百田尚樹著 『永遠の0』 







              
2013-08-25



(作品は、百田尚樹著 『永遠の0』    講談社による。)

               
 

 本書は2006年8月、太田出版より単行本として刊行。
 本書 2009年(平成21年)7月刊行。

 百田尚樹:
(ひゃくたなおき)

 1956年大阪生まれ。放送作家として「探偵!ナイトスクープ」などの番組で活躍後、2006年「永遠の0」で作家デビュー。同書は2009年に文庫化され、大ベストセラーとなる。高校ボクシングをテーマにした青春小説「ボックス!」は2010年に映画化された。多の著書に「幸福な生活」「錨を上げよ」「影法師」「モンスター」「風の中のマリア」「輝く夜」「リング」がある。
 

主な登場人物:

佐伯健太郎(26歳)
姉 慶子
(30歳)
母 清子
父 10年前没。
祖母 松乃
再婚後の祖父

姉の依頼で実の祖父の調査を引き受け旧海軍関係者を訊ねどういう人であったかを明らかにしていく。
姉の慶子はフリーのライター。母の「死んだお父さんはどんな人だったのかな」に調べる決意。

宮部久蔵

大正8年生まれ、昭和16年祖母(松乃)と結婚、昭和20年南西諸島沖で戦死。15歳から26歳の11年間、人生で最高の時を軍隊に捧げる。後半の8年間はずっとパイロットとして。「特攻には行かない」と言っていたのに・・・。
◇宮部の戦友たち

長谷川梅男
(旧姓 石岡)

元海軍少尉、片腕を亡くしている。ラバウルでの2ヶ月間の付き合い。
伊藤寛次(85歳) 元海軍中尉、真珠湾からミッドウェー海戦まで半年以上に渡り同じ戦場で戦い続ける。
井崎源次郎

元海軍飛行兵曹長。二度宮部さんから命助けられる。
半年前ガンで後3ヶ月と宣告されたが、この話をするために生かされていますと・・・。

永井清孝 元海軍整備兵曹長。宮部さんは何よりも命を大切にする人でした。そんな人が何で特攻に志願したのか不思議と。
谷川正夫 元海軍中尉。岡山の老人ホームに。ニコルス基地での宮部の行動:「俺は絶対特攻に志願しない。妻に生きて帰ると約束したのだから」と一種の抗命態度を貫く。
岡部昌男 元海軍少尉。千葉県成田在。自分たち予科飛行学生で教育が終わる昭和20年初め教官として宮部さん来る。厳しい人。自分は桜花(人間爆弾)の搭乗員で出撃命令出る前に戦争終わる。
武田貴則

元海軍中尉。一部上場の社長まで務めた。特攻要員であった。
高山の同伴に、新聞記者に対する怒りをぶつける。
宮部教官を命を賭して守ろうとした男の話。

景浦介山(79歳)

元海軍上等飛行兵曹。元ヤクザ今は引退。
宮部のことは大嫌い、虫ずが走ると公言。宮部が特攻隊員として出撃時、機の護衛をする役目を景浦が担っていた。

大西保彦
(旧姓 村田)

元海軍一等兵曹。鹿児島市内在住で旅館経営。
昭和20年春から特攻機隊の電信を受ける仕事に。「沖縄戦の後半から宮部少尉ハッキリと変わりましたね」と。宮部が特攻で出撃の際の出来事を語る。

藤木秀一 昔祖父の事務所でバイト、弁護士を目指すも、家業を引き継ぐため断念、故郷に。姉の慶子に結婚を申し込むが・・・。

高山隆司(りゅうじ)
(38歳)

新聞記者。来年が戦後60周年に当たるため、戦後を振り返る特集を企画。「カミカゼアタックの人たちは国家と天皇のために命を捧げる狂信的な愛国主義者」と。姉の慶子に結婚を申し込む。

大石賢一郎 宮部が特攻で出撃した時の同じ隊の特攻隊の少尉。エンジントラブルで喜界島に不時着し命が助かる。


物語の概要:

 
「生きて帰る」という妻との約束を命懸けで果たそうとしたゼロ戦パイロットは、なぜ特攻を志願したのか。「探偵!ナイトスクープ」の構成作家が、圧倒的な取材力と文章力で書き下ろした、感涙の傑作長編小説。

読後感:
 
 実の祖父宮部久藏の孫に当たる姉の慶子と健太郎が、祖父の実像を知るために、元海軍の生き残りの人達を訪ね、来年が戦後60周年に当たることを機して、戦時中の状況を明らかにしようとする物語である。

 何と言っても太平洋戦争の事は断片的に映画やドラマなどで目にし、耳にする事はあったが、この本を読んでみて、真珠湾攻撃からミッドウェイ会戦、ラバウルやガダルカナル島を巡る戦い、サイパン、レイテ島などなかでも昭和16年から17年という自分が丁度生まれた年当たりの様子があからさまになり、感じるところも大いに沸き上がったところである。

 どうも読んでいて宮部勝蔵なる人物が“臆病者”と称せられながら、戦闘機の技は抜群、でも人に自慢するでなし、下の者からは慕われ、命を救われ、考え方は引き継がれ感謝する言葉が多くて、何となく作られた話のしっくり来ない面が感じられた。自分がひねくれているせいかも。

 そんな中、宮部を大嫌い、虫づがはしると公言する人物に話を聞く下りがあった。
 景浦介山という宮部より下の階級で、身よりもなく、ただ戦闘機の技で敵を倒すことが生き甲斐という人物である。そして宮部の死ぬ時は俺が見届けてやると願う。そんな気持ちが本当のところを表しているのではと思った。

 そんな中、1年半ぶりに、再会した宮部の変わり果てた姿、そしてあんなにも嫌っていた特攻隊の一員として出撃していく宮部を、自分がその護衛機として乗り込む。宮部の飛行機を撃墜するのは俺だ、どんなことがあっても宮部の機を守ってやる、死ぬなよと願う景浦の思い、でも機体の不調に、遠ざかってゆく真珠湾攻撃の時の古い型の零戦に乗って見えなくなる機体を見つめる景浦。
 何故か自然と涙が出てきていた。
 そして宮部の最後の様子、その後の感動の物語に引き込まれていく。

   


余談:
 
 
この物語を読んでいると、太平洋戦争でのB29の空襲を受けた頃(当時3歳)の兵庫県西宮での断片的画面が思い出される。社宅住まいで前3軒、後ろ3軒が坂道で並んでいたが、丁度焼夷弾が落ちてきて、自分の家の後ろの家の屋根に突き刺さって燃えているシーンである。その後は逃げて行って川の橋の下に降りた。真っ赤な空の下、お婆さんが歩いているシーンがさらに現れる。
 どういうことになったのか、裏の家だけが焼け野原になってその後はずっと過ごしてきた。何故こういうシーンだけが今でも残っているのやら。


          ◇背景画は零戦の外観。



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