印象に残る表現:
◇ 岩淵と茅場が菊田と永瀬の両警官を人質に拳銃を持って立て籠もる中、姫川が単身丸腰を装い乗り込み岩淵と対する場面:
「(15年前のレイプ事件を語り)あたしはそんなことばっかり、狂ったように考えて生きてきたのよ、あの事件後の人生を」
視界のぼやけをなんとかしたいけれど、手は動かせない。でも何度か瞬きをすると、少しだけ焦点を取り戻すことはできた。
岩淵が、歯を食い縛っているのは見えた。でも、菊田の顔は見られない。
「・・・でもね、そんなあたしでも生きていける場所はあったの。警察が、あたしの過去を知らないはずがない。それでも、黙ってあたしを採用してくれたの、警視庁は。あたしに、生きる場所を与えてくれた。・・・それで少し、許されたって、感じられた。あたし、生きていていいんだって、思えた。まだ死ななくてもいいよって、自分にいえた。そのうち、仲間もできた。こんなあたしを支えてくれる、仲間ができたの・・・今、あなたが銃を向けてるのも、その一人よ」
岩淵の目線が、一瞬だけ手元に向く。
そう、その人。菊田和男。
ずっとずっと、好きだった人。でも、裏切ってしまった人――。
「あたしは、そんな人間だから・・・いま目の前で大切な仲間が殺されたら、何をしでかすか分からない。普通の警察官はしないかもしれないけど、あたしは、あなたを撃ち殺してしまうかもしれない。自分で自分が抑えきれなくなって、ただ怒りに狂って、弾を撃ち尽くすまで、あなたに向けて引き鉄を引き続けるかもしれない」
菊田の遺体、それに重なる岩淵の遺体。二つを見下ろす、魂の抜けた自分――。
「でもね、それも結局は、なんの解決にもならないんだよ。そんなの、ただの殺し合いでしょ。あなたがあたしの大切な人を殺し、あたしがあなたを殺したら、こんどは、あたしがあなたの家族に殺されるかも知れない。その次は、あたしの家族があなたの家族を殺しにいくかもしれない。そんなの、きりがないでしょう。違う?」
・・・
「こんなの、矛盾してるって思うかもしれないけど、こう考えたらどうかな。・・・あたしたちの中には、殺意がある。これはもう、しょうがない。憎しみも、消えない。これも一人ではどうしようもない。消えるはずなんてないもん。身体はあの屈辱を覚えているんだから。同じ体で生きている以上、忘れられっこない・・・」
ひと呼吸置き、改めて、岩淵の目を見る。
岩淵は、玲子を見ているようでいて、実は見ていない。
今ではない過去、ここではないどこかに、思いを馳せているのか。
だとしたら、それは玲子の言葉が心に響いている、確かな証ではないのか。
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