伊岡瞬 『明日の雨は。』



              2022-04-25


(作品は、伊岡瞬著 『明日の雨は。』    角川書店による。)
                  
          

 
初出  「ミスファイア」     「野性時代」2009年11月号
     「柔らかい甲羅」     「野性時代」2010年5月号
     「ショパンの髭」      書き下ろし
     「家族写真」        書き下ろし
     「悲しい朝には」      書き下ろし
     「グッバイ・ジャングル」  書き下ろし

 
本書 2010年(平成22年)10月刊行。

 伊岡瞬
(本書による)

 1960年東京都生まれ。日本大学法学部卒。2005年「いつか、虹の向こうへ」で第25回横溝正史ミステリ大賞とテレビ東京賞を受賞し作家デビュー。 2010年、本作に収録された「ミスファイア」が第63回日本作家協会賞短編部門の最終候補作となる。その他の著書に「145gの孤独」「七月のクリスマスカード」がある。

主な登場人物:

森島巧(たくみ)

上谷(かみや)東小学校の臨時講師として3ヶ月余り、23才。
音楽大学のピアノ学科出、肩書きは音楽担当の非常勤講師。
・父親 ロックミュージシャンで喰っていく目標も、サラリーマンの職に。巧が大学に入学直後、脳梗塞で亡くなる。
・母親 自宅でピアノ教師。

[上谷東小学校関係者]
校長 青木校長。森島の遠縁。いつも冷静。筋金入りの事なかれ主義。
教頭 石倉教頭。辛辣な嫌みや叱責をかます。事なかれ主義。
学年主任

・坂巻 6年生の学年主任。森島は教頭と共に苦手。
・塚田 5年生の学年主任。
・柏原
(かしわばら) 3年生の学年主任。
・白瀬 2年生の学年主任。

安西久野 6年2組の担任教諭(女先生)。森島より1年先輩の正規職員で、森島の左隣の席。森島が1年浪人で同い年。
長浜 森島の向かいの席の教師。情報通。
花山 体育専門の教師。

白瀬美也子
(しらせ・みやこ)

音楽教師。“原理主義者”の渾名、47才。“ナチスの弁論部長”の渾名。森島の苦手とする先生。
荻野盛男 3年2組の担任。クラスの授業で居眠り。なにやら家庭の事情がありそう。
[生徒たち]

6年2組
(担任 安西久野)

・田上(たがみ)舞 学級委員。 森島になついている児童の一人で、頼りになる児童。
 仲良しの仲間:細口香澄、高井さやか
・宮永洸一 1年前転校してきたばかりで学級委員、目立つ児童。
 母親 敏美(としみ) 存在感発揮、PTA役員に就任。
・大柴賢太 学力も運動神経もトップクラス。

5年1組
(担任 野間先生)

・菊池沙江 3年生の時転校してきた。“キクガメ”の渾名。
校外実習の動物ふれあい体験(森島が代役引率)でリクガメ紛失事件の犯人扱いされる。
・坂口美帆 皆が冗談を言うときでも、ほとんど冷静。

6年1組
(担任 坂巻先生)

・鈴木捷(しょう) ピアノの腕はかなり上手いが・・・。
・野口悠太 白瀬先生の野口攻撃。捷とは仲がいい。
・石川有紀
(ゆうき) まどかと不仲。
・塚原まどか

6年3組
(担任 赤松忠夫)

・朝山雛子(ひなこ)高倍率の私立中学に合格する。地味な存在。
母親 千帆子 森島に雛子に「おめでとうを言ってあげて」と。父親 憲一 大手建設機械メーカー勤務。豪華邸宅住まい。

3年2組
(荻野盛男)
(後任 中村友晴)

・野口雷太 学級崩壊の元を作る。
[大学の同窓生]
坪井哲平 大学時代、森島と1年生の時の同級生。 今は立花音楽教室に勤める。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 森島巧は公立小学校で臨時教師として働き始めた23歳だ。音楽家の親の影響で音大を卒業するも、流されるように教員の道に進んでしまう。腰掛け気分で働いていた森島だが、学校で起こる様々な問題に巻き込まれ…。

読後感:

 主人公の森島巧(たくみ)は音大出、遠縁の青木校長に誘われて上谷(かみや)東小学校の非常勤講師として勤めることに。物語は音楽教師として小学生達との教師としての対応から、様々な問題に立ち向かうことになると共に、教師仲間の家庭の事情だったり、今日の教師を取り巻く課題に直面したりと、自身の教師という職業を続けていくことの可否を抱えて解決していく様が描かれている。
 と言うことではあるが、さすがそこにはミステリーの趣を抜きにしては語れない。

 印象深いのが、[第一話 ミスファイア]では、 生徒の家庭のゴミ集積所のボヤ騒ぎから、 “M”と呼ばれる母親が乗り込んできて、学校側は困惑に曝される。 さらに別の火事騒ぎも併発、森島の活躍で放火事件の真相が明らかになるといった具合。 生徒の先生を思う故にのことのよう。

[第二話 柔らかい甲羅]での、自然公園に動物ふれあい体験に行った先で、貴重なリクガメが紛失した事件で、菊池沙江が犯人と名指しされると共に、森島自身も菊池と接触していたことを明かされて窮地に陥る。その真相になんとも言えぬ悲しみが湧いてくる。

[第四話 家族写真]では、授業中居眠りをする担任の荻野先生と、そのクラスの荒れぶり。 その事情に隠されていた家庭の事情。やはり教師といえどもそれぞれの事情が潜んでいることがしんみりと。

[第六話 グッバイ・ジャングル]は、やはり卒業式にまつわる話は、学校にとっても、子供達にとっても何かと話題があるもの。ご多分に漏れず・・・読ませる!。
 青木校長の森島に対する教師としての行動に対する耳障りな指摘が厳しい。
 明るい話題も好ましい。生徒の田上舞の行動や、何かと相談したくなる安西久野とのやり取りも微笑ましく読書の楽しさを増してくれる。
 そしていよいよ自身の進路、教師の楽しさ、やりがいを感じて今後も続けていくのか、坪井の誘いに応じて、金か、やりがいか、尊敬か、安定化を求めて転職するのかをどう決めるか? 楽しみ・・・。


余談:

 これまで読んできた伊岡瞬作品「いつか、虹の向こうへ」(2005年刊)「代償」(2016年刊) 「悪寒」(2017年刊)「冷たい檻」(2018年刊)「痣」(2018年刊)で感じていたことだが、このような柔らかい?作品が描けるとは(失礼な言い方かも)。もっとも、比較的本作品より後の時代の作品の性かもと思ったり。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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