小説の概要:
祖父の遺言でダムで湖底に沈んだ天底村に骨灰を撒いて欲しいと頼まれ、やってきてそこでおひなばあさんに出会う。そしてそこで出会った人々から数奇な話や体験から東京では忘れ去られた人間の本質のようなものを体感する。
読後感:
本の紹介の中に 癒しの物語、詩情に満ちた傑作 という文につられて選んだ作品。 方言を使うおばあさんの言葉は多少難しい箇所もあるが、この感じは以前にも読んで感じた物のようだ。 そうあの南木圭士の「阿弥陀堂便り」の雰囲気である。 それも丁度同じ頃に高村薫の「晴子情歌」、「新リア王」、乃南アサの「風紋」を一方で読んでいて、難解なのと気持ちがすさんでいてざわざわした気持ちであったので、この作品は本当に癒しの気持ちにさせてくれる格好の作品であった。
場所は南九州の山村、ダムに沈んだ村にまつわる話は幽玄の世界か、はたまた現実の中のはなしか。 素朴な村での盲目の巫女が身投げしての葬儀の模様は、遠い昔の本当のあるべき姿のようで、こんな風に執り行われるお葬式ならさぞかし満足なことだろう。 また湖底に沈む村の人たちの伝説のようないわく付きの場所や、いかにも田舎を感じさせる樹木の名前が色々と出てくるが、その樹がもつ雰囲気が以前にマスターした樹木のことを知ったことで心に染みいった。
他にもダム工事が始まる中、「天底の命」といわれるしだれ桜が電気鋸で伐りとられるシーン、克平が堰堤から転げ落ち、鉄筋に串刺しされたときの様子など随所で胸に迫る場面も心にしみる。
初めて訪れた祖父の故郷で、村人達に懐かしがられ、祖父や祖母達の当時の行為が感謝され、居心地のよい思い出となった柾彦の人柄も大層好ましく気持ちのよい作品であった。
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