鏑木蓮 『 疑薬 』


              2021-06-25


(作品は、鏑木蓮著 『 疑薬 』    講談社による。)
                  
          
 

 本書 2017年(平成29年)5月刊行。書き下ろし作品。

 鏑木蓮
(かぶらぎ・れん)(本書より)
 
 1961年、京都市生まれ。2006年「東京ダモイ」で第52回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。社会派ミステリー「白砂」が大ヒットした。他の作品に「屈折光」「時限」「思い出探偵」「救命拒否」「エンドロール」「真友」「転生」「見えない鎖」「炎罪」「甘い罠」「黒い鶴」「京都西陣シェアハウス 憎まれ天使・有村志穂」「茶碗継ぎの恋 編集者 風見菜緒の推理」などがある。  

主な登場人物:

川渕良治
母 照美

ヒイラギ薬品工業大阪研究所の主任研究員。実父は楠木悟。
楠木悟社長が倒れた後、ヒイラギ本社の社長代行に、46歳。
・母 楠木と離婚する際、良治(高校生の時)を連れて行く。

楠木悟(さとる)
後妻 紗子
(さやこ)
息子 翔
(しょう)

国内シェア第五位の製薬メーカー「ヒイラギ薬品工業」の社長。
脳梗塞の後遺症で失語症に。
・紗子 再婚相手。
・翔 薬か大学の研究室で高分子ナノカプセルの研究。
   悟が良治と翔を競わせている。

滝本容子

抗インフルエンザウイルス薬“シキミリンβ”発見の功労者。
良治と同じ研究室にいたが、後に良治代行の秘書を務める。

西部匡(にしべ・ただし)

専務。創業から営業の最前線で戦ってきた人間。
良治社長代行と方針を異にする。

木崎恵子

ヒイラギの埼玉友健会病院担当のMR(医薬情報担当者)。
滝本容子の後の、良治社長代行の秘書代行に抜擢される。

生稲怜花
(いくいな・れいか)
母 怜子(旧姓 守屋)
父 誠一

両親の営む居酒屋「二歩」の看板娘。
・怜子 10年前、風邪をこじらせ三品病院での治療を受け、失明。行方不明のギター弾きの夫守屋伸三と活動していたが、守屋の失踪宣告認められる。
・誠一 「二歩」を守屋夫婦に提供し、2年前母は誠一の籍に入る。

吉井玄(げん) 家業の工場(吉井紙工業)を継ぐ。怜花と交際4年、結婚を考えているが、両親が反対して止まっている。
矢島公一

なにわ新報(月刊「ザ・実話」を出している)の雑誌記者。
怜花の母親の失明のことについて調べている。

三品元彦(みしな)

大阪の鶴橋にある中規模病院「三品(みしな)病院」の院長。
◇ 三品病院に勤めていた看護師
・駒野浩美 突然いなくなる。治験コーディネーターをしていた。
・香河彩芽 怜花の母の面倒を観てくれた看護師。
・佐久山香 彩芽とチームを組んでいた看護師。
・長谷麻奈美(まなみ) 浩美の後輩。

佐野

鶴橋の有料老人ホーム「なごみ荘」の事務長。
・香河彩芽が三品病院の後、ここの介護と看護の責任者に。

海渡秀也(かいと・ひでや)
兄 周一

良治の学生時代からの友人。薬品卸会社「薬研(やげん)ホールディングス」の営業担当部長。
槌田(つちだ) 槌田探偵事務所の代表。良治が楠木社長より紹介され、三品元彦の調査を依頼。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 東大阪にある居酒屋「二歩」。生稲怜花は、母の怜子、育ての父である誠一と穏やかに暮らしていたが…。母の失明の原因は、医療ミスなのか?閉ざした過去と対峙したとき、製薬会社を巻き込む驚愕のスキャンダルが明かされる。

読後感:

 生稲怜花(いくいな・れいか)の母怜子が三品病院での診療で視覚障害を受け、音楽の世界から「二歩」の小さな居酒屋でささやかに三味線の音楽提供での活動で満足せざるを得ない状況に。怜花はなにわ新報の雑誌記者矢島から、高齢者施設「なごみ苑」での二人死亡事件と怜子の失明事件に関連づけ、三品病院の三品院長のことを調べる為、怜花に接触して来る。

 一方、抗インフルエンザウイルス薬として“シキミリンβ”を開発したヒイラギ社は、社長の楠木悟が脳梗塞の後遺症で失語症に陥ったため、実父ではあるが離婚した母側の川渕良治が社長代行となったヒイラギ社の進む道に関し、方針を異にする代行に対し、社長や専務との内部事情が展開。生稲怜子の三品病院での“シキミリンβ”投与による副作用によるものかの真意が会社の行く末を左右することに苦慮される。

 加えるに、良治の学生時代の友人海渡秀也の兄の、ステージWのがん治療に対する課題も絡まり、治験に関する話題も物語の焦点になっている。
 話題は、医療、野心、生きがい、恋、会社の内紛、高齢者社会に対する対応と盛りだくさんの内容が重厚に展開、誰が善で誰が悪なのかなかなか判らず、このことも読者を引きつける要因でもある。


余談:

 薬の副作用の問題は、患者側にとってなかなか判らないが、もし医者側で見過ごされていたら恐ろしいことになると改めて知らされた思い。
 また、ジエネリック医薬品に対する不安も知ったし、治験の仕組みも。
 現在新型コロナに対するワクチン開発も話題に上るが、本作品を読んで色々知ることが出来た。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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