五十嵐貴久著  『交渉人』
        
遠野麻衣子・最後の事件





                2015-10-25


(作品は、五十嵐貴久著 『交渉人 遠野麻衣子・最後の事件』 幻冬舎による。)

          


本書 2007年(平成19年)9月刊行。書き下ろし作品。


五十嵐貴久:(本書による)

 1961年東京都生まれ。成蹊大学文学部卒業後、出版社に入社。2001年「リカ」で第2回ホラーサスペンス大賞を受賞しデビュー。著書に「交渉人」「安政五年の大脱走」「Fake」「1985年の奇跡」「TVJ」「2005年のロケットボーイズ」「パパとムスメの7日間」「シャーロック・ホームズと賢者の石」などがある。

主な登場人物:
遠野麻衣子

警視庁広報課勤務、警部。
・曽根忠義 広報課長、麻衣子の直属の上司。

警視庁の幹部たち

・長谷川均 刑事部長、警視正。 管理統括を最も得意にする。警察庁から約1年前に赴任。45歳。
・権藤裕二郎 捜査一課長、警部。ノンキャリアの捜査官。
・島本聖(たかし) 特殊犯捜査第二係、警部。実弟が法務省のキャリア組で将来の次官候補。小柄な老刑事。
・神尾忠則 副総監。
・林 警視総監。

戸井田啓一

高輪署刑事課巡査部長。麻衣子とは旧知の間柄。
・榊原 副署長。

御厨徹 10年前千葉県で発足の新興宗教組織。無農薬野菜の販売をしていたが、90年代に入り初代教祖の娘婿御厨徹が引き継いで体質一変。“宇宙真理の会地下鉄爆破テロ事件”で逮捕され、10年たった現在も真理続く。
シヴァ ジハードネーム。“協力者”の意味。警視庁に御厨釈放のメールを送りつけるメール署名者。
ハスタ ジハードネーム。“救世主”の意味。
高橋隆也 遠野麻衣子に「大善師御厨徹を釈放するよう即刻警視庁と交渉したまえ」と電話し銀座二丁目交差点の交番爆破現場で、歩道橋にいる姿を麻衣子に目撃された人物。
木下美也子 御厨(みくりや)裁判弁護団グループに加わっていた弁護士、33歳。
物語の概要:(図書館の紹介記事より)

都内の各所で爆弾事件が発生。要求は2000人の死傷者を出した“宇宙真理の会地下鉄爆破テロ事件”の首謀者の釈放だった。犯人から、警視庁との「交渉人」に指名された広報課の警部・遠野麻衣子は…。

読後感

 一審で死刑判決を受け、控訴中の御厨を釈放せよとの脅迫を、爆弾を仕掛けて脅す犯人側に、警視庁との交渉役に犯人側から指名された遠野麻衣子は、特別捜査本部(本部長長谷川警視正)で特殊犯捜査第二係の島本警部の指揮下にはいる。
 
 島本と麻衣子の二人に交渉の責任を負わせた形のこの事件の特別捜査本部の責任者長谷川警視正は大柄で神尾副総監の子飼い。捜査畑には疎いが管理にたけるが、爆弾の処理の場面では即断を要するときに判断を躊躇、麻衣子が横から指示したことに懲罰委員会に報告するといかにもありそうな展開に。
 JR鎌倉新宿ライナーでの爆弾処理の描写は緊迫感があり、どうなることかと手に汗を握る。

 さて事件は犯人の高橋隆也の自殺と遺書により解決したかに見えたが、麻衣子は矛盾点を提議し真犯人説を具申したが却下。意見を共有する捜査一課の権藤警部、特殊犯捜査の島本警部、広報課麻衣子の三人でさらなる推理を展開、刑事畑の権藤と、権藤とは相容れない島本の批評を受けつつ犯人と直接会話をまじわした麻衣子は次々と難問に光明を見いだしていく。

 三人の決して仲良しではないが、それぞれの意見を戦わせながら解決に導いていく過程がいい。
 いよいよラストシーン、ここしかないと麻衣子の推理する場所で犯人を追い詰めるシーンもなかなかのもの。

余談:
 

 作品の冒頭を含め、石田修平という警視庁特殊捜査班の警視正が起こした2年前の事件殺人事件の描写があるが、本作品の前にあるのでは。是非読んでみたいもの。
 背景画は、小説の中に出てくるJR鎌倉新宿ライナーをイメージして。調べてみたら湘南新宿ラインには色々な線があるようだ。このラインには最近はE231系が使われているそうだ。