今村夏子著 『こちらあみ子』



              2018-04-25


(作品は、今村夏子著 『こちらあみ子』    筑紫書房による。)

           

 
 本書 2011年(平成23年)1月刊行。 

 今村夏子:
(本書より)
 
 「あたらしい娘」(「こちらあみ子」に改題)で第26回太宰治賞を受賞。
 
   

主な登場人物:

<こちらあみ子>

田中あみ子


兄 孝太

田中家の長女。父と母、不良の兄の家族構成。
登下校は兄と二人で、親の命令で。あみ子は気分で学校に行ったり休んだり、教室では叱られる事が多いため、保健室で寝て過ごしたり、図書室で過ごしたりが多い。
・母は家で書道教室を開いていた。
・孝太 あみ子の2つ年上。

祖母 母のこころが壊れた結果、父と母は離婚? 祖母と一緒に暮らす、前歯が3本欠けたあみ子。
鷲尾佳範(わしお・よしのり)<のり君> あみ子のクラスの男の子。あみ子が好きな子。のり君は別に。
<ピクニック>
七瀬 “ローラガーデン”(料理の味の良さと飲み物の値段の安さを売り)に面接に来て採用の成熟した女の人。
ルミたち 先輩の従業員。七瀬さんの応援者。
新人 七瀬さんより後輩の生意気な新人。
春・元気

お笑いタレント。七瀬さんと14年、結婚を前提に付き合っている。深夜ラジオでの新人から次第に売れてテレビにも出るようになる。七瀬と付き合っている事マスコミにも知られていない。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 あみ子はわたしだ、そう思うかもしれない…。風変わりな少女、あみ子の目に映る世界を鮮やかに描き、小川洋子、三浦しをん、荒川洋治の絶賛を受けた第26回太宰治賞受賞作。書き下ろし作品「ピクニック」も収録。 

読後感:

<こちらあみ子>
 あみ子という少女の目を通し、語られる日常の様子がみずみずしく描かれていて、その世界に引き込まれてしまう。あみ子自身は世の中で言うと落ちこぼれとか怠惰な人間に思われるが、彼女が感じる感性は素直でまっすぐ、何のすねたところのない無垢な気持ちを持っている少女である。
 しかし、母親(多分後妻の様)が妊娠し、無事に生まれてこなかった事があみ子の行った行為にもより、様子が変わってしまう。また時期を同じくして兄の孝太も突然不良になってしまう。 母親はやる気をなくし、日柄部屋に閉じこもっていつも寝ていたり、病院を入退院したりと。 その結果はあみ子にも霊がいて成仏していないと父親に訴えたり。
 あみ子の好きな相手、のり君にまつわる出来事がまた切なく悲しい。
 果たして田中家はどうなっていくのか・・。

<ピクニック>
 <こちらあこみ子>の後、読み出したところ、前者ほどの感慨が湧かない状態であったが、七瀬さんとルミたちのやり取りの中で次第に七瀬さんと春げんきのなり染めとか、二人の間のやり取りを聞いている内に、七瀬さんの優しさ、純粋さにルミたちが七瀬さんの応援者になっていく様子がわかる。

 そしてその中に登場する生意気な新人の発言、態度に雰囲気がいきいきと現実味を帯びてくる。春げんきと付き合いが14年にもなって未だに結婚はおろか、入籍にも至らない状態に事件が・・。
 生意気な新人が次第にルミたちの中に加わっていて交わす言葉が果たしてどうなっていったのか。ラストは消化不良のまま余韻を残して終わってしまったのが残念。読者の想像に任されてしまった。

余談:

 ウィキペデイアにある今村夏子の経歴を見て納得。
 広島県内の高校を経て大阪の大学を卒業。その後は清掃のアルバイトなどを転転とした。29歳の時、職場で「あした休んでください」といわれ、帰宅途中に突然、小説を書こうと思いついたという。そうして書き上げた「あたらしい娘」が2010年、太宰治賞を受賞した。同作を改題した「こちらあみ子」と新作中篇「ピクニック」を収めた『こちらあみ子』(筑摩書房)で、2011年に第24回三島由紀夫賞受賞。広島の実家近くで2014年に起きた広島土砂災害では、泥水が実家の周囲に押し寄せ、祖母の墓が流された。「こちらあみ子」には、子どもの頃の郷里の思い出も散りばめ、広島弁もさりげなく登場する。2014年刊の『こちらあみ子』ちくま文庫版に新作「チズさん」が併録されたが、それ以外に作品の発表はなく、半引退状態となっていた。

 2016年、新創刊された書肆侃侃房の文芸誌〈たべるのがおそい〉で2年ぶりとなる新作「あひる」を発表し、第155回芥川龍之介賞候補に挙がった。同作を収録した短篇集『あひる』で、第5回河合隼雄物語賞受賞。2017年、「星の子」で第157回芥川賞候補、第39回野間文芸新人賞受賞。

 2013年に結婚し、大阪市内で夫とふたり暮らし。庄野潤三の長女は同姓同名の別人。岡山市出身の小川洋子を「神様みたいな人」と敬愛し、「ずっとあんなふうに書いていけたらすてき」と話している。
 

背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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