五十嵐貴久著 『 贖い』



              2018-06-25



(作品は、五十嵐貴久著 『 贖い 』(あがない)    双葉社による。)

          

 
 初出 「小説推理」2013年6月号〜2014年12月号。
   本書 2015年(平成27年)6月刊行。 

 五十嵐貴久:
(本書より)
 
 1961年東京都生まれ。成蹊大学文学部卒。2001年「リカ」で第二回ホラーサスペンス大賞を受賞してデビュー。以降、警察小説や青春小説、時代小説を次々と発表し好評を博する。07年「シャーロック・ホームズと賢者の石」で第30回日本シャーロック・ホームズ大賞を受賞。08年「相棒」で第14回中山義秀文学賞候補、11年「サウンド・オブ・サイレンス」で第28回坪田譲治文学賞候補。他の著書に「交渉人」「1985年の奇跡」「誘拐」など多数。
      

主な登場人物:

<事件1>の関係者
星野 半年前特殊班から強行班係に移動のノンキャリの優秀な交渉人、警部。島崎係長は星野警部を煙たがっている。変わり者で有名。
鶴田里奈 叔父が本庁警部補など、剣道2段の里奈が刑事課に配属される。警察官になって3年、捜査一課は1年足らず。
警視庁捜査本部関係者

・島崎係長、警部(40歳)。全体指揮担当。
・長谷川捜査一課長、警視正。

吉岡慎二
妻 友江
息子 隆一(被害者)
娘 晶
(あき)

渋谷にある扶桑通運という運送会社勤務、課長代理35歳。
・隆一 久米山第一小学校6年生、11歳。学校帰りに行方不明。
・晶 小学3年生。

稲葉秋雄
別れた妻 華子
(はなこ)

三友商事本社総務部課長補佐、来年定年退職を決めている59歳。自分を犠牲にして会社に尽くすタイプ。人望は厚い。何かを成し遂げようとするものを抱えている。
<事件2>の関係者
神崎俊郎 埼玉県警捜査一課強行班三係塩谷斑のムードメーカー。
中江由紀 県警捜査一課強行班三係の巡査。塩谷班に4年、所沢の所轄署生活安全課少年係1年在籍後、捜査一課に、28歳。コミュニケーション能力に乏しい協調しない変わり者。
警察関係者

・塩谷忠 三係班長 県警捜査一課強行班係。
・塩谷斑の他のメンバー 立川(最年長刑事)、山辺、諸見里刑事

浅川茉理
夫 大樹
娘 順子(被害者)
息子 憲太

埼玉県朝霧市の同巡会総合病院の看護師。
・大樹 高校生の頃、父親が職場でトラブルを起こし、秩父のおじいさんの元に預けられていた。
・順子 中2。学業成績も優秀、頼りになる娘。
・憲太 保育園に通う、3歳。

寺尾忠 婦女暴行の前科持ち、40歳。事件の時間春馬山を通過者のリストに。
<事件3>の関係者
坪川直之 故あって警視庁から愛知県警に1年前移動してきた。栄新町署の巡査部長。 一歳の子供の行方不明時に母親に接触し、また駅ロッカー開錠立ち会いで子供の死体を発見と両方に立ち会った刑事。
警察関係者

・栄新町署大久保係長
・県警 戸森警部。

松永利恵
夫 宏司(こうじ)
息子 真人(被害者)

名古屋市栄新町のスーパー玉河屋の駐車場で車中に1歳の息子を残して忘れた買い物をして数分で戻ったが子供の姿無く騒ぎに。
・宏司 中越自動車勤務、35歳。
・真人 1歳の子供。

<補足>

事件1
東杉並署管内

被害者 吉岡隆一(りゅういち)11歳(小6)
7月1日 学校から帰宅せず。
翌朝小学校の正門にて切断された頭部が発見される。

事件2
埼玉県志木市

被害者 浅川順子、中2
7月2日 母親帰宅するも順子の姿なし。
翌朝、志木市春馬山の雑木林で刺殺体で発見される。

事件3
名古屋栄新町署管内

被害者 松永真人(まさと)、1歳。
7月3日 スーパーマーケット玉河屋の駐車場の車から、母親が5分ほど離れて戻ったとき姿なし。
7月7日 駅のロッカーからトートバックに入れられた死体発見される。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)
 
 小学校の校門に置かれていた男児の切断された頭部。林で発見された中学生の少女の刺殺死体…。ベストセラー『誘拐』から7年。星野警部が再び難事件に挑む、五十嵐ミステリーの新たな金字塔。   

読後感:

 3つの児童殺害事件が7月1日から3日にかけて東京、埼玉、名古屋で発生、それぞれの事件と警察の動きが交互に連鎖的に展開していく。事件の被害者の状況、調べる警察の担当者(コンビ)の様子、また関係者の登場もからめ丹念に描写されていく。

 そして担当する刑事の人となり、警察の中でのいびつな立場、背景も織り交ぜられ、果たしてどういう結末になっていくのかに興味をそそられる。
 中でも事件1に絡む星野警部の変わり者の行動、洞察力と本部の方針に対しても左右されずに、相方の里奈が戸惑い、反発しながらも次第に理解していく様子がいい。

 また埼玉県警の中江由紀が婦女暴行常習犯に対する殴打事件で無期限定職を食らい、相方の神崎刑事が彼女のためにxxを曝き救うシーンと塩谷班長以下の面々が彼女を温かく迎入れ、仲間の結束が図られるなど随所に盛り上がるシーンが織り交ぜられていて飽きさせない。

 警視庁から愛知県警に移動させられてきた坪川刑事の警察内のいじめとも言えるその中で、大久保係長とのバックグラウンド、星野警部と島崎係長の因縁も盛り上がりの一助にふさわしい。

 ラストまで証拠はなく20年前の事件の真相を丹念に調べ上げた星野・里奈のコンビが犯人と確信して相手と対峙するクライマックスは果たしてどうなるのか、最後の最後まで息を詰まらせて読み通させられた作品はさすがかなと。
余談:

 本の題名の「贖い」とは辞書を引くと「お金や品物で罪や失敗の埋め合わせをする」と。
 何故この題名だったのか、星野警部にも深い傷を抱えて意識変化を余儀なくされていた。犯人の側にも長〜い怨念がそうさせていたということ。ラストで星野と里奈が刑務所に面会に行って死刑を望む犯人に、死刑にならない様全力を尽くして、死ぬまで購うよう伝えるシーンは胸に迫る。 
背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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