　　　　
一本木透　『だから殺せなかった』

　　　　　　　　　　　　　　2021-10-25

（作品は、一本木透著『だから殺せなかった』　　　　東京創元社による。）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　

　　

　本書　２０１９年（平成３１年）１月刊行。書き下ろし作品。

　一本木透（いっぽんぎ・とおる）：（本書より）
　
　 1961年東京都生まれ。早稲田大学卒。2017年、劇場型犯罪を一人の新聞記者の視点から描く新人離れした筆致が選考委員から高い評価を得て、本作で第27回鮎川哲也賞優秀作を受賞。

主な登場人物：

［太陽新聞関係者］	全国紙。世間からは「クォリティペーパー」と言われている。
一本木透　＜私＞	社会部記者の遊軍。その後県警グループのキャップに、46歳。・デスク　黛（まゆずみ）・長谷寺社会部長
	・渡部（わたべ）社長・長峰編集局長・久保原編集局長補佐・迫田政治部長・江尻外報部長・平林デジタル編集部長
吉村隆一（りゅういち）	取締役。編集担当兼営業統括。かって群馬県前橋支局時代、私とは支局長と支局員（私）の関係で懇意。
大熊良太	県警グループのサブキャップ。

牛島正之（まさゆき）	県警二課長。私と懇意。
江原陽一郎父親　茂母親　むつみ	都内の私立大学に通い、日本文学を専攻する文学部３年生。両親は本当の親でないことを知る。・父親　図書館司書。・母親　二人の間に子供出来ず、三角山登山時、山小屋で赤子を見つけ、山小屋の石橋さんの好意で特別養子縁組でなく、出生証明書を提出、本当の親子に。その後母親は癌で亡くなる。
手賀沢達也	テレピのバラエティ番組でおなじみの生物学者、名峰（めいほう）大教授。あちこちに隠し子発覚など下世話な話題まみれの人物。

白石琴美父親　健次郎	一本木の恋人22歳。私が前橋支局時代知り合い、同棲し初めた。琴美の父親は、県庁の職員（出納長）で仕事一筋。母親は死に、身内は一人娘だけ。琴美は父のこと大嫌い。・父親は県庁の汚職事件に関わっていたこと判明・・・。

補足：連続殺人事件被害者
第1の殺人 5/26 横浜市戸部町　市役所総務課長村田正敏（45）鈍器で頭部殴られ
第2の殺人 6/18 埼玉市大宮町　会社員本郷正樹（29）ビル屋上から転落死
第3の殺人 7/8　運送会社員小林洋次郎（42）東京JR八丁堀駅構内で刺殺
第4の殺人　　　沢田則夫（38）浦安市の海岸で通り魔殺人

物語の概要：（図書館の紹介記事より。）

　大手新聞社の社会部記者宛てに、首都圏全域を震撼させる無差別連続殺人の真犯人を名乗る者からの手紙が届く。送り主は「ワクチン」と名乗ったうえで、記者に対して紙上での公開討論を要求し…。第２７回鮎川哲也賞優秀賞受賞作。

読後感：

　全国紙の太陽新聞記者一本木透宛に“ワクチン”と名乗る人物から連続殺人事件に対する「秘密の暴露」を告げ、「俺の殺人を言葉で止めてみろ」と挑戦状が届く。
　その件に先駆け、太陽新聞社内では経営環境の悪化で部数は下降気味、「シリーズ犯罪報道・家族」と銘打ち、第一部、第二部と打っていて、第三部に「記者の慟哭」を書けの指示が出る。一本木透は自分の体験を記事にし、世間の反響を得ていた。

　それは20数年前の群馬県前橋支局時代の汚職事件がらみでの同棲していた恋人の琴美の父を告発する記事のことで、琴美から「どうしても載せるの？」「私のお父さんなのに？」と告げ以降姿を消した。
　それとは別に江原陽一郎という、今は大学3年生だが、幼少の頃の自分が実の親子でないことを知った少年のモノローグ（独白）が展開する。

　物語の中で、この一本木透と江原陽一郎のモノローグが中心に展開するのが、どういうことかの関心がずっと続く。一本木透の場合は、“ワクチン”との新聞紙面上でのやり取りであることから大体想像はつくが、江原陽一郎のケースは謎がつきまとう。
　さて、連続殺人事件の犯人“ワクチン”とは、どうも何かと世間で話題の多い名峰大学の手賀沢教授らしいとの絞り込みが有力視されていくが・・・。

　本作品、殺人事件の犯人捜しのミステリーながら、殺人の動機や、殺害に到る理由、犯人の人格、育ってきた環境など現代の問題点も映し出されていて、なかなか読み応えのある描写となっている。
　物語の最後の章真実で本の題「だから殺せなかった」が明らかになっていく。

余談：

作者の一本木透の名、その名が本の中で一本木透として登場していることに不思議感を感じた。
そして本作が第一作というのが以外。第27回鮎川哲也賞優秀賞受賞作というとおり、内容、描写、表現ともベテラン作家の感がある。
　この第27回鮎川哲也賞受賞作に、今村昌弘著「屍人荘の殺人」があって、本稿には2020.1.25付けで載せていた。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。