垣根涼介著 『ワイルド・ソウル』





                  
2014-12-25




(作品は、垣根涼介 『ワイルド・ソウル』   幻冬舎による。)


            

 
 本書 2003年(平成15年)8月刊行。 書き下ろし作品
2004年大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞、日本推理協会賞の史上初の三冠受賞作品。

 垣根涼介:(本書より)

 1966年長崎生まれ。筑波大学卒。2000年「午前三時のルースター」で、第17回サントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞してデビュー。01年、第二作「ヒートアイランド」(共に文芸春秋刊)で、渋谷のストリートギャングと裏金強奪のプロフェショナルたちの行く詰まる攻防を描き、そのクールな文体とグループ感溢れる世界観が各紙誌の絶賛を浴びる。本作品は二ヶ月に亘る南米での取材と一年間の執筆期間をかけた、著者渾身の書き下ろしである。

主な登場人物:

衛籐

巨大青果市場での仲買人として成功し、今はサンパウロ郊外に住む。子供の時両親とブラジルアマゾンのクロノイテに入植。その後の数々の苦難の後今復讐を計画、自身はパーキンソン病にみまわれ実行は三人(ケイ、松尾、山本)に任せる。

野口啓一(37歳)
(呼称 ケイ)

アマゾンの入植地で衛藤家と両親は親交があったが、衛藤は去り、野口家は残る。その後両親が亡くなり、一人生きながらえる。その後衛藤に拾われ、衛藤−エルレインの子供として育てられる。

松尾信彦(37歳)
(呼称 ノブ)

表の顔は宝飾品小売業の社長。日系二世のコロンビア人。
シンジケートのドン アドレス・パストラーナ・バルガスに
5歳の時拾われ育ち恩を感じている。
アマゾン上流の僻地ではケイとノブの幼い時を過ごした。

山本正仁(まさひと) 砂金の採掘現場で衛藤と知り合い金を得てサンパウロでクリーニング店を開くと去っていくが、・・・再会。
井上貴子 NBS.TVのディレクター。2年前それまで所属のアナウンス部から報道制作局に自らの希望で異動するも限界を感じている。
木島

NBS.TVの看板番組の一つ“ジャパン・エクスプレス”のプロデューサー、40代半ば。
・及川 貴子に思いを寄せる若者。貴子とのコンビで事件に関わる。

警察庁関係者 ・田川課長補佐 警備局外事課、警視。
警視庁関係者

・秋津管理官 特殊班第一特殊所属。30代後半。田川と秋津は警察大学の同期で、秋津の方が4つ年上の警視。
・岩永警部 捜査一課二係。


物語の概要:
 図書館の紹介より

灼熱の原野に棄てられ、地獄の底を這った男たち。その復讐計画に巻き込まれてゆくテレビ局の女。40数年の歳月を経た今、日本政府との戦いが始まった…。圧倒的なスケールと精細な筆致で描く、史上最強の犯罪小説。

読後感: 

 物語の前半は日本政府発行の「移住者募集要領」によるブラジルアマゾン各地に入植移民の中の衛藤、野口家等の生活の懐古と現在が交叉して当時の衛藤、野口、山本、松尾の生い立ちや現在の状況が丹念に描かれる。
 
 さて、前半のブラジル移民に関する描写では入植した人達の苦労がひしひしと伝わってくる。映像でなく文字を通して伝わってくるのは一見淡々としているようだが胸に響いてくるものがある。そしてそれは自然と読者に共感を呼び起こすものであるようだ。

 年月が経ち、衛藤の計画が若い世代のケイと松尾に託され、山本の年寄りのサポートで実行に移される。ケイの日本人離れしたブラジル人らしい(?)陽気さと優しさがこの物語に明るさを与え、放送局サイドの井上貴子とのバトルが愉快であり、痛快である。
 犯人側の描写だけでなく、後半は警察側の推理にも花が添えられ、果たして結末はどういう風におさまるのか興味をそそられる。
 全体を通して深刻すぎず、エンターテインメントとしても面白い作品である。フィクションとはいえ、史実をベースに構成されているところに厚みが出ているのではないだろうか。

   


余談:
 
 読んでいるなかで色々なことが思い起こされた。
 移民船での出発風景では、石川達三の「蒼氓(そうぼう)」が何故か思い起こされたし、何か行動を起こそうとする背景が詳細に描写される手法では曾野綾子の「哀歌」の、アフリカでの修道院での壮絶な風景が頭をよぎり、高村薫の「レディ・ジョーカー」の部落出身にまつわる人質事件犯行の怒りにも似たバックグラウンドが思い出される。

       背景画は作品の中に出てくる、復讐計画のターゲットとなった芝公園NSビル。                        

戻る