岩木一麻著 『がん消滅の罠』



              2019-07-25

(作品は、岩木一麻著 『がん消滅の罠』    文藝春秋による。)
                  
          
 
初出 2017年1月に単行本として刊行したものを加筆修正し、文庫化した。
 本書 2018年(平成30年)1月刊行。

 岩木一麻
(本書より) 
 
 1976年、埼玉県生まれ。現在は千葉県在住。神戸大学大学院自然科学研究科修了。国立がん研究センター、放射線医学総合研究所で研究に従事。第15回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2017年に本作にてデビュー。現在は医療系出版社に勤務。

主な登場人物:

夏目典明(のりあき)

日本がんセンター研究所(築地)の呼吸器内科医師。
羽島悠馬とは高校時代からの友人。

羽島悠馬(ゆうま) 東都大学公衆衛生学教室の大学院生、40歳。医師だが疫学研究に従事臨床はやっていない。有能な研究者だが変人として名知れ渡っている。
森川雄一 夏目典明とは高校時代からの長い付き合いの友人。理学部数学科所属、修士課程修了後保険会社(大日本生命)に就職。昨年大阪本社から東京支社(丸の内)に転属。調査部の課長。

西條誠士郎先生
娘 

東都大学(本郷)医学部腫瘍内科講座教授。大学院の指導教員。急に大学を辞め湾岸医療センターの理事長になっていた。
宇垣玲奈(れな) 湾岸医療センター(浦安)の美人呼吸器外科医。
冬木沙希(さき) 夏目典明の婚約者。文学部を卒業、現在出版社で旅行雑誌を編集。
水嶋瑠璃子 森川雄一の部下。
柳沢昌志(まさし) 40代後半の優秀な厚生労働官僚。湾岸医療センターのがんドック検診で肺の初期がん発見。手術終え術後補助化学療法に移行。

小暮麻里
娘 果鈴
(かりん)

日本がんセンターの患者、32歳。複数の肺内転移を伴う肺腺がんで手術不可能。抗がん剤治療行っても余命半年程度と診断。(担当医は夏目)。新薬による化学療法を決定。治験中にがんが消え去った。
保険会社にとって早期事故案件に該当して問題に。

榊原一成(さかきばら) 湾岸医療センターでの患者。西條先生について「悪魔がこの世に存在するというのを生まれて初めて知りました」と夏目に語る。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 がん患者が生前給付金を受け取ると、その直後、病巣が消え去ってしまう…。連続して起きるがん消失事件は奇跡か、陰謀か。医師とがん研究者が謎に挑む。
〈受賞情報〉「このミステリーがすごい!」大賞(第15回)
        

読後感:

 この作品が扱うのは誰しもが関心のあるがんの治療に関する案件であることにまず興味を引き込まれる。小暮麻里とその娘果鈴のシングルマザーの低所得者の患者にまつわるがん罹患(複数の肺内転移を伴う肺腺がん余命半年)で化学療法しか。それに関連し生命保険の特約「リビングニーズ特約」(ある一定の余命を切るとその時点で死亡保険金が生前に受け取れる)で保険金が3500万支払われることになる。さらに問題は死亡保険に加入期間が短かったことも保険会社にとって疑念が生じるものであったこと。

 そこで保険会社の調査部門である森川雄一とその部下である水嶋瑠璃子が日本がんセンターの医師である親友の夏目典明およびやはり親友の東都大学の羽島悠馬も加わり最近おかしな現象が見られる湾岸医療センターの不可解事案に乗り出す。
 不可解事案とは、湾岸医療センターのがん検診におけるがん早期発見の実績としかも転移したがん消滅完全寛解の謎であった。

 小島玲奈の例の他にも3例があった。夏目たちの仮説やら湾岸医療センターの理事長が夏目や羽島にとって恩師に当たる西條征士郎先生であることで先生が突然東都大学を辞した時に夏目に伝えた言葉がよみがえる。
「医師にはできず、医師でなければできず、そしてどんな医師にも成し遂げられなかったこと」をやると。
 湾岸医療センター内での出来事、日本がんセンターを中心とした夏目たちの行動を中心に物語は展開する。

 読者としてはがん治療にまつわる興味深い内容もさることながら、ミステリーとしてもなかなか手の込んだどんでん返しも用意されていて、本格的医療ミステリーとして楽しめる作品といえる。

余談:

 
ちょっと残念なのは、西条先生の娘の仇を探す話は状況が良く理解できず、その辺の描写がしっかりとされていたら、このことについても引かれる話になっていたのになあと残念。
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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