誉田哲也著
   『ドンナビアンカ』、 『ドルチェ』





            2014-11-25


 (作品は、誉田哲也著 『ドンナビアンカ』、『ドルチェ』    新潮社による。)

                
『ドンナビアンカ』

 初出  小説新潮2012年5月号〜12月号
 本書 2013年(平成25年)2月刊行。

『ドルチェ』

 初出  袋の金魚       小説新潮2006年10月号
     ドルチェ       小説新潮2007年10月号
     バスストップ     小説新潮2008年5月号
     誰かのために     小説新潮2008年11月号
     ブルードパラサイト  小説新潮2006年10月号
     愛したのが百年目   小説新潮2010年11月号
 本書 2011年(平成23年)10月刊行。

 誉田哲也:(『ドンナビアンカ』より)
 
 1969年、東京生まれ。2002年、ムー伝奇ノベル大賞優秀賞を獲得した「ダークサイド・エンジェル紅鈴 妖の華」でデビュー。03年「アクセス」でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞。斬新な女性刑事像を打ち出した「ストロベリーナイト」ほかの“姫川玲子シリーズ”や、映画化された「武士道シックスティーン」など、ジャンルの枠を越えて幅広い読者の支持を集めている。

主な登場人物:

『ドンナビアンカ』
魚住久江(43歳) 警視庁練馬警察署刑事組織犯罪対策課強行犯捜査係、巡査部長独身。
金本健一 警視庁捜査一課殺人犯7係、魚住久江が池袋暑にいた頃から付き合いのある先輩刑事。
中野署特捜本部の面々

・峰岸 魚住と同じ練馬署強行犯捜査係の後輩。頼もしいところがある。
・中森管理官

村瀬邦之(41歳) 30代中頃越田酒店の配送バイト。それまでは居酒屋でバイト。その後副島専務と顔見知りになり頼み事を聞いて富士見フーズの店に転職。
後藤正範(まさのり) 越田酒店に引っ張ってくれた同僚。

副島孝(47歳)
妻 幸子
(40歳)

妻の姉が富士見フーズの社長の縁で専務の立場に。
どういうわけか村瀬に声をかけ、旨いものを食べに誘い、就職まで世話をする。“アンジェリカ”によく顔を出す。

中江弓子(45歳)

富士見フーズの社長。副島孝の義理の姉。
中華レストラン「点点楼」や、居酒屋チェーン「紗那梨」を運営する比較的新しい外食企業。

楊白瑤(27歳)
(源氏名 瑤子)

池袋のキャバクラ“アンジェリカ”で働くホステス、中国人。
副島の愛人。配達に来る村瀬の真面目さに惹かれていく。

『ドルチェ』

魚住久江(42歳) 警視庁練馬警察署刑事組織犯罪対策課強行犯捜査係、巡査部長独身デカ長。
金本健一(44歳) 警視庁捜査一課殺人犯捜査第三係、魚住久江が池袋暑にいた頃から付き合いのある先輩刑事、巡査部長。
練馬署組対課

・宮田強行犯捜査係の係長、警部補。
・里谷デカ長、巡査部長。 元マル暴。
・原口巡査長。
・峰岸巡査長。 交番勤務から組対課に引き上げられる。

◇袋の金魚 1歳2ヶ月の子供の溺死事案

・父親斎藤明 一見やくざ風。
・母親 由子 守の重度の喘息の看病で疲れ果てている。
・子供 守

◇ドルチェ 自宅アパートに帰る直前バック奪われ、腹を刺される事案。
川西恵(22歳) 聖明女子大4年生、男関係が派手。

柚木
妻 奈津子

科捜研第一化学科。久江、金本たちが本部刑事部にいた頃4人でよく飲みに行った仲。久江は奈津子を可愛がっていた。
◇バスストップ 都営住宅アパート前での強制わいせつ事案。
佐久間晋介 警視庁捜査一課性犯捜査第二係担当主任、警部補。捜査本部も立っていないのに乗り込んできた刑事。
増本秀弥 最終バスをじっと見ている人との目撃情報で聴取を受けるも、理由を黙秘。
◇誰かのために 印刷工場内での傷害事案。
堀晃司 「ここでも俺は必要とされなかった」と。
◇ブルードパラサイト 女房に夫が刺される事案。

