カルロス・ルイス・サフォン著
                          『風の影』




                      
2012-10-25



 (作品は、カルロス・ルイス・サフォン著『風の影』 集英社文庫による)  


             
 

 本書 2006年(平成18年)7月刊行。

 カルロス・ルイス・サフォン:(本書より)
 
 1964年、スペインのバルセロナ生まれ、ロサンゼルス在住。執筆活動のほか、フリーランスの脚本家としても活躍。1993年のデビュー作「霧の王子」でエデベ賞を受賞。本書は5作目の小説で、フェルナンド・ララ小説賞準賞(2001年)、リブレテール賞(2002年)、バングアルディア紙読者賞(2002年)を受賞。
 
 木村裕美:
 東京生まれ、上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。翻訳家、マドリード在住。

主な登場人物たち

ダニエル
父 センペーレ
母 没

古書店(「センペーレと息子書店」)の店長(父 センペーレ)の息子。ベアトリスを愛している。フリアン・カラックスの「風の影」の本を入手したことでフリアンのことを調べ出す。
母はダニエルが4歳の誕生日にコレラでなくなる。
住居はバルセロナの旧市街サンタアナ通りの集合住宅。

フェルミン
(フェルミン・ロメロ・トーレス)

「センペーレと息子書店」の店員。書籍アドバイザー。
父親センペーレの恩を感じ、ダニエルに協力、またダニエルの恋愛術の先生でもある。
フメロとの因縁から、フメロの執拗な追跡を受けている。

グスタボ・バルセロ
姪 クララ
家政婦 ベルナルダ

父(センペーレ)の古くからの友人。古書店主。
姪のクララは目の見えない白い貴婦人。ダニエルにとって憧れの人。クララの母が心臓病でなくなり、伯父のグスタボの所に身を寄せている。
ベルナルダはフェルミンの愛しの女性。

トマス
(トマス・アギラール)
ベアトリス
(ベアトリス・アギラール)

ダニエルと幼なじみの友達。気弱で無口な大男。発明狂。
ベアトリス 友人トマスの妹。ダニエルの愛しい女性。少尉の恋人がいる。

フメロ
(フランシスコ・ハビエル・フメロ・アルムニース)

バルセロナ警察の刑事部長。
聖ガブリエル学園での仲間達(フリアン、ミケル、ホルヘ、フェルナンド、フメロ(守衛の子))。ペネロペを遠くから食い入るように見つめる。そしてフリアンがペネロペとキスをしているのを目撃、フリアンを猟銃で撃とうと。
フリアンの小説を全て燃やしてしまう男としても。

イサック
娘 ヌリア・モンフォルト

「忘れられた本の墓場」の管理人。
ヌリア 元出版者の社員。
パリ出張でフリアンと2週間下宿先で同泊、フリアンに夢中に。しかしヌリアのダニエル宛手記でフリアンにまつわることが明らかに。

フリアン・カラックス
父 フォルトゥニー
母 ソフィー

バルセロナ出身の謎の作家。「風の影」の著者。
フリアンはペネロペを愛していて駆け落ちを計画、ミケルの手助けでパリに逃亡、一方ペネロペは父親にばれて部屋に閉じこめられて行けず。フリアンのパリでの逃亡生活がはじまる。
・フォルトゥニー フリアンの父、帽子店主。
・ソフィー フリアンの母。リカルドとの関係を秘密に。

イレーヌ・
(イレーヌ・マルソー)

パリの娼館の女主人、フリアンの支援者。

リカルド・アルダヤ
娘 ペネロペ
長男 ホルヘ
家政婦 ハシンタ

バルセロナの大財閥。好色家。
ペネロペがフリアンと親しい関係にあることに何故か激怒。
ペネロペ
ホルヘ フリアンに決闘を挑む。
ハシンタ ペネロペとフリアンが愛し合っていることに理解、しかしリカルドの怒りをかい、精神科の医療施設に閉じこめられる。

フェルナンド 聖ガブリエル学園出、神父に。
ミケル・モリネール ジャーナリスト。フリアンの親友。ヌリアがフリアンを好きと知りながらプロポーズ。ふたりでフリアンの行方を捜す。
 (補足) バルセロナ スペインの首都マドリードに次ぐ大都市。

読後感:
 

 なかなか難解なミステリーもの?の印象である。「風の影」と言う小説と、その著者であるフリアン・ラックスの謎に包まれた生い立ちとか小説自身の中味がいまいちすっきりとしないまま、物語が展開していく。
 謎の不審人物(カラックスの小説を全て燃やしてしまうという)“ライン・クーベルト”が「風の影」の登場人物の名前と同じとか、ホルヘの声と同じだったとか、とにかく「風の影」という小説がどういうものなのかが、「風の影」という本小説を読んでいて困惑してしまう上巻である。

 おもしろいのは、元役人でホームレスであったフェルミンが古書店に雇われ、その人物の生き方がとても生き生きとしていていいことが今のところこの小説を引き込ませている。
 果たして下巻になってどんな風に展開していくかに興味を引かれる。

 さて下巻に来て小説の全容が少しづつ、部分部分が明確になってきて、そして全体像が見えてくる。やはりこの小説も人物の関連、時の流れ、時にフリアンが中心となっている部分と、ダニエルが中心となっている部分の関連が判って、もう一度初めから物語を読み返すと、初めてこの小説の面白さが判るような気がする。
 ちょうどフリアンとダニエル、ペネロペとベアトリス、ホルヘとトマスが時代を20年ほどはさんで平行に走っているように展開していることに気づく。

 何故ならこの作品、世界中で読まれ、数々の賞を取っていることでもそれがわかる。最初はどうして?と思って読んでいたが、下巻になってきて真相が分かるに従って俄然おもしろくなってきたことからも。
 海外の作品てどうやらこういうのが多いような気がする。

 登場人物の蘭で全体の流れを理解した上で、作成することにした。
 フメロという悪役?が異彩を放っているようだ。
 ラストのシーンは壮絶、一気にそれまでのパワーが全開の感じである。


余談:

“ベアは、本を読むという行為が少しずつ、だが確実に消滅しつつあるんじゃないかと言う。読書は個人的な儀式だ、鏡を見るのと同じで、ぼくらが本のなかに見つけるのは、すでにぼくらの内部にあるものでしかない、本を読むとき、人は自己の精神と魂を全開にする、そんな読書という宝が、日に日に希少になっているのではないかと、ベアは言う。”
 若い頃読書をほとんどしていなかったのが今となってもったいないことをしたと後悔しきり。

背景画は本書にも出てくるフランサ駅のフォト(インターネットから)を利用。

                               

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