五十嵐貴久著  『 誘拐 』





                  
2015-11-25




(作品は、五十嵐貴久『 誘拐 』       双葉社による。)


          

 

 初出  「小説推理」‘07年1月号〜’08年3月号に「史上最大の誘拐」として連載された作品を改題し、加筆、訂正を加えたもの。
 本書 2008年(平成20年)7月刊行。

 
 五十嵐貴久:(「交渉人」より)
 1961年東京都生まれ。成蹊大学文学部卒業。2002年より作家活動に入る。著書に「交渉人」「1985年の奇跡」「Fake」「TVJ」「2005年のロケットボーイズ」「パパとムスメの7日間」「交渉人 遠野麻衣子・最後の事件」「1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター」「ForYou」「年下の男の子」などがある。 
主な登場人物:

秋月孝介(39歳)
妻 由布子
娘 宏美

旅行代理店大角(だいかく)観光本社人事部人材開発課勤務。リストラを言い渡す役目。首になった先輩の葛原幸雄一家心中を機に辞表。
・妻 娘の宏美の飛び降り自殺で離婚。
・娘の宏美は葛原の娘と仲良し、孝介に対し「パパの責任じゃないの」とベランダから飛び降りる。

関口純子 孝介の誘拐事件の協力者。大角観光の元社員。

佐山憲明(63歳)
妻 秋子
孫 百合

総理大臣。1ヶ月後(8月15日)に迫った日韓友好条約の締結に多忙。
・妻 秋子
(62歳)。長女の今日子がロンドンで事故に遭い死亡。夫の吉田幸一から孫を引き取り私邸で暮らす。
・百合 今日子似で、佐山は溺愛。小児喘息の持病。

国枝政俊

警察庁長官
・杉野英次 警察庁公安課理事官。

永松聡 警視総監
遠藤久信

官房長官
・飯島主席秘書官。

荒巻啓秋(ひろあき)

誘拐事件の総括責任者。警視庁捜査一課特殊捜査班一係班長、警視正。捜査本部は赤坂署。
・星野 誘拐事件の応援参加。特殊捜査班二係、警部、45歳。
・藤崎 誘拐事件の応援参加。特殊捜査班二係、警部補。
・福原 前線本部(佐山総理私邸)の責任者。特殊捜査班、警部補。
・大塚 前線本部詰め、警部補。
・ 吉川 前線本部詰め、警視庁科学捜査研究所の特別捜査官。


物語の概要:
 図書館の紹介より

韓国大統領来日。歴史的な条約締結を控え、全警察力が大統領警護に集まる中で起きた少女誘拐事件。全く痕跡を残さない犯人に、大混乱に陥る警視庁。稀代のエンターテイナーが贈る超驚の警察小説。

読後感: 

 情勢は日韓友好条約締結を前に緊迫の佐山総理を中心とした警察関係者総動員の最中、総理の孫娘の誘拐という前代未聞の事件。犯人の要求は条約締結中止と金。
 物語は犯人側の動きとそれを受けて立つ総理官邸と警察庁、警視庁の面々の動きが時間を負って展開する。得てしてこういう時に存在するのが当事者でなく、ちょっと第三者的立場の人間が冷静に事の真相を見つめているところ。それが警視庁特殊捜査班二係の星野警部?

 荒巻総指揮者警視正に提案するも却下。
 犯人像は北朝鮮工作員との見方が支配的、でも犯人からの接触には不可解なことが多く、韓国大統領訪日の警護に手いっぱいの警察サイド及びとりわけ佐山の苦悩は増すばかり。果たしてどのように進展するのか読者を引き込ませる。
 
 韓国大統領の来日、条約締結、一方で誘拐事件での金の受け渡しに関する動向と展開する中、事が終わってさてとなる。この後の佐山総理の行動、星野警部の行動でやっと犯人の目的が明らかに。
 なかなか凝った驚愕の展開にしてやったり?の著者がいた。
 さらにラスト犯人と目される人物とのやりとりに意外な展開が繰り広げられる。なかなか凝った作りである。

   
余談:

 この誘拐事件、犯人と被害者側両面からの描写で展開していくが、一般的にいって犯人側への感情移入が物語の厚みを増すものと思うが、いまいち犯人側への同情が湧いてこないのはどうしたものか。
 思い出すに高村薫の「レディー・ジョーカー」の犯人のことがよみがえるが、その時の感情と違う。もっとも「レディ・ジョーカー」でその前に読んだ住井すゑの「橋のない川」がその下敷きにあったことは偶然なのかどうかは判らないけれど・・・。
 と思っていたら、ほんとにラストで揺り戻しがあった。ちょっと見直しといったところ。
 

       背景画は作品中に出てくる韓国大統領の特別チャーター機をイメージして。                        

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