鏑木蓮 『 残心 』



              2020-11-25


(作品は、鏑木蓮著 『 残心 』      徳間書店による。)
                  
          

  本書 2018年(平成30年)12月刊行。書き下ろし作品。

 鏑木蓮
(かぶらぎ・れん)(本書より)  

 1961年、京都生まれ。佛教大学文学部国文学科卒業。塾講師、教材出版社、広告代理店などを経て、92年、コピーライターとして独立する。2004年、第1回立教・池袋フクロウ文芸賞を、短編ミステリ「黒い鶴」で受賞。06年、「東京ダモイ」で第52回江戸川乱歩賞を受賞する。13年刊行の「白砂」が話題になり、ベストセラーとなる。他の著書に「炎罪」「疑薬」「喪失」「思い出探偵」シリーズなど。

主な登場人物:

杉作瞬一

ルポライター。老老介護の現状を取材、生老病死、日本の社会の根源的な苦しみに寄り添っていけるかを追い求めている。
自身の両親も、父親の自死と母親の認知症により寝たきりの境遇。

国吉冬美

サンコウが発刊のフリーペーパー情報誌のライター、26歳。
昨年6月に「A☆LIVE」編集部の一員に。
・長谷川 編集長。
・里中新 冬美と同期入社。冬美の苦手相手。

三雲彰(あきら)
奥さん 亜沙子

京都千本丸太町の「三雲診療所」の、全国的に有名な在宅医療に注力する看取り医師。京都F医科大学の麻酔医を経る。
・亜沙子 元厚生労働省保険局勤務の東大出エリート官僚。
東京で日本の医療制度改革の政治運動中。

津川夏恵
娘 香織

三雲診療所の看護師。高校時代は柔道部。
半年前の取材で知り合う冬美を妹のように可愛がっている。
・香織 小学校に上がったばかり、冬美に懐いている。

三上葵 冬美の大学の先輩。

谷廣孝造 88歳
妻 牧子 79歳

「幸い荘」101号室の住人。病気の妻を介護する老いた夫の思いは妻を残して先に死ねないこと。

桜木智代美(ちよみ)
夫 剛
(つよし)

「幸い荘」102号室の住人。谷廣家の隣に住む桜木夫婦。
谷廣さん夫妻は仲がよかったという。

日下部刑事 谷廣家の事件の京都府警の担当刑事。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 ルポライター・杉作舜一は、寝たきりで認知症を患う妻を介護する夫の取材のため、京都へとやってきた。しかし妻は絞殺され、夫は首を吊って死んでいた。夫婦の死には何らかのメッセージが込められていると、杉作は調査を開始する。哀しき長篇ミステリー。

読後感:

 フリーペーパー情報誌のライター国吉冬美は、京都の美術系大学でマンガ部に属し、将来はマンガ家を目指していたが挫折、大学の先輩三上葵からの助けを得て「A☆LIVE」編集部の一員に。そして杉作瞬一というジャーナリストの本に出会い、杉作先生のルポ記事作成の手伝いを目指した。
 その杉作が取り上げたのが谷廣老夫婦の心中事件だった。

 本作品では、妻の牧子は寝たきりで認知症も、夫の孝造は几帳面で妻の介護に明け暮れているが、家の立ち退きを告げられており、引っ越しをするにも現状より高額になれば立ちゆかなることもあり、経済的な不安や牧子の病状への悲観、この先の暗澹たる思い。そこで孝造は牧子を残して先に死ぬことが出来ないと無理心中を計ったと思われる事件が起きた。

 そんな境遇での老老介護の問題をテーマにルポ記事「残心」作品を目論んでいた杉作瞬一が看取り医の三雲医師から話を聞き、谷廣家に訪れたときに孝造が首つり自殺を計っていたときに出くわしたことで、警察も事情聴取をする。そんなところから本作品が始まっている。

 読み進んでいく内に、老老介護の問題を主題にした問題提起作品かと思っていたが、ルポ記事を目指す国吉冬美の特殊能力、その場の情景を記憶し細密絵にすること、そして記憶する能力から、疑問を感じて調べ出すと意外な展開に引き込まれていった。
 ミステリ作品としての面でも面白かった。


余談:

  作品の中に、三雲夫人の亜沙子が唱える国民皆保険制度の問題を指摘していること。
 老老介護の問題は自らの近い将来を思うと切実なことに感じてしまう。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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