鏑木蓮 『京都西陣シェアハウス』



              2020-11-25


(作品は、鏑木蓮著 『京都西陣シェアハウス』      講談社による。)
                  
          

 初出 本書は2011年11月から2013年9月にわたって、各紙に順次掲載された「憎まれ天使」を改題したもの。(京都新聞、大分合同新聞、沖縄タイムス、有明新報、秋北新聞、桐生タイムス、南海日日新聞、日高新聞、陸奥新報、信州日報)
 本書 2016年(平成28年)9月刊行。

 鏑木蓮:
(本書より)  

 1961年、佛教大学文学科卒業。2006年、「東京ダモイ」で第52回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。著書に「屈折光」「時限」「思い出探偵」「救命拒否」「白砂」「見えない鎖」「思い出をなくした男」「真友」「しらない町」「甘い罠−小説糖質制限」がある。

主な登場人物:

[泣いた雛人形]
有村志穂 「機場」の3号室に住む。京都の大学4年生、就活中だが採用の知らせなし。歯に着せぬ物言い、お節介に住民からは煙たがられている。

大迫寛雄(ひろお)35歳
妻 恭子
(きょうこ)
  29歳
娘 優奈 6歳

名古屋で自動車販売会社の営業マンだったが、死亡事故を起こし、京都の「機場」に逃げてきた。PTSDに悩まされている。
・恭子 幼稚園の教諭免許を取得し、名古屋では幼稚園勤務だったが、夫の発作対応で近くのスーパーにパートで働く。
・優奈 志穂に懐いている。

篠澤茜
母 朱美
(あけみ)35歳

被害者の小学6年生女の子、12歳。
寛雄が運転していたが車が左折したときに引っかけられて死亡。
・両親 大迫寛雄を許していない。

[でんでん虫]
有村志穂 大学は卒業するも今だ就活中。
倉田利香 37歳 中堅処のJDT旅行会社に勤務。優秀なツアコンダクターだったが、中森の要請で経理へ異動。離婚調停中という中森とは不倫の仲。
中森丈治(じょうじ)44歳 JDTの京都支店長。離婚調停中といいながら1年半、利香と付き合っている。中森は独立して、理想のツアーを画策中。
斉藤礼子 かって利香の尊敬する先輩。離婚して大分で「ツアーズ銀河」の小さな旅行会社に転職。
[ムーンライト・セレナーデ]
有村志穂

藪内不動産の現社長から就職試験代わりの仕事を請け負う。
「機場を住まいに選んだ理由」をレポートに。

小坂淳(じゅん)64歳
妻 里子

自分も惹かれていた上林友美のことを、親友の藪内平太から友美に恋してると打ち明けられ、太刀打ちできない淳は大学を途中で逃げ出し・・。里子と結婚。平太からの一通の手紙を見て、会社を早期に退職し再び機場に戻って来た。
・里子 淳は自分の生きている限り、機場の楓を見守り続けようと説得するが。

藪内平太(闘病中)
息子 武

大学時代小坂淳とは親友。平太は淳と絶交状態だったが、30余年前経って淳に一通の手紙を出す。
・武 平太から引き継いだ藪内不動産の現社長。機場を壊してマンションを建てるか検討中。

上林友美(かみばやし) 京都宮津市の中学を卒業、実家の借金のため、藪内の本業だった藪内織物で織子として働いていた。

矢作駒子(やはぎ)
<旧姓 徳田>

昔上林友美と同じ織子。当時の友美の様子を知っている。
塚本 ジャズバーでサックスの演奏者。淳は学生時代、塚本のサックスに魅せられ、習ったことがある。その塚本から友美が淳に会いたがっていると告げられる。
久保医師 「久保心理クリニック」の医師。志穂が好きになった相手。

補足:「機場」と呼ばれているのは、西陣織の機織り工場の内部をアパートのようにリフォームした京町家。
 住人は、一号室 大迫寛雄夫妻 二号室 小坂淳
(じゅん) 三号室 有村志穂
 四号室 倉田利香

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 京都西陣のシェアハウスには、悩み多き住人たちが住んでいた。彼らの内面にどんどん踏み込み、憎まれ口を叩く隣人・有村志穂。このお節介が、本人たちも気付かなかった謎を解きあかす…。鏑木蓮の人情ミステリー。

読後感:

[泣いた雛人形]:名古屋の自動車販売会社では優秀な営業マンであったが、注意していたのに左折時幼い子供を引っかけて死亡させてしまう。裁判では執行猶予を得たが、京都に逃げてきた。ひな祭りには毎年花を手向けに現場を訪れるも、被害者宅からは許されることはない。そんな大迫家では娘の優奈が両親の行動を見ていて、この後どういう風に育つのか不安が・・・。
 隣人の有村志穂の、「同じ屋根の下に暮らしているから」と優奈に懐かれていることから大迫家の様子を知っていて、「アダルト・チルドレンになる」と指摘する。
 志穂の衣着せぬ言葉が両親を傷つけるが、一方で根本を突いていることにも気づいている。
 志穂のさし示す行動には果たしてどんな狙いがあるのか。
 ミステリアスな雰囲気もあり展開に引き込まれる。

[でんでん虫]:倉田利香は離婚調停中という支店長の中森丈治と付き合っている。中森は理想のツアーを計画するためと、良からぬ計画を実行中、利香はそのことを知り悩んでいる。
 利香の様子に志穂は切り込んできて、利香の私生活はどうしていいのか分からない。
 志穂の言うことは真っ当で「お姉さんは、支店長さんの奥さん、お子さんに、(中森が計画しているツアー客の)中国の人を、支店長さんを不幸にしている」と決断を迫る。
 物語の中でツアーコンダクターの仕事の素晴らしいところが述べられていてなるほどと。

[ムーンライト・セレナーデ]:友達を裏切った小坂淳、絶交された親友の藪内平太からの手紙には「一生に一度の頼みだ。俺の代わりに機場を守り友美に楓を見せてやってくれ」と。
 妻の里子にも真相を告げず、機場に引っ越してきた淳。お節介焼きの志穂に捕まり、詮索され、里子とは家庭内不和にまで。
 機場から次第に住人が離れていく中で、ラスト果たしてどうなるか。

 3つの話に、容赦なく切り込んできて、厳しい言葉を投げかけてくる志穂に、たじたじの住人達。しかし作品を読みながらどんな風に解決していくか期待してしまっている。
 第三話では志穂も精神科のクリニックに通っていることを知る。しかし、それは「久保心理クリニック」の医師に恋していたが、妻子持ちだったことを知り、勘違いしていたことに気づいたと志穂。


余談:

 志穂を通して気づかされる言葉が印象に残る。
 ・志穂が77回も就活、就職試験の失敗で落ち込んでた時に、クリニックの久保先生に言われた言葉。 「いい馬は自分の後ろの草を食べないんだよ」
 ・真の美は“欠けの美” 
 欠けているから見てる人がそこに自分が美しいと思う何かを付け加えて、本当の美を完成させること。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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