東野圭吾著  『手紙』






              2008-01-25


  (作品は、東野圭吾著 『手紙』 毎日新聞社による。)

           
   

 2003年(平成年)3月初版

 東野圭吾 (ひがしのけいご):
 1958年大阪生まれ。1985年「放課後」で第31回江戸川乱歩賞を受賞し、作家デビュー。 1999年「秘密」で第52回推理作家協会賞受賞。

主な登場人物:

武島直貴 主人公。父親は早死に、母親も無理がたたって疲労で倒れ亡くなる。兄が殺人罪で刑務所にいることで就職も、恋人の両親からも、会社での仕事にもあらゆることで不利な立場に追い込まれる。
武島剛志(つよし) 直貴の兄。引っ越し屋で腰を痛め、働けなくなる。以前引っ越しの手伝いで知った家に泥棒に入り、衝動的に老婆を殺してしまい、15年の刑を受け、刑務所暮らしをする。そして毎月被害者と弟に手紙を届けている。
白石由美子 自動車会社の工場に勤務。直貴は下請けの鉄屑業者として工場に入っていて、通勤のバス中でも好意を持たれている。
中条朝美 合コンで知り合う。田園調布に住む良いとこの娘。恋人であったが、家に呼ばれて両親、従兄の孝文に冷たい仕打ちを受ける。
寺尾祐輔 通信大学での友達。音楽に興味を持ち、バンドを結成して世に出ようとしている。直貴にボーカルで一緒にやろうと持ちかける。
平野社長

大学を卒業して就職した秋葉原の電器販売会社の社長。盗難事件で直貴の兄の素性がばれ、販売から倉庫へ配置転換される。倉庫に出向いてきて考えを伝える。


読後感

 犯罪を犯してしまうと、本人はもとよりそのことにより家族の運命がどれほど影響を受けるか、またその人に関わる周囲の人間の態度もさまざまに展開されている。今の世の中には犯罪がかくも多いのに、その知られざる所ではこんなことが起きているんだろうなあと、憂うばかりである。その中でも、ごく普通の人の反応、それは気を遣うが故に、逆差別の形で家族の者を苦しめる。勿論被害者の関係者も長いこと吹っ切れない日々を過ごすことになる。

 そんなことを直貴の生活を中心に、学校でのこと、就職のこと、友達のこと、恋人のこと、結婚、子供のこと、会社でのことがらが、兄からの手紙、恋人の手紙、直貴の手紙と、手紙が重要な位置を占めながら展開する。

 そんな中、著者の考え的なものが電器販売店の社長(平野)の言葉として語られるところに、ヒントがあるようだ。いずれにしても、直面する直貴、結婚した由美子そしてその子の運命は、このあと直貴と由美子がどういう道を選ぶかは、自分達で選んでいくしか仕方がない。
 そして次第に直貴も成長していくことになるのだろう。なかなか考えさせられる内容である。

印象に残る場面:

◇電器販売社長の平野が直貴に言う言葉:

「我々は君のことを差別しなきゃならないんだ。自分が罪を犯せば家族をも苦しめることになる。―――すべての犯罪者にそう思い知らせるためにもね」 ・・・

「君に対してどう接すればいいのか、皆が困ったんだよ。本当は関わり合いになりたくない。しかし露骨にそれを態度に示すのは道徳に反することだと思っている。だから必要以上に気を遣って接することになる。逆差別という言葉があるがまさにそれだ」 ・・・・

「(刑務所にはいるということで)君のお兄さんはいわば自殺をしたようなものだ、社会的な死を選んだわけだ。――― ・・・本当の死と違って、社会的な死からは生還できる。」

「その方法は一つしかない。こつこつと少しずつ社会性を取り戻していくんだ。他の人間との繋がりの糸を、一本ずつ増やしていくしかない。君を中心とした蜘蛛の巣のような繋がりが出来れば、誰も君を無視できなくなる。その第一歩を刻む場所がここだ」・・・

君に人の心を掴む力があることだけは知っている。それがなければ、こんなものが私の元に届いたりしない」

  

余談:

小説を読んだ後で、テレビで映画「手紙」が放映された。どうも自分のイメージと映像で見るのとの差が引っ掛かって、映画の方での感動はいまいちだった。

背景画は、映画「手紙」の刑務所のシーンから。

                    

                          

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