井上荒野 『静子の日常』


              2019-11-25


(作品は、井上荒野著 『静子の日常』    中央公論新社による。)
                  
          

 初出 読売新聞社ウェブサイトyorimoに2006年8月4日〜07年9月21日の期間連載。
 本書 2009年(平成21年)7月刊行。

 井上荒野
(いのうえ・あれの)(本書より) 
 
 1961年東京生まれ。成蹊大学文学部卒。89年「わたしのヌレエフ」で第1回フェミナ賞受賞。2004年「潤一」で第11回島清恋愛文学賞、08年「切羽へ」で第139回直木賞を受賞。その他の著書に「もう切るわ」「誰よりも美しい妻」「不恰好な朝の馬」「ベーコン」「あなたの獣」「雉猫心中」など多数。

主な登場人物:

宇陀川静子(75歳) 息子夫婦と同居。夫の十三は没。週二回フィットネスクラブで水泳を習っている。おっとりしていて、さっぱりしていて、余計なことを言わない流儀。
宇陀川愛一郎(48歳) 静子息子。5年前から出版社の下請けの小さな制作会社のウェブデザイナー。下戸、家のことは一切しない。
妻 薫子(40代半ば) 翻訳小説の下訳の仕事をしている。静子は姑。姑の性格から比較的好ましい関係。
娘 るか(16歳)

中学時代バトン部、私立高校での入部試験で落ち(選ぶのはサッカー部の男子のせい?)、夏休みは一日中家に居る、ヒマ。
テレビで見たプロレスラーのバーボン鷲田のファンに。

山田暁(まさる) 新聞配達の青年。ライオン青年。バーボン鷲田似。おばあちゃん(静子のこと)と仲良し。るかのことも知っていて、るかと恋仲に。
茗荷(みょうが)大五郎

静子の思い人。十三が亡くなったので30年ぶりに会いに。
いつも女の人に囲まれている。

堺コーチ フィットネスクラブの水泳のコーチ。
里沙 るかの友達。るかと山田暁との交際経過を順調と評価。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 何かが過剰で、何かが足りないこの世の中。今日も出くわす「ばかげた」事象を見過ごさない。静子・75歳は無邪気でシビア。息子の婚外デートを阻止し、孫娘の恋を応援…。チャーミングで痛快な長篇小説。

読後感:

 宇陀川家の家族構成は姑の静子(75歳)と息子夫婦(愛一郎と薫子)そして娘のるかの四人。静子の信条は・息子夫婦の子育てにはいっさい口を挟まない、自分で決めたことはぜったいに守ること。そしておっとり、さっぱりしていて、余計なことを言わないことから、嫁姑の間は好ましい関係である。

 そんな家族だが、それぞれは全く別方向を向いている風で、愛一郎は家のことは一切しないでネットを探して女あさりに邁進、そんな息子に静子は粋な計らいでお灸を据えて心を入れ替えさせる。るかは高校になって元気がなさそうなのが気になり、るかの部屋に忍び込んでバーボンを盗みだし、葦の繁みで新聞配達の若者たちと飲んでいるところをるかに見つけられ、るかにおばあちゃん恐るべしと思わせる。

 静子自身はというと、夫の十三の死とともに、十三の妻であることを辞める決心をし、フィットネスクラブで水泳を習ったり、昔十三と行ったバス旅行に参加したり。そして30年ぶりの茗荷大五郎との再会をしたりとその活動振りは75歳とは思えないほど。

 作品の中での色々なエピソードは家庭崩壊の危機にも発展しそうなこと内容も、静子の行動は何とも粋で微笑ましく、それに答えるように愛一郎にしても、るかにしても、薫子にしても暖かみが感じられ、読んでいて気持ちが和むシーンが多い。

 中でも<爪切り>の箇所が心に染みる。
 るかが静子の所に爪切りを借りに来て爪を切りながら、「この頃毎日やたらゴージャスじゃん?どうなっちゃってるのかと思って」と父親と母親の関係を気にしたり、「おばあちゃん、何かあたしに隠してることない?」とバーボンを隠していたことを指してるようでいて「おばあちゃん、あたし、非行化とかしてないから」。「非行化してる女子高生は、祖母の部屋で爪を切ったりしないよ」と。
 


余談:

 高齢になった現在、静子の日常の行動はすなおに同情、納得できる。著者がこの作品を書いているであろう年齢で、このような描写ができることに感心。年を取ることも悪くない。 
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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