s


伊吹有喜著 『カンパニー』









                  
2022-11-25

(作品は、伊吹有喜著 『カンパニー』        新潮社による。)

         

 初出 「小説新潮」2015年4月〜2016年7月まで連載され、刊行に際し、加筆訂正。
 本書  2017年(平成29年)5月刊行。

 伊吹有喜(いぶき・ゆき)本書に記載なし)

 主な登場人物:

青柳誠一
妻 悦子
娘 佳奈

有明F&Pに入社して25年。リストラの可能性がある「キャリア創造支援室」に移動を命じられ、そこからバレエ団に出向を言い渡される。入社後営業に3年在籍した後、ずっと総務畑。
妻からは離婚届を渡される。妻との差7つ、妻は40歳に。

瀬川由衣 旧有明製薬健康増進課所属でスポーツトレーナー。鈴木舞の「プロジェクトMAI」解散と合併で、同じく「キャリア創造支援室」に。

[有明フード&ファーマシューティカルズ
(略称有明F&P)]関係者

脇坂英一 取締役。経営戦略室長。
山田正芳(まさよし) 取締役。健康増進課統括。脇坂と山田はライバル関係。
[敷島バレエ団]関係者
敷島瑞穂(みずほ)

敷島バレエ団主宰。有明から支援を受けている弱小バレエ団。
60歳を超えている。

田中乃亜(のあ) 瑞穂の秘書。
有明紗良(さら) 社長の一人娘。敷島バレエ団のプリマ。
長谷山蒼太 二十代のスピリッツ。
高野悠(はるか) 海外を拠点に活躍するバレリーナ。世界中の女性たちから「黒髪の貴公子」「世界の恋人」と呼ばれている。
高崎美波

バレエ教室の講師。乃亜の身体のケアをしている。技能は優秀だけど、本番になると緊張して実力が発揮できないでいる。

[バーバリアン・J]関係者
四人のボーカリストとパフォーマーと呼ばれるダンサー達から構成されている人気ユニット。

阿久津仁(じん) パフォーマンスリーダー兼プロデューサー。
水上那由多(なゆた)

[バーバリアン・J]の若手スピリッツ(研究生)。
若手での一番手を目指している。

鈴木舞(まい)

瀬川由衣が担当していた「プロジェクトMAI」のマラソン選手。
体調不良を理由に電撃引退。由衣の夢破れる。
実際は間内澄人
(まない・すみと)との妊娠だった。

大塚三郎 由衣の二年先輩のトレーナー。格闘技の選手を担当。
 物語の概要:(図書館の紹介記事より。)
 
 妻子に逃げられた47歳総務課長。選手に電撃引退された女性トレーナー。製薬会社のリストラ候補2人に課された使命は、世界的プリンシパルの高野が踊る冠公演「白鳥の湖」を成功させること。 仕事と人生に情熱を取り戻す長編小説。
 
 読後感:
 
 主人公の青柳誠一は、合併を機に「キャリア創造支援室」に異動を命じられ、自身キャリアを磨いて、次の部署を目指さないとリストラの運命が待ち構えている。そして今まで経験もないバレエ団への出向を命じられる。
 もう一人の瀬川由衣は、スポーツ選手のトレーナーで、「プロジェクトMAI」を担当し、マラソン選手の鈴木舞のトレーナーとして、高みを目前にしていたが、舞が突然体調不良での引退を決めたことで、やはり「キャリア創造支援室」に来て、今度の、高野悠が客演の敷島バレエ団でトレーナーをすることになった。

 青柳にとって、バレエのことは全くの素人、どんな役に立てるのかの戸惑いがあるし、一方、自身の家庭の、妻との離婚話で心情は甚だ穏やかでない。
 片や、由衣の方は、高野という、高名で自身の身体に触れることを許さないことから、なんとか運転手役として勤めることで繋がっている。
 
 そんなバックグラウンドの状態で、物語は新社名のプロモーションの一環として12月に開催される「白鳥の湖」公演に至る様々な困難や、団員たちの競争、上昇志向のぶつかり合い、異なる集合体のぶつかり合いが展開する。
 特に印象深いシーンは、高野が、敷島瑞穂の新解釈による、「白鳥の湖」瑞穂版の配役内容に変わった時に、怒りを覚え、姿を消し、結局ウィーンに戻ったことを知ったときの時の瀬川由衣の行動。

 王者の才能を持つも身体に不安を抱えた高野に、今までトレーナーとして扱われなかった由衣が、即パリへ、そしてウィーンへ飛び、一度だけでいいからケアをさせて欲しいと。そしてトレーナーの仕事をしてこの人の前から去りたいと熱く吐露するシーン。
 高野と由衣が、高野の車の中で交わすやりとりが、何故か、自分が初めての海外旅行に行ったときの心情がよみがえってきて、由衣の“何故か寂しさがこみ上げてきた”という表現が理解できた。

 今や、これから希望のある人もいれば、今の状態が終わった後、自分のこの先を考えたときの不安がよぎる人たちが、心に不安を抱く人たちの姿が織り交ぜられた物語に、寂しさを感じさせられるところである。
 ちなみに物語から、バレエの「白鳥の湖」の音楽はなじみ深いが、物語のというか踊りの内容を多少でも知ることになった。 


余談:

 瀬川由衣の熱血な先生が語った標語
“「努力、情熱、仲間」この三つがそろえば無敵”を由衣は胸にとどめている。
 それを高野は
 英語で言えば“レッスン、パッション、カンパニー”
 カンパニーは会社という意味もあるが、バレエ団をカンパニーというのは、会社というより、仲間という意味合いが強いと。
 

 

                    

                          

戻る