鏑木 蓮著 『救命拒否』         


                
2015-12-25



(作品は、 鏑木 蓮著  『救命拒否』     講談社による。)

               

 

 
本書 2010年(平成22年)2月刊行。書き下ろし作品。
  
 鏑木 蓮:(本書より)
 
 1961年、京都市生まれ。仏教大学文学部国文学科卒業。2006年「東京ダモイ」で第52回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2008年に受賞後第一作「屈折光」と「エクステンド」、2009年に「思い出探偵」を刊行し、本書が五作目となる。
主な登場人物
若林玲二

中之島健医会病院救急医療センターの救急救命士。7年間脳外科医として勤務、5年前に医療センターに移動。
大阪Sホテルでのシンポジウム爆発事故で負傷。自分にブラック・ダックを付けろと告げて息を引き取る。

岸謙太

大阪府警捜査一課刑事。捜査本部で倉吉の相方。本田塾に通う。幼いとき父が他界、叔父(米沢道雄)に可愛がられる。叔父は7つ年上の本田と組んでいた。

倉吉大次郎 大阪府警捜査一課刑事、警部補。40代半ば。
本田宏一(ひろかず) 大阪府警総務部会計課。元刑事部捜査一課の警部。8年前の事故で本部命令に背き深追いし暴発事故でホシを銃殺、自らも車椅子生活に。
捜査本部

・鎌田本部長 管理官。府警のかまいたち、切れ者。

中杢(なかもく)
妻 早苗

救急救命士。若林の「ブラック・タッグを付けろ」の言葉を聞く。消防隊であった父の死後、消防隊から救命隊に移動を希望する。
妻の早苗は「身体は逞しいけど、神経が細すぎるわ」と別居を言い出す。

久保良行

Y医化学工業勤務。中杢の幼なじみ。27年ぶりに中杢たちの小学校の同窓会に、3次会まで出席しそこで中杢と激しい議論に。
以前交通事故を起こし、老舗料亭の跡取り息子を寝たきりにさせて家族で償っている。

笹岡昭夫 中之島第一高校の理科の教師。三友ストア事故で玉木景子が無くなって以降2年間景子のことを忘れられず、当時の死の直前の様子を調べようと。
玉木景子
母親 千景
笹岡の婚約者。平成19年3月23日スーパー三友ストア爆発事故に遭い若林救命士にブラック・タックを付けられたため死亡。
大井肇 笹岡の同じ学校の親友。


物語の概要図書館の紹介文より

救命医が爆破事件に巻き込まれた。彼は駆けつけた救命士に向かい「私にブラック・タッグをつけろ」と言う。その意味は死。なぜ救命医は死を選んだのか…。江戸川乱歩賞作家の骨太ミステリー。
 
読後感

 ドクターカーに乗車の救急救命士若林玲二がシンポジウムの講演会で爆死される。そして自分に「ブラック・タッグをつけろ」と言い残して。殺人事件として特捜本部に招集された倉吉警部補と岸謙太刑事の調べは捜査本部の本流とは別の犯人像を追いかけることに。

・会場内で起爆。・凶器(爆発物を作れる)・動機 のすべてを満たすことで笹岡説がホンボシとなる中、一本化に疑問点を進言した倉吉たち。

 倉吉の推理、岸が倉吉の考えに違和感を感じ、本多に相談を持ちかけヒントを得て倉吉に話す謙太。倉吉と本多の関係はお互いを切れ者と尊敬(?)しているようでなかなかしっくりとした関係ではなさそう。そんな中間に入った岸謙太の存在がなんとなく頼もしい。
 倉吉のへこんだり、息を吹き返したりの揺れる姿も人間らしくて好ましい。
 そして犯人と目される人間たちの過去の生い立ち、家族の様子などの描写で、単なる犯人捜しでない人間ドラマなのがいい。

余談:

 医者と救命士の違い、医療行為が出来ない救命士の一方で死の選別を責められる救命士の責任の重さ。この矛盾に真摯に悩む中杢の姿を知るとドラマなどで見る救命時のアクションにも思いをはせることになる。

背景画は本書の表紙を利用。

                               

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