片山恭一著 『静けさを残して鳥たちは』



              2018-08-25



(作品は、片山恭一著 『静けさを残して鳥たちは』    文藝春秋による。)

          

 
 本書 2010年(平成22年)6月刊行。書き下ろし作品。 

 片山恭一:
(本書より)
 
 
1959年愛媛県生まれ。1986年「気配」で文學界新人賞を受賞し、デビュー。主な作品に「きみの知らないところで世界は動く」「ジョン・レノンを信じるな」「世界の中心で、愛をさけぶ」「遠ざかる家」「宇宙を孕む風」などがある。   

主な登場人物:

白江葉子
<旧姓 赤沼>
夫 信幸

信幸が失踪後、福岡の自宅でピアノ教室を開いている。母親の認知症の介護をしていたが、酷くなり施設に入れる。6歳の時の事故で足が不自由に。
両親及び祖父母の二世代の夫婦の有り様を経験して自信をなくしている。
・夫の信幸 出版社に勤務、美術雑誌の編集に携わっていたが、2001年9月ヴェネツィアビエンナーレの資材終え、ローマに滞在中7年程前失踪。
編集部から骨笛が葉子の元に届く。

白江信幸

大学で白江、青柳、小松崎とクァルテットを組んでいた。大学4年の夏休み、出版社に内定の白江が大学院に進む青柳を長崎の五島に旅行誘う。
青柳は途中福岡で赤沼葉子を白江に紹介、その後白江と青柳がひっそりと交際を続けていて結婚。

赤沼紀子 葉子の母親。ピアニストを目指していたが、指を痛め断念。娘のレッスンに生きがい。
青柳光太郎

都内の大学教授。結婚は失敗。蘭a淑との付き合いにセクハラ騒ぎが。
青柳と赤沼は遠い親戚関係。小学5年生の時葉子が転校してきた。
赤沼の家にピアノのレッスンに通う。その娘葉子は妹みたいなものと。

蘭a淑 中国からの留学生。青柳教授と付き合っている。

土田朱音
父親 徳明

白江から従妹のようなものと紹介された青柳の元恋人。青柳の妻は青柳に「あたしを見つめる時、その目に映っているのは誰か別の人なの」と離婚に。
・徳明は白江の両親と接点がある。横浜の中華街で店を出していたが、遺品として多数の絵の贋作を所持していた。

黒岩幹吾

青柳の小学校の同級生。山の中にアトリエを構え、木彫りをやっている。
急激な視力低下で完治望めず、この先のことに不安を抱いている。葉子の足が不自由になったのは幹吾のせい?

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 葉子の夫は、仕事でローマに行ったまま失踪。葉子の運命は、また幼なじみ青柳、黒岩らが抱え込んでしまった人生の行方は。東京、福岡、四国、五島、ローマ、ヴェネツィア、パリを結ぶ、愛と愛の不在の物語。     

読後感:

 心に心配事や体調に不安も無く、ゆったりとした気分の時、晴れた日の木陰で、また雨の日の静かな部屋で読んでいたくなる作品といったところ。
 表題の「鳥たち」とは主人公たちのことを指しているのか、白江葉子、青柳光太郎、黒岩幹吾の人生そのものが、現在の状態を起点に、幼少の頃の出来事から、両親とのこと、祖父母とのこと、結婚相手のこと、恋人とのこと、自身の不安、これからのことといった色々なことが、描写されていて、いきおい読者である自分自身の生い立ちをも思い起こすことになる。

 その中で例えば認知症のこと、音楽に関する知識、美術に関する知識、うつに関することなど色んな事を知り、また自身が今感じていることを再確認する機会でもある。
 
 白江信幸の失踪から7年、夢の中なのか、幻覚なのか、青柳がイタリアのヴェネツィアで体験した白江と覚しき男とのやり取り、黒岩の四国の小さな村での鬱屈と村を出てのパリでの絵画との関わり、葉子との鳩の事故をきっかけに(?)に変わっていったこと、葉子の厳しかった母親との関わり、また青柳の土田朱音との愛の別れ、教授となっての教え子の蘭a淑とのセクハラ騒ぎ、白江が失踪してから7年になるも葉子の妊娠、出産、母親の認知症と葬儀を迎える様子、黒岩の糖尿病から視力を失うことにと実に色んな事が展開していき、死が重苦しくまとわりついてくる。

 びっしりと書き込まれて530ページの長編にもかかわらず、淡々と読み切ってしまったことに充実感としっかりと生きなければの思いが残った。
  
余談:

 そう言えば「世界の中心で、愛をさけぶ」という映画があってその原作者が片山恭一だったかなと思い出す。調べてみたらその作品、村上春樹の「ノルウェイの森(上)」を超え、日本国内小説の最大発行部数を記録とか。 
背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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