伊岡 瞬著 『 悪寒 』








              2018-12-25
(作品は、伊岡 瞬著 『 悪寒 』    集英社による。)
          
  初出 「青春と読書」20156月号〜20167月号(「驟雨(しゅうう)の森」改題)
  本書 2017年(平成29年)7月刊行。

 伊岡 瞬
(本書より)
 
 1960年東京生まれ。2005年「いつか、虹の向こうへ」で第25回横溝正史ミステリ大賞とテレビ東京賞をW受賞しデビュー。著書に「145gの孤独」「瑠璃の雫」「教室に雨は降らない」「代償」「もしも俺たちが天使なら」「痣」など。    

主な登場人物:

藤井賢一
妻 倫子
(のりこ)41歳
娘 香純
(かすみ)15歳
賢一の母親 智代

(ともよ)

誠南メディシンの販売促進一課の係長。贈収賄事件で一方的に責任を取らされ、系列会社の東誠薬品酒田支店に飛ばされ、支店長代理に。隆司常務から1年以内に本社に呼び戻すとも。
・妻の倫子が常務殺しで逮捕される。しかも自分がやったと認めている。
・娘の香純は去年の夏から父親に絶交宣言。
・智代 最近は認知症が進む。

誠南メディシン関係者

大手製薬会社。
・南田誠社長 創業者、現会長兼社長。
・南田信一郎専務 先妻(鈴恵)の長男。販売企画担当本部長。
・南田隆司常務 後妻(乃夫子 のぶこ)の次男。
信一郎派と隆司派が敵対関係にある。

東誠薬品酒田支店関係者

・松田支店長 本社から来た支店長代理の藤井賢一の営業力を蔑んでいて、人事権を握っていると漏らしている。
・高森尚美 支店長代理に言いよって東京に連れて行って欲しいと。

磐田刑事 警視庁若宮警察署刑事。
真壁刑事 警視庁捜査一課特殊斑の刑事、巡査部長。妻とは死別(殺されたらしい)。

滝本優子
父親 正浩 71歳
母親 寿子
(ひさこ)68歳

倫子の妹。倫子が和風でおっとりタイプに対し、優子は彫り深く人目を引くハーフタレントの様な派手さのある美人。
・父親の正浩は厳格。

白石法律事務所関係者

・白石真次郎 オーナーで筆頭弁護士。
・白石真琴 オーナーの娘、美貌の弁護士。今回の藤井倫子の弁護担当。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 
山形に単身赴任中の賢一は、東京に暮らす妻の倫子から不可解なメールを受け取る。その後、警察から連絡が入り、倫子が賢一の会社の重役を殺したと知る。その事件の背景には、壮絶な真相があった…。長編ミステリー。        

読後感:

 大手製薬会社の派閥争いがらみで、自分に非がないのに対外的に処分の必要性から、社内からも非難されながら系列会社の東誠薬品酒田支店に出向させられる。酒田支店代理で慣れない薬売りの営業に嫌気をし、早く本社に戻りたい藤井賢一に、突然妻の倫子から「家の中でトラブルがありました」のメールを受け取る。
 藤井家の家庭内騒動やら、妻が常務殺しで逮捕され、しかも殺しを認めていて、コンタクトできないやらで混乱する賢一。

 さらには己自身も殺しの先導者として疑われてもいる。マスコミの攻勢にもへとへと。なんとか倫子の妹の優子が認知症の智代の面倒を見てくれているが、頼ってばかりはおれないし。
 妻に対する噂(常務と付き合っていたとか、専務ともとか、妊娠して堕ろしたとか)は本当なのか、信じたいけれど疑いも捨てきれない。

 弁護士の白井真琴が接見した情報しか得られない。いよいよ裁判がはじまり急展開が始まる。
 何が本当なのか、賢一の心が試されている。
 真壁刑事の自身の経験からなのか、その目は優しそうでいて鋭く、賢一に突き刺さってくる。
 本当に妻を信じることが出来ているのか。
 何故か主人公の賢一の立場に感情移入して、単なるミステリーとしての読書でなく引き込まれてしまった。誰の発言が真実を言っているのか予断を許さない。
 

余談:

 伊岡瞬作品では「代償」で本当の悪人を描きたいとのコメントがあったが、今回は妻が殺人を犯し、それも自身認めていると絶体絶命。しかしその原因、背景にあるものが倫子と優子の育った環境があったとは。やはりここにはそんな思いやりと人間の恨みが潜んでいたとは。   
背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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