主な登場人物:
山崎美緒(やまざき・みお) 父親 広志 母親 真紀
高校2年生。ゴールデンウイーク以後、学校に行かなくなって1ヶ月。父母の言い合いも多く、家にも居づらく岩手の父方の祖父の家に向かう。繊細で、人の視線を怖がる。いつだって相手の顔色をうかがってしまう。 ・父(広志)神奈川県にある准大手の電機メーカーで家電製品の開発に。業績不振で吸収合併され、環境変わり、家に帰りづらくも。 ・母(真紀)都内の私立中学の英語教師。気が強い。
山崎紘治郎(こうじろう) 妻 香代(かよ)
父方の祖父。岩手県盛岡の滝沢の家で染色工房<山崎工藝舎>を主宰。父(広志)と祖父(紘治郎)は、祖母(香代)の扱いを巡り、仲が悪く、父(広志)は実家に寄りつかない。 ・香代 美緒が生まれる2年前、紘治郎と仕事の方針巡り対立、別居、離婚。美緒が生まれた年に亡くなる。噂では自殺とも。
横浜に住む真紀の母親。今は退職しているが、母と同じく英語の教師で、長年、中学校で生活指導をしていた。 気が強いところは母(真紀)と同じ。
川北裕子 息子 太一
祖父(紘治郎)の7つ年上の姉の子、50歳。父(広志)にとって従姉にあたる。山崎工藝舎の鉈(なた)屋町のショールームで工房を継いでいる。 ・太一 肩幅が広くがっちりしている盛岡市内の大学生、20歳。工房を継ぐかどうかは未定。
物語の概要:(図書館の紹介記事より。) 壊れかけた家族は、もう一度、一つになれるか?羊毛を手仕事で染め、紡ぎ、織りあげられた「時を越える布・ホームスパン」をめぐる親子三代の「心の糸」の物語。読む人の心を優しく綴んでくれる1冊。 読後感: 高校二年生の山崎美緒は人の顔色を見、嫌われないように常に笑顔を作っていたら、「笑い方がキモイ」と言われてしまう。母親からは何を考えているのか、思っていることをハッキリ言いなさいと言われても、黙ってしまって答えられないでいる。でも、何も考えていないわけではない。答えたくても口から言葉が出てこないのだ。 学校に行こうとしても、緊張で下腹部が痛くなり、トイレに行きたくなり、電車にも乗れない。そんな美緒が父方の祖父母から誕生祝いにもらった赤いショールのホームスパンを捨てられたことから、家を飛び出し、祖父のいる山崎工藝舎に向かう。 工藝舎で祖父の紘治郎先生、川北裕子先生、息子の川北太一との交流から、次第に糸を紡ぎ、折り、染色することに興味を持ち、少しずつ成長していく姿が描き出されていく。 一方、東京の家では、母親は美緒が留年することを心配、かつ、自分の娘が引きこもりになっている教師としての資質をネットで叩かれ、苦しい立場になる真紀。 父親の広志は、娘の扱いに戸惑い、また、父親(紘治郎)とは、母(香代)の扱いに不満を持って、実家から遠ざかっていたが、美緒が世話になっていることで、訪れることに。 また、家庭内では真紀との対立が表面化し、「家族って何よ。あなたこそ、どうしてここにいるの?」と言わしめ、離婚話へと進んでいく。 物語の内容は現在も問題になっている不登校の子供たち、家庭内の課題も含み示唆に富む内容になっていて、心を揺さぶられる作品である。
山崎工藝舎の祖父山崎紘治郎の描写を読んでいると、俳優の田中泯(たなか・みん)のイメージが色濃く浮かんできて、まさに適役といった感じを受けた。 祖父の発する言葉も意味深い。 ・「『大丈夫、まだ大丈夫』。そう思いながら生きるのは苦行だ。人は苦しむために生まれてくるんじゃない。遊びをせんとや生まれけむ・・・楽しむために生まれてくるはずだ。毎日を苦行のようにして暮らす子を追い詰めたら姿を消すぞ。家出で済んでよかった。少なくともこの世にはとどまっている」 ・「言はで思うぞ、言ふにまされる」:和歌の下の句 言えないでいる相手を思う気持ちは、口に出して言うより強い。 (岩手県の県名の由来にもなった) 余談2: この作品を読んでいる時、訃報のニュースが飛び込んできた(2021/10/18)。直木賞作家の山本文緒氏が亡くなった、58歳。 氏の作品で、地元の久里浜の商店街を舞台にした「なぎさ」。図書館の郷土史コーナーにもあり、曾野綾子氏と同様、定年退職後手にした作品で、その後も関心ある作家さんだった。 機会があれば、氏の作品をまた読み返してみたい。