角田光代著 『笹の船で海をわたる』










              2018-11-25
(作品は、角田光代著 『笹の船で海をわたる』    毎日新聞社による。)
          
  初出 「サンデー毎日」2013年1月27日号〜12月29日号。単行本化にあたり加筆修正。
  本書 2014年(平成26年)10月刊行。

角田光代:(本書より)
 
 
1967年、神奈川県生まれ。90年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。96年「まどろむ夜のUFO」で野間文芸新人賞、97年「ぼくはきみのおにいさん」で坪田譲治文学賞、2003年「空中庭園」で婦人公論文芸賞、05年「対岸の彼女」で直木賞、06年「ロック母」で川端康成文学賞、07年「八日目の蝉」で中央公論文芸賞、11年「ツリーハウス」で伊藤整文学賞、12年「紙の月」で柴田錬三郎賞、「かなたの子」で泉鏡花文学賞、13年「私のなかの彼女」で河合隼雄物語賞を受賞。他に小説やエッセーなど著書多数。      

主な登場人物:

坂井左織
(夫 春日温彦)

姉 喜久子
母親 

小学生の時修善寺の疎開先で矢島風美子と同じ旅館住まいだったらしい。22歳の時銀座で風美子から声を掛けられ付き合い始める。
春日温彦と結婚後、百々子と柊平
(しゅうへい)の二人の子どもに恵まれる。
・兄 年の離れた兄は関西に。
・喜久子
大学院学生であった温彦と左織の交際には反対していた。
    娘:玉絵

矢島風美子
(夫 春日潤司)

キャバレー勤めから結婚後は潤司が働かない為色々と、今は料理研究家として雑誌やラジオで有名に。子どもは出来ないので左織に、将来百々子か柊平のどちらかをもらえない?と。

春日温彦
(妻 左織)
(子供 姉:百々子)
(子供 弟:柊平)
弟 潤司
(妻 風美子)
母親 澄代

・温彦 大学の教師。学生達には人気がある。
 ・左織 春日家の母親として風美子のことを頼ったり、疑念を持ったり。
 ・百々子 風美子になつき、左織をいらだたせる。
 ・柊平
(しゅうへい) 優しいし、家庭を和ませる役。
・潤司 定職にも就かず、酒に身を壊すことに。母親に猫可愛がりのせいで、弱さ。妻の風美子に中身を持って行かれたような人生。 ・風美子 外での活躍で夫を養っている。周りから非難されても強い人。
・澄代 潤司を猫可愛がり、風美子との結婚には水商売の女、戦争孤児と言って反対、結婚後も風美子に対しての悪口減らず。

芹沢麻理 風美子が疎開時潮騒の部屋の班長。風美子は壮絶な程いじめを受けた。
松下久子 左織が疎開時夕凪の部屋の班長、左織は副班長だった。久子は何でも仕切る支配的性格。
小野寺タエ 左織が疎開時の部屋にきたおっとりとした女の子。「なんで?」「どうして?」と鈍いのか、図太いのかに苛立ち、左織も物置に閉じ込めるいじめを。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 疎開先が一緒だった縁で、義姉妹になった主婦の左織と料理家の風美子。人生が思い通りに進まないのは、この女のせいか…。角田光代が挑む、戦後昭和を生き抜いた女たちの物語。       

読後感:

 戦争で親から離れ疎開先で過ごしたつらい時代を背負った経験を持つ二人の女性、坂井左織と矢島風美子が二十年ぶりに再会し、それがきっかけで義姉妹になる運命に。
 時代の変化の描写が入りながら、それぞれの夫婦、家庭の織りなす人間関係、人生の移ろいが描かれている。その中でも左織は、風美子に対しては風美子に頼り、感謝しながらも疑いの念を持ち続け、畏怖さえも抱いている。果たして風美子の本音はどこにあったのか。

 左織が、家庭の中での夫春日温彦の頼りなさも、子供達が大人になるに従って達観した大人の感じが滲み出てきたし、子供達の風美子との距離感が、左織に対してよりももっと母親らしいと感じ、ますます風美子に負い目を感じる。母親失格の感を抱くようになる姿は痛ましい。

 娘がニューヨークに留学する出発の日に、百々子から放たれる言葉が左織に大きなショックを与える。
「私のことがずっと嫌いだったでしょ。柊平みたいに率直でもかわいくもないからね。ふーちゃんに私のことあげるって言ったでしょ。私は見えないかもしれないけど、いないわけじゃないの。傷つくし血も出る生身の人間なの」には、子供からこんなこと言われたら泣きたくなってしまうだろう。

 風美子の夫潤司は定職にも就かず、風美子に生かされている自分を病室で左織に告げた姿のことも、それぞれの立場で人生の何であったのかを提起されているようだ。
 
 風美子の生き方の根っこは、幼い頃のあの疎開先の出来事と言うことに対して、左織は過去の忌まわしいことは忘れてしまいたいと思う。
 昭和から平成にかけ生きた左織と風美子の生き様は、それぞれ夫を亡くし、二人で一緒に暮らそうと提案する風美子に対し、子供達にも見放され一人で気楽に暮らそうと達観している左織のこれからのよすがは果たしてどういう風になるのだろうか。余韻を残して物語は閉じた。
  

余談:

 二つの家庭、しかも義姉妹をめぐるそれぞれの家庭の移り変わりが展開、それぞれの事情と過去の疎開先での出来事がまとわりついていて、時代が変わっていく中、左織は昔のままの生き方、考え方にとらわれている。

 一方風美子は根っこは疎開先でのことを忘れないで、しかし柔軟に変化、嫌われ、非難されても旨く耐えて乗り越えていくたくましさを持ち合わせている。
 それぞれの女性の生き方が読者に自分の人生へのメッセージを伝えているようだ。
  
背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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