伊岡瞬 『冷たい檻』



              2020-09-25


(作品は、伊岡瞬著 『冷たい檻』      中央公論新社による。)
                  
          

 初出 「読売プレミアム」として2016年11月から2017年12月まで連載されていたものを、大幅に加筆・修正の上、「冷たい檻」に改題。
 本書 2018年(平成30年)8月刊行。

 伊岡瞬
(本書による)

 1960年、東京都生まれ。2005年に「いつか、虹の向こうへ」(「約束」を改題)で第25回横溝正史ミステリ大賞とテレビ東京賞をW受賞し、作家デビューした。代表作の「代償」は、累計40万部を超えるベストセラーとなった。近著に「痣」「悪寒」「本性」がある。

主な登場人物:

樋口透吾(とうご)

元警視庁捜査一課出身、辞職後「組織」からの指示で活動する調査官。上司のカラスより、北森益晴失踪の原因調査を二日間で行うよう指示される。
妻とは、3才の我が子(巧
たくみ)をさらわれたことから「許さない」と離婚。

島崎智久(ともひさ)
妻 理沙
娘 藍

北陸のはずれ、比山署青水(あおみ)駐在所の警察官、巡査部長、29才。佐野課長より、樋口調査官に同行、運転手兼道案内役と監視・逐一報告を指示される。
・美人の奥さん(理沙)と3才の藍
(あい)が詰めている。

北森益晴(ますはる) 青水駐在所の島崎智久の前任者。公安の人間。1ヶ月前隣の久杉地区の祭りの開催にかり出された後突然失踪、音沙汰無し。
[施設]関係
小久保貴(たかし) 民間の児童養護施設『にじ』の小学六年生。シンにマモルのこと相談。遙に変なことされたら許しておけない。
鶴田康介(こうすけ)

同小学六年生。『アル=ゴル神』を信じている。遙のことが好き。マモルを断罪して欲しいと「アル=ゴル神」宛てのメモを中沢先輩の靴箱に。

江島遙(はるか) 同小学六年生。
古川大樹(だいき) 同中学一年生の悪ガキ。入所1ヶ月も満たず『にじ』のトップに。
中沢先輩 『にじ』にいた中学三年生。自らを『アル=ゴル神』の僕となのる。
レイイチ(玲一) 厚生施設青年の家『みらい』の青年、20才。両親に捨てられたと、拾われた仲間に手なずけられ、テロリストに育て上げられ、警察に捕まりここの施設に。がっしりした体格。
カイト 同19才。
マモル(戸井田守) 同20才。江島遙にちょっかい他、冷酷さが露わ。小6の時祖母を金槌で撲殺など。
シン 同20才。大きな男。幼い頃酷い虐待を受けたらしい。
林田健二

混合型介護付有料老人ホーム『かもめ』の老人、78才。
認知症で施設の側の断崖から転落死。警察は事故と。

峰聡(さとし) 複合型ケアセンター『岩森の丘』センター長、67才。天下りの元官僚。
二木寛(ひろし) 同副センター長兼『かもめ』施設長、50才。センター全体のナンバー2だが実質的トップ、50歳前後。「星河」の中国本社からの派遣人物。
小笠原泰明(やすあき)

『みらい』施設長(保安担当)、58才。元県警本部生活安全部長。樋口の本当の狙いを調べることで自分の出番が。

及川温美(あつみ) 『にじ』施設長、45才。
桑野千晶(ちあき) 『にじ』職員、37才。子供達の異常を感じ取っている。
熊谷有里(ゆり) 『にじ』職員、23才。林田健一と仲が良かった。自殺じゃないかもと。
赤石隆一郎(りゅういちろう) 岩森村前村長、72才。今も実権を有している。
中条俊一 大物国会議員の筆頭私設秘書、52才。
上野弘樹 「星河」日本総支社の社員。
鷺野(さぎの) 中央とのパイプ役、次期総裁を狙めざす身。
「星河」との蜜月関係を形成していたが・・。
深見梗平(きょうへい) 不動産売買ブローカー。<ブルー>の店主が言う「都会的に洗練されたゴリラ」の男。樋口にこの土地は「政」「官」「財」私欲の吹きだまりと。
中堀三千代