吉沢徹(36歳)
妻 明穂

ウェブデザイン会社の社長。
妻は生まれて半年の赤ん坊の世話にノイローゼ気味。
犯行の動機は黙秘。

◇愛したのが百年目 友人を轢いてしまった事案。

神野久仁彦(43歳)
妻 逸見
(42歳)
娘 和美

芸能事務所の社長。大学時代神野、柿内、二宮逸見は演劇クラブに属し、親友同士の仲。柿内は神野と逸見の学生結婚を祝福。
柿内士郎 カントリーホールディングスのウイスキー事業部企画課課長。


◇ 物語の概要: 図書館の紹介より

『ドンナビアンカ』  

中野署管内で身代金目的の誘拐事件が発生。被害者は新鋭の飲食チェーン店専務の副島。提示された身代金は2000万円。練馬署強行犯係の魚住久江は、かつての同僚・金本と共に捜査に召集される…。

『ドルチェ』

彼女が捜査一課に戻らない理由。それは、人が殺されて始まる捜査より、誰かが死ぬ前に事件に関わりたいから…。組織内でも人生でも、なぜか少しだけ脇道を歩いてしまう女刑事・魚住久江が主人公の全6編。

読後感: 

『ドンナビアンカ』

 姫川玲子のキャラに比し、魚住久江は年も43歳、独身とはいえ過去に妻もいる金本とつい関係を持ったこともあるが背徳感からそれっきり拒否、だが特別捜査本部で再びコンビを組むことになる。事情聴取にも相手のことへの配慮も持ち合わせる久江と突っ込み鋭く直截的な態度で向かう金本との組み合わせは、姫川、xxの息の合う様子とは全くと言って異なる雰囲気に慣れないで戸惑ってしまう。

 物語が警察サイドの進み方と一方で、同格で進む村瀬邦之サイドの描写が進む形式で事件が展開していく。
 どういう状況で人質事件が発生し、どんなふうに事件捜査が進展していくのかこれまた面白い趣向である。
 警察サイドからの進み方と、村瀬サイドの進行にちょっと時間的ズレがあるのが次第に縮まってきて、事件の背景が分かりながら展開することに。

 魚住久江のキャラは、普通は次第に盛り上がってくるのだろうに、逆に村瀬側にあるようで霞んでいくようである。ごく普通の巡査部長といったところか。これが著者の描こうとしているものかは分からないけれどそんな印象である。

 と思っていたらするどい感覚の持ち主であること、女性刑事としての面目躍如の場面が出てくる。
 ラストの魚住の言葉、「・・・いいのよ、別に手柄なんてどうだって。そりゃ、副島には相当反省してもらわなきゃ困るけど、村瀬はね・・・できるだけ、穏便に済ませてもらえたらな、って思う。それで、瑤子と幸せになってくれたら・・・走り回されたりも無駄じゃなかったな、って思えるじゃない」。そういう女刑事の姿も結構嫌いじゃない。  

『ドルチェ』

 練馬署管内で起きる、殺人事件でない事案の出来事で魚住久江の中年女刑事の活躍短編集と言ったところ。でも話の折々に関連性もあり、通して読んでいかないと流れが生きてこない。
 それぞれの章で魚住久江の刑事としての人柄が出ていて極日常に起きるであろう出来事に接する態度に好感が持て、殺人事件の犯人捜しとは別のおもしろみがある。

 なかでも「袋の金魚」を読んでおかないと金本と魚住の関係が理解不足になるし、「ドルチェ」では柚木、金本、久江、奈津子の四人の、お互いを思う心遣いが胸にしみる。「バスストップ」ではちょっと異常の感覚に理解を示す久江、「ブルードパラサイト」での被害者の男に対する久江のビンタが魚住久江の感情を代弁していて心意気が伝わってくる。「愛したのが百年目」での見事な推理が加害者に対する優しさをにじませる。

 魚住久江は総じて、加害者に対するその事案を起こすに至った理由を理解する優しさが全編に流れていてこういうキャラだったんだなあと改めて感じた。
 そうして次の作品「ドンナビアンカ」を読むとまた違った印象になったかも。

  
余談:

・やはり魚住久江シリーズとしての最初の小説「ドルチェ」を読まなくてはと思ったしだい。
・先に「ドンナビアンカ」を読んで感じたことが、2年程前に書かれた本作「ドルチェ」を読んで、魚住久江のキャラが明らかになった。やはり先に読んでいた方がよかったかな。

 背景画は、「ドンナビアンカ」の舞台となる練馬警察署。