伊吹有喜 『ミッドナイト・バス』



              2020-12-25


(作品は、伊吹有喜著 『ミッドナイト・バス』      文藝春秋による。)
                  
          

 初出 別冊文藝春秋 297号〜305号
 本書 2014年(平成26年)1月刊行。

 伊吹有喜
(いぶき・ゆき)(本書より)  

 1969年三重県生まれ。中央大学法学部卒業。2008年「風待ちのひと」(「夏の終わりのトラヴィアータ」より改題)で第三回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、デビュー。第二作「四十九日のレシピ」で大きな話題となり、2013年に映画化される。他の著書に「なでし子物語」がある。 

主な登場人物:

高宮利一(40代後半)

新潟市より少し離れた美越市(みえつし)に本社を置く深夜便の高速バス(白鳥 シラトリ交通)の運転手。
東京の不動産会社で働いていたが、長距離トラックのドライバー、さらに大型二種免許取得。離婚して16年。

元妻 美雪
父親 山辺敬三

利一の母親との折り合い悪く、離婚。東京で再婚。
・父親は高速の自転車にぶつけられ複雑骨折し、入院。物忘れも時々現れる。

息子 怜司(27歳)

2年前理系大学院を出てネット関連の企業に就職するも、退職して実家に戻ってきて自室に籠もりがち。
心の問題か、背中のかぶれが痛ましい。

娘 彩菜(24歳) 恵理花、沙智子と三人でウェブコミックとショップを立ち上げ、評判に。結婚話がある。

加賀美雪(30代後半)
夫 健
(たけし)
息子颯太
(そうた)5歳

高宮利一の元妻。再婚して東京に住む。
・夫 製薬会社勤務、美雪より3〜4つ年下。
博多に単身赴任。赴任先に彼女がいるみたい。

古井志穂 利一が東京で不動産会社で働いた時の上司の娘。利一と淡い交際のバツイチの30代後半。母親の死後を継ぎ「居古井」という小料理屋を営む。
植田絵里花 新潟の職場近くで彩菜と男子禁制のハウスシェアリング。アフリカ系フランス人だが日本語しかしゃべれない。大柄な男の印象。
木村沙智子 彩菜と中学の同級生。彩菜と男子禁制のハウスシェアリング。
江崎大輔 プロのミュージシャン。絵理花から作曲を依頼される。
池上明江

新潟にある美越の町で「キッチン・カフェ」を営む。
江崎大輔とは馴染み。

大島雅也(まさや)

彩菜の彼氏。
両親を利一、彩菜、怜司に会わせるも、母親と彩菜言い合いに・・・。彩菜、利一に「だから、私、会わせたくなかったんだよ」と。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 東京での仕事を辞め、故郷で深夜バスの運転手となった利一。様々な事情を抱え夜を渡る人々を見てきたが、ある夜思わぬ人が乗車する…。家族の再生と再出発をおだやかな筆致で描く、伊吹有喜の新たな代表作。

読後感:

 高宮利一なる40代後半の父親が、離婚した後の息子や娘の扱いに戸惑う姿。別れた妻美雪が更年期障害と言うも、ふらついたり、別れた子供達との関係を「怖い」と感じている姿に思わず優しくなってしまう。一方で年下の志穂が利一との交わりを求めてくることに、結婚を言い出そうとの切ない思いを抱くも言い出せないでいる。

 息子の怜司の扱いに戸惑っている利一。怜司の志穂に対する呼び方、見方に怜司の感性がほとばしっている。そして別れた母親美雪に対する見方も志穂を見る目も。
 彩菜が怜司のことを「お兄ちゃんはためこむ人だから。外に出せばいいのに、うまく出せなくて、いろいろなものを抱えて爆発寸前になる。いつか爆発しちゃいそう、いつかどこかにきえてしまいそう。」と。
「家族に頼られると一生懸命やるんだよ。特におバカな妹の頼みにはね。その間はきっとどこにも消えない」と。

 一方、怜司は彩菜の結婚相手について「お父さんが心配しているのは嫁姑の仲ってやつか?彩菜ならあのママに負けないよ。仲良くしたいと思ったらうまくやるだろうし、嫌なこと言われたら黙ってないだろう。俺はあの手の家族は苦手だけどね」と。
 そして彩菜は元母親の美雪に対しては「なれなれしく呼ばないでよ。産み捨てていったくせに。自分だけ好き放題、勝手放題に東京で暮らして、今さら都合が悪くなったら田舎の人間に泣きつくの?と手厳しい。

 離婚に至る理由も、年月を経てみると後悔が押し寄せてくる。美雪の家庭のこと、志穂に対する扱いの結論は? はたまた怜司や、彩菜に対する扱い、美雪の父親敬三との交わり、家族とはなんと扱いが難しいことか。
 切なくて、やるせなくて、みんなが幸せに成って欲しいと願わずにはいられない。
 果たして利一はどんな結論を出すのだろうか。


余談:

 先に「四十九日のレシピ」で伊吹有喜作品を読んで不器用な人が多く出てくることを知ったが、やはり本作品でもいっぱい出てきた。
 深夜便の高速バスがすごく効いている。
 そして山辺敬三が利一に言う言葉「男親は扇の要だ」と無償の愛と信頼を説き、江崎大輔が高宮彩菜たちに「君らは今、星をつかめる位置に来た。だけどこれからつかむものが石ころか星か、わからない。星をつかんだとして、それに耐えられるかもわからない。どうするんだ?はしごを下りて、星を見上げて楽しくやっていくか?根性据えてプロになって、星をつかみにいくか?」と。「四十九日のレシピ」と同様感動作品である。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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