伊与原新著 『梟のシエスタ』

                  
2022-12-25

(作品は、伊与原新著 『梟(ふくろう)のシエスタ』       光文社による。)

         

 初出 梟のシエスタ    「小説宝石」2011年12月号
    梟のアプエスタ   「小説宝石」2012年5月号
    梟のファンダンゴ  「小説宝石」2013年1月号
    本書は、以上の三本の短編を加筆修正したうえでT章〜V章とし、新たに
    W章・X章が書き下ろされています。

 本書  2015年(平成27年)7月刊行。

 伊与原新(いよはら・しん)本書による)

 1972年、大阪府生まれ。神戸大学理学部卒。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。2010年、「お台場アイランドベイビー」で第30回横溝正史ミステリ大賞を受賞。近著は「博物館のファントム」「磁極反転」など。

 主な登場人物:
[人文学部]関係者

地方の国立大学。
文系学部には、人文学部、教育学部、経済学部、法学部の四学部がある。医学部からはお荷物扱いされている。

吉川専任講師 今年34歳。上司は首藤教授。
宗像(むねかた)学部長 教授。相当な野心家。首藤教授とは盟友。
袋井准教授

スペイン大学に長くいて、ここに来て3ヶ月。
ハラスメント相談員の役。
フクロウのような生活(夜行性)をしている謎の人物。

首藤(しゅどう)教授 心理学講座を主宰。この冬の学長選挙に立候補間違いない。
外面だけは非常に良い。里崎のボス。
里崎

心理学講座のただひとりの大学院生。 吉川の部屋に入り浸っている。 情報屋。 首藤の下に3年間、番頭のようなことを。

佐古教授 定年間近。カラスの異名。夜になると帰宅する。
[他の学部]関係者
遠藤教授 経済学部。准教時代教職員組合で書記長。
一之瀬教授 教育学部学部長。政治家タイプ。学部再編をもくろむ。
財津教授 医学部長。学長に立候補。
宇田川教授 理工学部の学部長。学長に立候補。
井澤教授 法学部の前学部長。常識人、俗物。
君塚 教育学部の准教。忙しい一之瀬教授に代わり、LOC(学会の年次大会での現地実行委員会)を実質的に取り仕切る。
三谷 社会学講座の准教。若手のリーダー。
砂原かなで 心理学講座4年生。首藤教授の元で卒業研究。アカデミックハラスメントを訴える。クレーマーとして有名。
「クローバー」のママ 大学職員御用達の小さな喫茶店。情報の宝庫。ママは50代。
榎本 「ツクモ」印刷の営業担当、入社4年目。人文学部の卒業生。
 物語の概要:(図書館の紹介記事より。)
 
 学長選挙の迫る地方国立大学に赴任してきた袋井准教授。型破りな「フクロウ」は、次々とトラブルに首を突っ込み、教授たちのスキャンダルを暴いていく。 一体、彼の目的は。 異色のアカデミック・エンタテインメント。 
 
 読後感:
 
 主人公の吉川を通して、地方の国立大学における様々なスキャンダラスな出来事が展開するアカデミック世界の物語である。特に学長選挙にまつわる選出の顛末がメインディッシュである。
 吉川は専任講師であるから、主流にはなれないで、上司の首藤教授の暴挙に振り回される。 しかし、袋井という得体の知れないスペイン帰りの准教の策に、どういうつもりなのか疑いながらも、結果に感心したり、益々疑いを持ったり。

 砂原かなでのセクハラ発言に絡み、首藤教授の学長の芽は消えたかに・・・。
 次の学生募集にまつわるパンフレット作成の件での不正、大講堂のダブルブッキングにまつわる思惑の交差。
 そして本命の次期学長選挙にまつわる裏工作の実態と結果のギャップ。
 袋井の活躍ぶりとその裏にあった背景の顛末。
 見栄えのしない人情派(?)の素顔に物語は終末を迎えた。
 なかなかアカデミックの中の騒動、泥仕合の様相は新鮮だった。


余談1:
 学長選出までの課程
・候補者の推薦 20人以上の推薦人が必要。
        推薦を受けた者は、事前審査を経て、学長候補適任者として公示される。
・意向投票   候補者がそれぞれ所信を出した後、選挙の前段階とも言うべき「意向投票」              が実施される。
        投票権が与えられるのは、非常勤講師を除く全ての職員と、管理職の事務員。
        これはあくまで教職員たちの「意向」をはかるものにすぎない。
・学長選考会議(学長の決定機関) 学長の任期は四年。
        10名の学内委員と10名の学外委員から構成。
        学内委員は学部長や評議員が務める。
        学外委員は県内の政治家、有識者、財界人が任命される。

余談2:

 本の題の「シエスタ」について調べた。
 シエスタとはスペイン生まれの「昼休憩」のこと。
 シエスタ制度の目的
  1.仕事の生産性を高める
  2.昼食をゆっくり食べる
  3.午後の暑さを避ける
  近年は、スペインでもシエスタを廃止するケースが増え、衰退してきています。 オフィスワークが増 え、暑さ対策の必要性も減り、早く仕事を終えて帰りたいという動きもあるためです。

 

                    

                          

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