伊吹有喜著 『天の花』 (なでし子物語)








              2018-12-25
(作品は、伊吹有喜著 『天の花』(なでし子物語)    ポプラ社による。)
          
  初出 「asta20137月号〜20149月号。単行本刊行に当たり加筆、修正。
  本書 2018年(平成30年)2月刊行。

 伊吹有喜
(本書より)
 
 三重県出身。出版社勤務を経て、フリーのライターに。2008年「風待ちのひと」(「夏の終わりのトラヴィアータ」改題)でポプラ社小説大賞・特別賞を受賞してデビュー。二作目「四十九日のレシピ」が話題となりドラマ化・映画化される。2014年に刊行した「ミッドナイト・パス」は山本周五郎賞・直木賞の候補になり、2018年映画公開。2017年に刊行した「カンパニー」は、宝塚歌劇月組により舞台化。同年刊行の「彼方の友へ」は直木賞候補になる。他の作品に「なでし子物語」「地の星 なでし子物語」「BAR追分」シリーズなどがある。
    

主な登場人物:

間宮耀子
母親 (姿を消し横浜に)
父親 裕一(没)
裕一の父 勇吉(没)

天竜の源峰生(みねお)の常夏荘の長屋に暮らす耀子も中学から高校生に。クラスメイトと打ち解けて話せず、遠藤立海と仲良く。
しかし遠藤家に頼らず自ら生きようと横浜の母親の元を目指す。
・母親 横浜の近くでエステティックサロンを経営している噂。

遠藤立海(たつみ)
父親 龍巳
(たつみ)
母親(愛人)小夜

龍巳が若い愛人との間にもうけた子。早く大人になりたい、気を抜くと女の子になっちゃうんだと。遠藤照子の息子龍治からは“おじさん”と呼ばれている。

遠藤照子
夫 龍一郎(没)
息子 龍治
龍治の妻 千香子
(龍一郎の父親
 龍巳)

常夏荘の“おあんさん”として広大な敷地を管理することで親父様(龍巳)に保障されている。
・龍治 海外生活を経験し、帰国して結婚、性格不一致でふらり常夏荘に姿を現す。

大宮 立海の家庭教師であった青井の後任。
常夏荘の人々

・千恵 コック
・佐々木鶴子 対の屋で働く使用人親子。息子の佐々木信吾は運転手。
・遠藤由香里 下屋敷の、耀子とは1学年上の女の子。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 遠州峰生の名家・遠藤家の邸宅として親しまれた常夏荘。幼少期にこの屋敷に引き取られた耀子は寂しい境遇にあっても、周囲の人々の優しさに支えられて子ども時代を生き抜いてきた。18歳になった耀子は、誰にも告げずに常夏荘をあとにした…。        

読後感:

 2012年刊行の「なでし子物語」を読んで2014年7月に掲載していた。今回2018年2月刊行の「天の花」を読み終えてから、2014年7月の原稿を読み返してそのバックボーンが甦ってきた。
「天の花」では間宮耀子の父親祐一の死が自殺の噂に動揺し、そして遠藤家の援助を受けずに自立を目指そうと常夏荘を手紙を残して横浜を目指す。遠藤立海はオメカケの子だから龍の字がないと悩み、耀子との交流に、龍治になついて色々なことの教えを乞う。

 一番悩みの多いのは遠藤龍治のようだ。立海や耀子より遙かに年上であるが故に、悩みも大きそうだ。母親の照子に対しても突き放したような、それでいて母親を思う気持ちも随所に。
 立海や耀子にとって龍治が自殺しようとしていると誤解して海辺に飛び込むシーンは・・・

 一方で遠藤照子の母親の心情も切ない。息子の龍治からは“おあんさん”呼ばれ、龍治が勤め先で起こした問題で相手が自殺したとき、母親に「本当のことを言ったら救ってくれますか」と。
 4年前の峰生(みねお)での七夕祭りでの出来事が随所に描写されていて、頭の中が混乱するも、耀子に起こった出来事、そして横浜に向かって起きた出来事といい、飽きさせない展開でラストまで引き込まれたのにはさすが。
 帯文で「なでし子物語」完結編がいよいよ今春スタートと。どういう展開が待っているのか。
 

余談:

 この作品を読んでいる内に、なんだか井上靖の作品群「あすなろ物語」や「しろばんば」「夏草冬濤」や「北の海」が、そして宮本輝の「流転の海」がふつふつと思い出されて懐かしさと切なさが胸に去来。子供の頃の思い出がいかにその後の人生に影響を与えるものかを改めて認識させられた。「流転の海」も完結編が今月(10月31日)刊行されるのも待ち遠しい。   
背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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