《ジャズと珈琲の店−ブルー》の店主、68才。北森が足繁く通っていた。樋口が訪ねて来る以前に、北森のことを探しに来た人物(「都会的に洗練されたゴリラ」の雰囲気の男)がいたと。
姪(桑野千晶)が施設で働いている。

熊谷昇平・弥生 ショッピングタウンいわもりの一画に「こだわり味噌ラーメン−くまがい」を営む夫婦。
佐野警部 比山署の地域課課長。
福本警部 比山署の刑事課課長。
カラス 樋口の上司。
 
 補足:樋口透吾の「組織」とは政治家や官僚相手の身上調査をするような会社。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 日本海沿いにある小さな村の駐在所から警官が失踪した。後任として駐在所に着任した島崎巡査部長の下に、県警本部から送り込まれた調査官・樋口が現れる。警察内で密かに失踪事件を調査することのようなのだが…。巨大福祉施設に隠された恐ろしい秘密とは。

読後感:

 樋口透吾なる調査官が、北陸の外れ比山駐在所の島崎智久巡査部長の案内を受け、前任の北森益晴巡査部長失踪の原因調査で岩森村を訪れてくる。しかも上司のカラスからの指示は二日間の限定。
 従って、刻一刻の時間経過で物語が展開する。しかも470ページの長編で。
 読み手はあちこちの展開に果たしてどういうことになっていくのかと戸惑う。

 主たる対象の現場は複合型ケアセンター“岩森の丘”(通称 施設)。
 施設の構成は滞在型の三つの施設(前身は「かんぽの宿」)がある。
・混合型介護付有料老人ホーム「かもめ」 施設長 二木寛が兼務
 アルツハイマー型認知症の患者優先。
・民間児童養護施設「にじ」 3才から18才迄。
・青年の家「みらい」 18才から減速20才迄の男女。
 比較的量刑的に軽い犯罪に手を染めた者たち
 プラス 例外的に外来患者を診察する“岩森の丘クリニック”からなる。
 料金は無料でその主体は中国に本社のある大手製薬会社「星河(シンホー)」。
 入居条件に、開発途中の新薬やサプリメントの被験者となること。

 施設の中では色んなトラブルの他に、もう一つ10年前に建設された“タウン”なる商業施設が、隣町にさらに大型のショッピングセンターが出来たため、今は廃屋になっていて、「星河(シンホー)」が土地を含め買収しようとの動きがあると当時に、中国の進出を良く思わない国内の複数の勢力があり、物語を複雑にしている。

 さて、樋口たちに時間が追い打ちをかけるように進展する中、色んな事件が起こっていることを整理してみて、樋口が気づいたこととは・・・。

 初めのうち、島崎智久は無能のように思われ、佐野課長の上司にも小間使いのように扱われていたが、樋口とのやり取りの中で信頼関係を抱くようになるが、ある時襲撃を受け、拳銃他の装備品を奪われ、警察官を辞職する恐れに見舞われる。そんな彼に樋口が助力するシナリオも好ましい。

 約束の二日で目的が達するも、負傷した樋口の様子、施設での小笠原泰明たちによる岩森村で起きた黒い駆け引きの構図説明がラストにふさわしく物語を締める。
 そして深見梗平と桑野千晶のはかなくもある恋の結末も彩りを添えているし、樋口のさらわれた息子の結末も余韻を残し幕を閉じる。
 読み終わって労作であったなあの印象。


余談:

 題材が医療介護制度の打破のため、要保護の児童、要更生の青少年、要介護の老人を一カ所に集め、管理の効率化と互助的な機能を持った壮大なグループホームの設立を目指すというモデルケースは注目に値する。しかも都会でなく、過疎地に作ることで税収入や雇用が増えるし、考えられるアイデアだろう。ただ、狙いがとんだものであったのが始末に負えない。 
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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