角田光代著 『森に眠る魚』







                      
2012-05-25

(作品は、角田光代著『森に眠る魚』 双葉文庫による。)

            
 

 初出 2008年(平成20年)12月、双葉文庫より単行本刊行。
 本書 2011年(平成23年)11月刊行。

 角田光代(かくたみつよ):
 1967年神奈川県生まれ。 早稲田大学第一文学部卒業。90年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞、96年「まどろむ夜のUFO」で野間文芸新人賞、98年「ぼくはきみのおにいさん」で坪田譲治文学賞、「空中庭園」で婦人公論文芸賞、05年「対岸の彼女」で直木賞、06年「ロック母」で川端康成文学賞を受賞。その他の著書多数。

主な登場人物:
 

繁田繭子
(しげたまゆこ)
夫 祐輔
一人目 怜奈

夫の父親の遺産分配で6階に江川かおりの住む中古マンション4階に引
越す。江川かおりの生活レベルとは激しく違う。
性格は開けっぴろげで飾るとこなく、無頓着。怜奈、桃子、茜は同じ年に生まれる。

久野容子
夫 真一
一人目 一俊
二人目 流産

この町に住んで4年、マンション住まい。夫とは4年前に結婚、夫の真一、業務用の調理器具の営業(サービス業と称す)。
3歳になる一俊は、人見知りを心配するも、聖栄幼稚園に入園。

高原千花
夫 賢
一人目 雄太
二人目 桃子

14階の真新しいマンションの12階、フロアに二世帯しかいない。スポーツクラブの会員、車も持つ。
くったくなく陽気で人に気を遣い、それでいながら気を遣っていることを悟らせない、女優さんみたいにお洒落で明るく気さく(と容子評する)。
雄太は引っ込み思案の性格。
雄太と光太朗同い年、一俊と同じ聖栄幼稚園。

小林瞳
夫 栄吉
一人目 光太朗
二人目 茜

今年の秋で33歳、臆病で慎重で不器用で敏感すぎるところあり。ボランティアグループに入ってやっと救われた気持ちであったが、結婚をし、大きく変わってこれたと思う。

江川かおり
夫 護
一人目 衿香

6年前に出版誌を辞めている。
衿香、第一希望の女子校付属の私立幼稚園に不合格であった。いまは私立の小学校に通う。不登校気味のことを夫に話せないでいる。
夫の護は末っ子で争うことを何よりも嫌い、やさしくて臆病で経済以外では頼りにならない人。

田山大介 以前かおりが働いていた出版社(女性向けファッション誌や情報誌)の上司(妻子持ち)。今も付き合っている。

物語の概要:(図書館の紹介より)

 東京の文教地区の街で出会った5人の母親。育児を通して互いに心を許しあうが、その関係性は徐々に変容していく…。凄みある筆致であぶりだした母親たちの深い孤独と痛み。母子小説の衝撃作。


読後感:

 五人の同世代の女主人公たち(いずれも幼い子供を持つ母親)の何でも話し合い悩みを相談しあえる親しい友達を持ちたい、でもそれぞれの生き方の違い、考え方、生活レベルを含めた環境などの違いを気にしながら、言葉を交わす内にお互いを知ったり、離れたり、分かり合ったりと、女性の心情の深みを鋭く描ききる意味深な小説である。

 そして特に子供の教育、育て方をとっても、それぞれ疑心暗鬼に陥り、相手がそんな風に意識していないことも、忖度して違った受け取り、推量をして落ち込んだり、反発したり批判しあったりと鋭い視線でお互いの立場で描写されていることに女性という生き物の恐ろしさ、気の重くなるような感情がわいてくる。特に受験に関してのお互いのさぐり合い、疑心暗鬼、孤独感が空恐ろしい。
 男たちの知らない、女性というより母親の関心ごと、悩み、世の中の問題点をみごとにあぶり出している。
 これもまた今まで読んでこなかった種類の物語であった。

   

余談:
 
 自分の世代はこんなにもひどくはなかったんじゃないか、今の世代の母親、子供にとってなんと可哀想な風潮か。
背景画は作中に話題の幼稚園のお受験風景をイメージして。
 

                               

戻る