角田光代著 『対岸の彼女』






                
2011-02-25



(作品は、角田光代著『対岸の彼女』 文藝春秋による。)

               
 

 初出 別冊文藝春秋 2003年11月から2004年7月掲載。
 本書 2004年11月刊行。
 2005年第132回直木賞受賞作品。

 

 角田光代(かくたみつよ)
 1967年神奈川県生まれ。 早稲田大学第一文学部卒業。90年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞、96年「まどろむ夜のUFO」で野間文芸新人賞、98年「ぼくはきみのおにいさん」で坪田譲治文学賞、「空中庭園」で婦人公論文芸賞、05年「対岸の彼女」で直木賞、06年「ロック母」で川端康成文学賞を受賞。その他の著書多数。


主な登場人物:
 

田村小夜子
(35歳)
夫 修二
娘 あかり

文学部英文科卒、結婚して5年、あかりを産んで3年。
公園デビューを果たすもあかりは自分と同様、無邪気に仲間に入っていくことが出来ず、いじいじと声を掛けられるのを待っている性格。 公園巡りで悩んで、葵の会社に働きに出る。

楢崎葵

小学校時代親しい友達がいない、中学時代いじめにあい、中2で不登校、横浜から母親の実家のある群馬に引っ越す。
高校の入学式で野口ナナコに声を掛けられ、それ以降学校の外で親しく付き合う。
小夜子と同じ大学哲学科卒。
葵、結婚して子供を産むのは怖いと小夜子に打ち明ける。

野口魚子
(ナナコ)
学校ではグループに属さず渡り歩く。一人でいること全然怖くない、そんなとこにあたしの大切なものはないと葵に。
中里典子

「アットホームサービス」の掃除代行会社の社長。波瀾万丈な人生を歩み、お母さんになってから肝っ玉キャラに変身。
小夜子、葵の会社に見習いで入り、中里典子にお掃除代行業務の仕事を教わる。

物語の概要:(図書館の紹介文より)
  
 
30代、既婚、子持ちの「勝ち犬」小夜子と、独身、子なしの「負け犬」葵。性格も生活環境も全く違う2人の女性の友情は成立するのか。現代女性の抱える悩みと葛藤の核心に迫る話題作。
 

読後感:

 小夜子とその子あかりの性格が自分を含め娘と孫の性格にうり二つ。 思わず作品の中に引っ張り込まれる。 一方、相手が葵と小夜子の間では葵の気さくでこだわりのない明るい性格に自らも躊躇することなくのびのびとおしゃべりが出来てしまう。
 ところで、葵の中学、高校時代の話が交互に展開するが、その時代の葵は野口ナナコという丁度小夜子の前にいる葵に匹敵するような友達の存在が葵をいじめを怖れる性格から救ってくれる。 多分そんな葵が成長して、小夜子の相手の葵の姿かなと思ったり。

 そんななか、図書館の紹介文を読み違和感を覚える。勝ち組の小夜子と負け組の葵と。
 この後の展開でそんなことになるのか?

 葵と野口ナナコの高校時代の展開が意外な方向に。 夏休み二人で伊豆のペンションにアルバイトで行って終わった後のナナコが帰りたくないと言い出す。 なんだか気持ちが分かる気がして何とも言えない感情になってしまう。 その後の二人の行動は結局こんな風に展開することとなるのか?

 そして物語の終盤で現実の田村小夜子と楢崎葵があの葵とナナコの事件の人物とわかり、葵の素性を知り小夜子も皮肉を言って別れることとなる。 しかしその後の展開は再び専業主婦になって小夜子は以前とは違うがふたたび主婦仲間の会話にいくつも年齢を重ねたのに、高校生の頃とまったく変わらない姿を見、何のために私たちは年を重ねるのかと思う。 そしてその後の行動は・・・


印象に残る場面:
 

・小夜子が葵の部屋を初めて訪れたときに、何でも話す雰囲気でのなか、「私たちの世代はひとりぼっち恐怖症だと思わない?」と葵が言って:

「私さ、子供のとき、友達ができないのは悪いことだってずっと思ってた。 なーんか、そう思うことってけっこうつらいんだよね。 それでね、子供いたりしたら、またそういう思いこみ持って、子供に押しつけちゃいそう。 子種見つけてから言えって感じだけど」 あはははは、と葵は高らかに笑う。
・・・・・・・

「私はさ、まわりに子供がいないから、成長過程に及ぼす影響とかそういうのはわかんない、けどさ、ひとりでいるのがこわくなるようなたくさんの友達よりも、ひとりでいてもこわくないと思わせてくれる何かと出会うことのほうが、うんと大事な気が、今になってするんだよね」


   


余談:
 角田光代作品って、含蓄が深いというか心に響くものを感じさせてくれる。 気持ちが落ち込んでいるときに読みたくなる。
背景画は本作品の内表紙を利用して。
 

                               

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