伊岡瞬著 『 代償 』



              2018-03-25


(作品は、伊岡瞬著 『 代償 』      角川文庫による。)

          
 初出 2014年3月に刊行された単行本に加筆修正。
 本書 2016年(平成28年)5月刊行。 

 伊岡瞬:
(本書より)
 
 1960年東京都生まれ。広告会社勤務を経て、2005年「いつか、虹の向こうへ」で第25回横溝正史ミステリ大賞とテレビ東京賞をW受賞しデビュー。著書に「145gの孤独」「瑠璃の雫」「教室に雨はフラ降らない」「桜の花が散る前に」など。   

主な登場人物:

<第一部> 奥山圭輔の少年時代

奥山圭輔
父親 正晴
母親 香奈子

世田谷区の外れの古い都営住宅に住む小学5年生。達也は月1で圭輔の家を訪れている。達也親子の存在は晴れた秋空のような生活に、ぽつんと湧き出た黒い小さな雲。
・父親の正晴は商社勤務。夫婦仲は良い。
・母親の香奈子はパート。

浅沼達也
父親 秀秋
母親 道子

香奈子の又又従兄弟、圭輔と同い年、線路の反対側に住むため学区が違う。体格良く、野生の動物イメージ。
・母親の道子は宝石の訪問販売の仕事。
・父親の秀秋は経営コンサルタント。”死神”のような不気味な存在。

諸田寿人(もろたひさと)

圭輔とは中学時代の読書趣味で知り合う。学年ベストファイブの人気者。北海道に実家。

木崎美香 寿人に好意を寄せている愛嬌のある顔立ちの女の子。圭輔は美香に好意を寄せる。微妙な三角関係。

牛島肇
妻 美佐緒

諸田寿人のおじさん。寿人は小5の時から小父さんの家に居候している。
<第二部> 社会人になってから
奥山圭輔(25歳) 両親が焼死後、浅沼道子が後見人に。大学卒業後弁護士となり、牛島家に居候している。

白石慎次郎(52歳)
娘 真琴(27歳)

白石法律事務所の所長。
・白石真琴 美人弁護士。
・渋谷美和子 事務員
・海老沢弁護士 実践部隊長。

諸田寿人(ひさと) 北海道の大学卒業後東京で一人暮らし。菅沼勝というノンフィクションライターの助手として勉強中。

安藤達也(24歳)
(旧姓 浅沼)

浅沼道子と秀秋と離婚後、道子に引き取られ、母親の旧姓に。強盗致死事件で逮捕され、奥山圭輔に弁護を頼む。
佃紗弓(つくださゆみ)

強盗致死事件当夜の達也のアリバイに関する証人。
田口優人という暴力を振るう男と同棲中。

裁判関係者

・高山義友裁判長。
・茂手木一幸検事。

門田芳男 門田運送という弱小企業の会社を経営していたが倒産、今は「カドタ急便」を個人営業している。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 不幸な境遇のため、遠縁の達也と暮らすことになった少年・圭輔。新たな友人・寿人に安らぎを得たものの、魔の手は容赦なく圭輔を追いつめた。長じて弁護士となった圭輔に、収監された達也から弁護依頼が舞い込み…。  

読後感:

 第一部が成人前主に小学、中学時代の浅沼達也に翻弄される奥山圭輔の後悔と達也に振り回され、両親を死なせ、好意を持っていた木崎美香を守れなかった悔やんでも悔やみきれない時代の物語。
 第二部に至たりようやく達也とも縁が切れ、弁護士として生き始めた折に、再び安藤達也(旧姓浅沼達也)にいいようにあしらわれることになる屈辱の日々。

 中学時代唯一の親友であった、フリーターの諸田寿人と再び再会し、達也の弱みを暴き裁判に勝利する迄をグイグイと引き込んでいく物語である。
 それにしても読者にとっては精神的に苦しくなるような達也の巧妙な仕掛けに翻弄されるのははっきり言ってイヤで早くすっきりと解決して気持ちを晴らして欲しいと思わせる著者のいやらしさに脱帽。精神的に良くない。
 
余談:

 解説(香山二三郎)を見て作者の作品の傾向を知り、著者が“全く人を顧みない、全く反省しない根っからの悪を書いてみたいと思い書き始めたのが「代償」です”と語ったそうである。いや、読んでいてどうしようもないやつ。何とかスッキリ落とし前を付けて欲しいと思っていたのが、やっと報われたかと。狙い通りだったわけである。 

背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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