伊吹有喜著
                  『四十九日のレシピ』
                




              2012-06-25

 (作品は、伊吹有喜著『四十九日のレシピ   ポプラ社による。)

              
 


 本書 2010年(平成22年)2月刊行。

 伊吹有喜(ゆき):
 
 1969年三重県生まれ。 中央大学法学部卒。 2008年「風待ちひと」(「夏の終わりのトラヴィアーナ」改題)で第三回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞。
 

物語の概要: 図書館の紹介文より 

 母・乙美が、ある「レシピ」を残して亡くなった。それは、離れてしまった家族を再び呼び集め、奇跡のような時間をもたらす処方箋…。大切な人を亡くしたひとつの家族が、再生に向かうまでの49日間。

主な登場人物:

熱田良平
最初の亡き妻 万里子
二度目の妻 乙美
(おとみ)
良平の姉 殊子
(ことこ)

名古屋の近く、亡くなった乙美のために49日の大宴会を決心する。
乙美:33年間の結婚生活の後、2週間前71歳で逝く。
   リボンハウス(独り身立ちをさせる福祉施設)でボランティアで絵手紙の先生をしていた。

遠藤浩之
妻 百合子
姑 

妻と愛人どちらとも別れられないという身勝手な言い草に、百合子は熱田の家に帰ってくる。
百合子:熱田良平の娘。生みの親は万里子。継母の乙美には生前は寂しい思いをさせていたこと悔いる。
義母は脳梗塞で倒れた後、百合子が面倒を見ている。

井本幸恵 ボランティアで絵手紙の先生をしている、リボンハウス卒の乙美の生徒。先生に頼まれていたことを手伝いに、熱田の家に。
ハルミ 若いブラジル青年。49日の宴会準備のため、井本に頼まれてやってきた。

笹原亜由美
子供 カイト

遠藤浩之の愛人。妊娠したことで浩之との結婚を迫る。

読後感:

 この題名のドラマ(2011年2月放送)を見て、読んでみたいと思っていた。ドラマの印象としては百合子役の和久井映見さんの雰囲気と、ハルミ役のちょっとみ変な外人役の雰囲気が頭の中に残っていただけで、そんな雰囲気が小説を読んでいるうちに再現されて、こんな感じだったんだなあと脚色してしまった。

 そしていよいよ乙美の49日の大宴会の日に、浩之が来て、良平とのやりとり、良平が百合子に伝える言葉の所では、ドラマでの良平役の伊東四朗の顔と声が重なって出てきてしまった。いい役者さんだなあとつくづく思ったり。

 小説ではドラマに描写されていない夫の浩之と、その愛人亜由美とその子供、そして百合子と井本が一堂に会しての、どろどろした場面は無かったし、良平と乙美の結婚に至ったエピソードもなかったと思う。

 なにより百合子の心情、父親の良平の心情が、小説では語られている箇所は、ドラマではいちいち口に出して言うこともままならないし、役者さんの演技でカバーしなければならないだろう。そして視聴者がそれを受け取っていないとならないだろうし、それはそれで大変なことであろうと思ったりした。

 それはともかくとしてこの作品、「風待ちのひと」と条件は別としても、離婚のこと、亡くなることのわびしさ、そしてやはり別れの寂しさがしみじみと胸にしみて、やるせなさに襲われてしまった。でも最後はそれを乗り越えて先に進んでいかないとという元気をもらったようである。

   
余談:
 伊吹有喜の作品は「風待ちのひと」と「四十九日のレシピ」の2冊が刊行されていて、期待の持てる作家作品と思い、ネットを調べてみたら素顔を見られたような記事があった。

 二つの作品に共通するのは、ごくふつうの、不器用な人たちの織り成す人間模様を見事に描ききっていることである。「心に傷があったり、いいたいことがあっても、なかなか声にして出せない人はとても多いと思います。でも、じつはいろいろ考えすぎてしまって、どうしても話せなくなっている。私もその傾向があるので、そういう人たちにとても惹かれます。だから、私の作品にそんな不器用な人びとが多く登場するのでしょうね」と伊吹さん。
 次の作品を期待したい。

        背景画はNHKドラマ「四十九日のレシピ」の一場面を利用して。



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