レタス: 母が拾ってきた猫。11年生き静に死ぬ。
キャベツ: レタスが亡くなって1ヶ月程して再び母が拾ってくる。

彼女 3年半の付き合い、一緒に初めての海外旅行に行き、その時遭った出来事の後、自然と別れる。母は大層気に入っていた相手。

 読後感

 この作品、題名を見た時どういう作品なのかと疑心暗鬼に。エッセイなのか、物語なのか?読み進むに連れ、両方兼ね備えたものなのかと。
 でも最初に30歳の若者(主人公)が末期ガンで余命半年ないし1週間後になくなるかもの状態。死を直前に控え、果たしてどう処理するのか、自分にとっても死は避けられない年齢を迎え、どう立ち向かうか真摯な気持ちになる。

 そんな中、悪魔との取引で何かを無くすことで1日の延命を与えられるという。ちょっとあり得ない話ではあるが、でも果たしてそういう状態になった時、母親がよく口にしていた言葉「何かを得るためには、何かを失わなくてはね」ということはすごく説得力があり、素直に受け入れられる。
 果たして失うことになって今までのことが本当にどうだったんだろうと投げかけられている。あまりにも当たり前になってしまっていて、改めて死を前にして考え直してしまう。

 小説の中で、死を前にそれまでにしたいこと10のアイテムをあげるところがある。
 自分の場合はどうなんだろう。色んなことを考えさせられる。
 中に記述されている例えば初恋の人に会いに行っての話、母親の死をむかえての最後の旅のこと、レタスとキャベツという愛猫とのこと、じめじめした話ではなく、さらっと、むしろ明るい展開はかえって胸に響いてくるものがある。

 著者の素性を知りたくなる。なるほど、今までの仕事は小説家ではなくて映画プロデューサーか。人の内に潜む響きに敏感なのがよくでている作品である。



 印象に残る表現

 死の最後に初恋の彼女に会いに行ってのやりとり:
 
 不思議なものだ。恋愛が始まったときに、彼女と終わる日が来ることなんて想像できなかった。自分が幸せなとき、彼女も同じように幸せなんだと思っていた。でもいつしか、そうではなくなるときが来るのだ。自分が幸せでも、相手が苦しんでいるときが来るのだ。
 恋には必ず終わりが来る。必ず終わるものと分かっていて、それでも人は恋をする。
 それは生きることも同じなのかもしれない。必ず終わりが来る。それと分かっていても人は生きる。恋がそうであるように、終わりがあるからこそ、生きることが輝いて見えるのだろう」
 

  

余談:

 作品の中の“世界から映画化が消えたなら”に、最後に見たい映画という内容に、イタリア映画の“道”が出ていた。
 不思議なことに“道”は小さい頃見たんだろうと思うけれども、内容は勿論覚えていない。けれどもあのジェルソミーナを演じていたジュリエッタ・マシーナの顔が断片的に思い出される。 映画音楽の性なのかも知れないが、自分にとって最後に見たい映画って何なんだろうか、最後にもう一度読みたい本って何なんだろうかと思ってしまった。

 背景画は、武田花著「イカ干しは日向の匂い」からのフォトを利用。何故か本作品を読んでいる内にこの「イカ干しの匂い」のフォトを使おうと思い立った。何気ない猫の姿を撮った白黒の写真が印象的であった。

                    

                          

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