◇北の海:
登場人物も「夏草冬濤」の主人公洪作他藤尾、木部、金枝などおなじみの人物が出てくるが、「北の海」では、それ以降の、高校卒業後の各自の進路がそれぞれ別れていき、洪作は静岡高校の受験に落ち、いわば浪人生活の行動が主になってくる。
卒業後も沼津に一人残り、元の中学の柔道部活に入り浸ったり、金沢四高の蓮実と出会って四高行きを勧められる。親元の居る台北に戻って受験勉強をする決心をしながらも、事前に四高を見ておく必要があると、金沢での柔道の夏期合宿に参加して、出会った友達と十日間ほどの生活を共にしてしまう。
その時の金沢という土地で、また柔道部の友達との生活をすることで、沼津でのいままでの友達との隔たりを感じる洪作の姿が描かれる。
解説に著者の言葉があり、「北の海」が取り扱った半年は、作者にとっても、主人公洪作にとっても少年から青年へと移行する特殊な一時期である。青春前期の野放図もない明るさを描きたかったとある。
読後感:
「北の海」で金沢に行った時の友達付き合いをした後、沼津に戻ってきて 「夏草冬濤」での友達と再び交わりをしてみて、沼津でのいままでの友達との隔たりを感じる洪作である。しかし、ちょっと旧友との交わりを続けると以前と変わらない状態に感じてしまうのはよく経験するところであろう。
沼津を去り、台北に向かう洪作との別れ、見送る駅舎での様子など、そのときの雰囲気が伝わってきてじーんとしてしまう。
ページが多いに係わらず、記述される毎日の生活状態、友達との会話、心情の変化、情景描写など、作者の61才での作品を考えると、何とみずみずしい感覚でつづられていることか。
学生時代の良き頃、こんな友達と付き合っておれたら、どんなにか楽しい時間であっただろうかとうらやまれる。
自分も社会人になりたての頃、静岡県の富士市で寮に入って同期の友達と暮らした頃の思い出が懐かしく思い出された。
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