鏑木蓮 『 炎罪 』



              2020-10-25


(作品は、鏑木蓮著 『 炎罪 』      講談社による。)
                  
          

  本書 2016年(平成28年)5月刊行。書き下ろし作品。

 鏑木蓮
(かぶらぎ・れん)(本書より)  

 1961年、京都生まれ。佛教大学文学部国文学科卒業。2006年「東京ダモイ」で第52回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。著書に「屈折光」「時限」「思い出探偵」「救命拒否」「白砂」「見えない鎖」「思い出をなくした男」「真友」「しらない町」「甘い罠−小説糖質制限食」「京都西陣シェアハウス〜憎まれ天使・有村志穂〜」「殺意の産声」などがある。

主な登場人物:

片岡真子(まこ)
<お嬢>

京都府警下京(しもぎょう)署刑事課刑事。新盛先生の講義受講中。
山之内医師放火事件では、スカンタコの差し金で伊澤と組み「鑑取り」担当に。
・母親 真子の実家は上七軒の花街で、日本舞踊と弓道の師範。
・初音 真子の母親の元に住み込む舞妓。

下京署

・中野 主任 優しい刑事。真子の上司。
・島田 署長

京都府警本部

・伊澤 係長、警部。火災特殊班の指揮をとっている。(片岡真子、自分のこと認めていない気がすると、高藤に告げる。)高藤の後輩。
新盛先生と海外研修で会い、意気投合したようだ。(高藤評)
・高藤 一課長 真子にとって尊敬の念を持っているスカンタコ。
・水森班長 鑑識課

新盛英信
(しんもり・えいしん)
精神科医。学生時代山之内一蔵の薫陶(くんとう)を受けている。府警顧問。
山之内医師放火事件関係

・被害者:山之内一蔵、元東都医科大学精神科教授、67才。退官後自宅でクリニック開設。ガソリンを浴びせられ焼死。
・妻 和代 夫婦二人住まいだったが、行方不明に。脳梗塞が原因で少々認知状態が落ちている。火の不始末も何度か。
・息子 一史(かずふみ)慶明大学病院の脳外科医。東京在。

「陽だまりの会」関係者

NPOの趣旨:家庭の事情、特に経済苦により学校を辞めざるを得なかった子に勉強を教える、寺小屋のようなもの。
・代表 榊原泰子(さかきばら・やすこ)
・スタッフ 日向雄大(ひゅうが・ゆうだい)司法試験に挑みながら働いている。
・顧問弁護士 谷中(やなか)。

西城芽衣
母親 麻衣子
父親 長門(離婚)

「陽だまりの会」に通う本来なら高校2年生の16才。両親の様子に生きる望みを見いだせない状態。
雄大が支えに肩入れし過ぎ(泰子評)。
・母親 アルコール依存症、入院。
・長門 山之内一蔵の患者。連続放火事件の容疑者。

関口豊治(とよはる) 広島在住の、山之内一蔵と学生時代から親交のある友人。一蔵からもらった手紙に気になることがあると真子と伊澤に。

小津結花(ゆか)
兄 琢磨

仙台の宮城野病院勤務の精神科医。山之内一蔵の教え子。
自宅マンションの7階から転落死。仙台北署は自殺と処理。

松江成子(なるこ) 小津結花と仲のいい女医、1年先輩。大阪で開業。体調を崩して療養中。

宮城野病院関係者
(小津結花の同僚)

・高倉加世子 心療内科医師。
・三木礼子 脳神経外科医。

宮内 IT関係の会社社長。小津結花の患者、結花に恋慕。
前久保 仙台北署の刑事。小津結花の事件担当。
今井 児童養護施設「希望の家」の施設長。

竹本沙梨(さり)

日向雄大と付き合い始めて一月半。京都の大学教育学部3年生、小学校の教員を目指している。
清川莉桜(りおう) 大学で心理学を修め後、臨床心理士資格を取り、烏丸心理クリニックに所属。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 自傷患者専門クリニック兼自宅が全焼。精神科医が焼死体として発見され、妻の行方がわからない。下京署の刑事・片岡真子は思わぬ推理を展開するが…。人間の“情”に迫る、渾身の長編警察ミステリー。

読後感:

 プロローグは犯人が放火を仕込んで去る小文。
 さて連続放火事件が発生していて、遂に死人が出たことで京都下京警察署刑事課の片岡真子刑事に招集が。この片岡刑事と上司の中野主任のコンビが京言葉を織り交ぜながら、面白い雰囲気を出している。
 本題の山之内一蔵放火殺人事件は難解な過程を経てなかなか犯人にたどり着けない。
 関連があるのか仙台では小津結花という精神科医が7階のベランダから転落死し、警察は自殺と処理。

 しかし、小津結花医師は山之内一蔵の愛弟子ということで、片岡真子の激しい思い込みと果敢な行動で捜査本部を患わせる。
 そこに関係するのが高藤捜査一課課長。警察庁からの出向のキャリア。ひょんなことから真子は以前関係したことのある高藤を憧れの人と思っているが、いずれ警察庁に戻るスカンタコと考えている。
 しかし、後半、犯人を追い詰める場面で、片岡刑事の勘を信頼していてくれたことで真相にたどり着けそうに。

 物語の中身は精神科の分野に関係し、結局捜査本部を含め、犯人の手の内で踊らされていることに地団駄を踏む。
 真子の実家は京都の花街で舞妓の養成をしていて、初音という舞妓が住み込んでいる。ここに連続放火事件の犯人と見なされた父親を持ち、母親も精神不安定で入院、その娘の西城芽衣という、学校に通えなくて「陽だまりの会」に通う16歳の少女はリストカットして死のうとするところを、やってはいけない真子が実家に囲って、マスコミや罪滅ぼしで芽衣に支えになろうとする日向雄大から守る話も複合的に厚みを増している。
 ラストまで犯人を追い詰めることが出来ないことで、果たして結末はどういうことに?


余談:

 片岡真子の刑事作品には、以前読んだ「エクステンド」(2008年12月刊行)が、新人刑事として坂本龍馬の姉乙女に憧れていて、警察庁から京都府警に出向のキャリア高藤警部が殺人事件の担当管理官として真子とコンビを組んでいる。そんな背景を2015年の本稿で書いていたことを見返し、スカンタコの意味を改めて知った。 
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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