池波正太郎著 『おとこの秘図』







              
2008-04-25



(作品は、完本池波正太郎大成 22『おとこの秘図』講談社 による。)

             
 

おとこの秘図(一)襲撃 昭和52年8月  新潮社
おとこの秘図(二)京の春 昭和52年8月 新潮社
おとこの秘図(三)江戸の空 昭和52年12月 新潮社
おとこの秘図(四)八代将軍 昭和53年1月 新潮社
おとこの秘図(五)歳月 昭和53年8月 新潮社
おとこの秘図(六)加茂川櫛 昭和53年12月 新潮社 完
2000年(平成12年)4月 本書初版刊行
 

主な登場人物:

徳山権十郎
家督を継いでのちの徳山五兵衛秀栄
(ひでいえ)

徳山重俊の側妾お静の子、お静は生んですぐ亡くなる。堀部安兵衛との出会いとその死、父への反感から出奔、数々の体験を積み、やがて徳山家を嗣ぐ。やがて若い時のことが火附盗賊改方の長官に任命された時役に立つことに。一方で、五兵衛には秘めた楽しみがある・・・。

徳山重俊

権十郎の父、2240石の大身旗本。後妻の滝子との間に一男二女をもうけたが、長男の右近は病死、後継ぎを悩みある策略を実行する。
徳山重俊の働きで幕府に対する信任は厚い。

柴田宗兵衛

徳山家の用人(主家の庶務から出納のいっさいを行う重職)。
父の重俊は権十郎を忌み嫌っているが、柴田宗兵衛だけは権十郎をこよなく愛していても、徳山家の用人として重用されている。

神尾守親

重俊の後妻滝子の甥。徳山重俊を忌み嫌う。一方用人柴田宗兵衛と懇意、さらに徳山権十郎に好意を持ち、出奔した権十郎に家督を継がせたいという柴田宗兵衛の頼みを聞いて重俊の説得に動く。
藤枝若狭守 徳山五兵衛の妻勢以の父、幕府にも信用があり、五兵衛も幕府のお役目をうることができた。五兵衛はさらに将軍吉宗にも引き合わされる機会を得て大事な役目を果たすことに。
勢以 藤枝若狭守の娘、徳山五兵衛の妻。五兵衛の思惑に反して、徳山家の家臣達からは厚い信頼をえ、五兵衛ははなはだ不満。そして何故か頭が上がらない。年を取るに従い、妻ぶりが板についてきて・・・。
柴田宗兵衛の娘、18歳の時嫁いだが、夫が病死したため父の元に返り、権十郎の乳母としての秘めた役目をになう。
柴田勝四郎 柴田家の後継ぎとして養子にはいる。宗兵衛の亡き後、五兵衛の良き用人として手腕を発揮する。
小沼治作 徳山家の若頭、権十郎にとっては兄のように思っている。幼い頃から権十郎の側を離れず、権十郎の後継ぎの決意は小沼治作の行動によりなされる。最後まで五兵衛を看取ることに。
佐和口忠蔵 堀内道場の堀内源左衛門の古き友人。徳山権十郎にとっても尊敬すべき剣術人。江戸から姿を消してから不可思議な行動をとる。


作者の言葉より:

「鬼平犯科帳」の長谷川平蔵よりもずっとむかしに、火付盗賊改方をつとめたこともある徳山五兵衛(跡を継ぐ前の名前は徳山権十郎)の異色の一生を書いてみたい。しかし、盗賊どもはあまり出て来ないで、別のものが出て来る。

読後感:
 
 この物語を読んでいると、武家社会の家督を継ぐこと(継がせること)の難しさ、旗本の家の重み、用人の人となりの重要さ、妻の家との繋がり、養子を貰うことが頻繁に行われること、家と家の繋がりの重要性などが自然と伝わってきた。また、長谷川平蔵の若き頃を彷彿させるようで、こういう経験をすることで長谷川平蔵の人となりが形成されたのかなあと、なかなか面白い小説である。しかも、上下段に書かれた740頁にも及ぶ大変な長編小説にも拘わらず、読者を飽きさせず引き付ける運びといい、内容といい、大人の小説として周平周平の世界とはまた別の大変に面白く魅力的な作品である。

 何かで聞いたか、読んだことだが、定年になったらゆうゆうと池波正太郎の大人の作品を読みたいとか言われていたのが良く判る。
 登場人物像がしっかり描かれていて、物語が分かりやすいのもうれしい。

 徳川家の将軍の変遷、背景が簡潔に記されており、係争も判りやすく、八代将軍についたこの物語の中心にある吉宗のことも理解しやすい。

   


余談:
 完本池波正太郎大成で「真田太平記」を読みつつあるも、活字も適当な大きさで読みやすく、内容も面白いので読書の楽しみに浸っているが、何せページ数が多く、覚え書きのノートもページ数が増えてしょうがない。纏めるのも大変だなあと思いながらも・・・。

                  背景画はテレビ「鬼平犯科帳」の一場面を利用。



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