誉田哲也著  『ブルーマーダー』


       




              
2014-08-25



(作品は、誉田哲也著 『ブルーマーダー』     光文社による。)

                   

 初出 「小説宝石」2012年1月号〜9月号
 本書 2012年(平成年)11月刊行。

誉田哲也:(本書より)

 1969年、東京都生まれ。学習院大学卒。2002年、「妖の華」で第2回ムー伝奇ノベル大賞優秀賞を受賞。‘03年、「アクセス」で第4回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞。警察小説、青春小説、ホラーなど、多彩な作品を次々と発表し、多くの読者を獲得している。近著に「レイジ」「ドルチェ」「あなたの本」「あなたが愛した記憶」「幸せの条件」などがある。

 

主な登場人物:
姫川玲子(33歳)

池袋署刑事課強行犯捜査係の係長。
以前は警視庁刑事部捜査第一課姫川班の主任。

菊田和男

去年の2月、千住署刑組課強行犯係へ、巡査部長。
以前は本部姫川班。

勝俣健作 警視庁捜査一課殺人犯捜査 勝俣班主任。
井岡博光 三鷹署刑組課強行犯捜査係、巡査部長。以前は姫川班。
下井正文(56歳)

中野警察署刑組課暴力班捜査係の係長、警部補。
かってのS(木野)を捜している。そして誰が木野が元警察官であったかをもらしたのか。

池袋署

・東尾刑事課長
・大迫隆也 刑事課強行犯捜査係統括係長。姫川の直属上司。
・高津組対課長
・江田巡査部長 生活安全課保安係。姫川の相棒。

本部 組対四課
(警視庁組織犯罪対策部第四課)

・安東課長、警視正
・三浦管理官
・明石係長 暴力班捜査四係。

木野一政(38歳) 元警察官、下井のSとして諸田組に潜入していたが行方不明に。

岩淵時生(ときお)
(26歳)

2年前公務執行妨害で逮捕、新検調べで護送中の横転事故のどさくさに紛れ逃走中。菊田が担当で追っている。

茅場元
(おやっさん)

マサという男から手伝ってくれたら借金の証文チャラにしてやると誘われる。昔は茅場組として建設作業の仕事をしていた。
河村丈治

二代目庭田組組長。仮釈放で出所後6日で殺害される。
・若頭 谷崎、補佐 白井。

諸田勇造 諸田組の組長。

物語の概要:

「あなた、ブルーマーダーを知ってる?この街を牛耳っている、怪物のことよ」…。謎めいた連続殺人事件。殺意は、刑事たちにも牙をむきはじめる。累計240万部突破の姫川玲子シリーズ、待望の最新長編。

読後感:

 まずはテレビドラマの「ストローベリーナイト」の姫川、菊田、井岡、勝俣の雰囲気が小説のそれと全く変わらないことに嬉しくなってしまう。まさしくドラマと小説が一体となっていることに敬意。

 さて、“ブルーマーダー”なる題名に当初は何だろうと思っていたが、途中でそういうことかと。それまではマサという男が次々と酷い殺人を犯していくことにイヤーな気がしていたが、なんとなくそれ以外の場面でのおやっさんとのやりとりはごく普通の正義感を感じさせる言動に優しさも。

 とはいえ物語は庭田組組長河村丈治の撲殺殺人事件を調べる姫川玲子の側、木野の事を調べる下井刑事側の動向、そして岩淵時生の逃走事件を調べる菊田和男の動向、そしてマサとおやっさんのヤクザや半グレと呼ばれる暴走族グループの新しいタイプの組織とは違う連中やをやっつけていくシーンと展開、一方で姫川玲子と菊田和男の双方の想いを折り込みながら事件が収斂していく。

 そしてラストに向かって“ブルーマーダー”との対決、立て籠もり事件の対決シーン、木野を元警察官の情報を流した人物の特定へと発展していく。
 特に菊田和男を人質に取られての姫川玲子の説得シーンはピークに盛り上がる。果たして菊田を救えるのか・・・。

印象に残る表現:
 
◇ 岩淵と茅場が菊田と永瀬の両警官を人質に拳銃を持って立て籠もる中、姫川が単身丸腰を装い乗り込み岩淵と対する場面:

「(15年前のレイプ事件を語り)あたしはそんなことばっかり、狂ったように考えて生きてきたのよ、あの事件後の人生を」

 視界のぼやけをなんとかしたいけれど、手は動かせない。でも何度か瞬きをすると、少しだけ焦点を取り戻すことはできた。
 岩淵が、歯を食い縛っているのは見えた。でも、菊田の顔は見られない。

「・・・でもね、そんなあたしでも生きていける場所はあったの。警察が、あたしの過去を知らないはずがない。それでも、黙ってあたしを採用してくれたの、警視庁は。あたしに、生きる場所を与えてくれた。・・・それで少し、許されたって、感じられた。あたし、生きていていいんだって、思えた。まだ死ななくてもいいよって、自分にいえた。そのうち、仲間もできた。こんなあたしを支えてくれる、仲間ができたの・・・今、あなたが銃を向けてるのも、その一人よ」

 岩淵の目線が、一瞬だけ手元に向く。
 そう、その人。菊田和男。
 ずっとずっと、好きだった人。でも、裏切ってしまった人――。

「あたしは、そんな人間だから・・・いま目の前で大切な仲間が殺されたら、何をしでかすか分からない。普通の警察官はしないかもしれないけど、あたしは、あなたを撃ち殺してしまうかもしれない。自分で自分が抑えきれなくなって、ただ怒りに狂って、弾を撃ち尽くすまで、あなたに向けて引き鉄を引き続けるかもしれない」

 菊田の遺体、それに重なる岩淵の遺体。二つを見下ろす、魂の抜けた自分――。

「でもね、それも結局は、なんの解決にもならないんだよ。そんなの、ただの殺し合いでしょ。あなたがあたしの大切な人を殺し、あたしがあなたを殺したら、こんどは、あたしがあなたの家族に殺されるかも知れない。その次は、あたしの家族があなたの家族を殺しにいくかもしれない。そんなの、きりがないでしょう。違う?」

・・・

「こんなの、矛盾してるって思うかもしれないけど、こう考えたらどうかな。・・・あたしたちの中には、殺意がある。これはもう、しょうがない。憎しみも、消えない。これも一人ではどうしようもない。消えるはずなんてないもん。身体はあの屈辱を覚えているんだから。同じ体で生きている以上、忘れられっこない・・・」

 ひと呼吸置き、改めて、岩淵の目を見る。
 岩淵は、玲子を見ているようでいて、実は見ていない。
 今ではない過去、ここではないどこかに、思いを馳せているのか。
 だとしたら、それは玲子の言葉が心に響いている、確かな証ではないのか。

余談:
 
 一般にドラマがいい評価だと小説はちょっと印象が薄いとか、小説が好いのにドラマの方はイマイチというのが通常である。でも今回は両方とも優れているので嬉しくなる。こんな印象を受けるのも久しぶり。是非次は「ストロベリーナイ」を読んでみたい。
  背景画は、劇場版「ストロベリーナイト」より。