2004-05-20 | |
(作品は、ほるぷ出版による) ![]() まず、信吾の年齢、息子修一、娘房子がいる条件等、自分の状態とかなり身近ということもあり、この作品に興味が持たれた。 |
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主な登場人物とその相関関係、およびバックグランド: |
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心に残る一言: ◇ 房子が相原の家を、子供を連れて田舎の実家に出た時の、信吾の言葉 「そういつまでも、親が子供の夫婦生活に、責任が持てるものかね。」 ◇ 保子が年寄り夫婦の、養子夫婦と孫に当てた遺書の新聞記事を、信吾に聞かせたときの、信吾の疑問 夫婦で自殺をするのに、夫が遺書を書いて、妻は書かない。妻は夫の代わりをさせるか、兼ねさせるというのだろうか。保子が新聞を読むのを聞いていて、信吾はこの点に疑問を持ち、興味を持った。 ◇ 菊子が流産をしたことを、信吾が修一から聞かされて 「それは菊子の、半ば自殺だぞ。そうは思わんのか。お前に対する抗議というよりも、半ば自殺だぞ。」 「お前は菊子の魂を殺した。取り返しがつかないぞ。」 |
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作品に出てくる三つの声: ◇ 信吾に死期を告知された「山の音」 八月の十日前だが、虫が鳴いている。木の葉から木の葉へ夜露の落ちるらしい音も聞こえる。そうして、ふと信吾に山の音が聞こえた。鎌倉のいわゆる谷の奥で、波が聞こえる夜もあるから、信吾は海の音かと疑ったが、やはり山の音だった。 ◇ 昔のあこがれの人の声を夢うつつに聞かせた「海鳴りの声」 (熱海の宿で、信吾は海鳴りのような遠い音が聴こえ、) 「信吾さあん、信吾さあん。」という呼び声をゆめうつつにきいた。そう呼ぶのは、保子の姉しかない。 ◇ 信吾の心を洗いその危機を回避せしめた「天の声」 「うん、わたしもね、自分の女房が自由とはどういうことだと、修一に反問したんだが・・・。 よく考えてみると、菊子はわたしからもっと自由になれ、わたしも菊子をもっと自由にしてやれという意味もあるかもしれないんだ。」 「わたしって、お父さまのことですの?」「そう。菊子は自由だって、わたしから菊子に言ってやってくれと、修一が言うんだ。」この時、天に音がした。 ほうとうに信吾は天から音を聞いたと思った。 この三つの声の挿話を散りばめたのが、意図したこととは思えないとしても、見事である。(参考 この本の解説 山本健吉氏評) |
余談: 背景画像には、作品の中に出てくる寒桜の木を配した。 |