東野圭吾著  『虚ろな十字架』

                2015-01-25


 (作品は、東野圭吾著 『虚ろな十字架』   光文社による。)

        

 本書 2014年(平成26年)5月刊行。書き下ろし作品。

 東野圭吾:(本書より)
 
 1958年大阪府生まれ。大阪府立大学電気工学科卒。1985年、「放課後」で第31回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。1999年、「秘密」で第52回日本推理作家協会賞を受賞。2006年、「容疑者Xの献身」で第134回直木賞と第6回ミステリ大賞を受賞。2008年、「流星の絆」で第43回新風賞を受賞。2012年、「ナミヤ雑貨店の奇蹟」で第7回中央公論文芸賞を受賞。2013年、「夢幻花」で第26回柴田錬三郎賞を受賞。2014年、「祈りの幕が下りる時」で第48回吉川英治文学賞を受賞。近著は「疾風ロンド」。
物語の概要:(図書館の紹介記事より)

別れた妻が殺された。もし、あの時離婚していなければ、私はまた遺族になるところだった…。東野圭吾にしか書けない圧倒的な密度と、深い思索に裏付けられた予想もつかない展開。答えの出ない問いに立ち尽くす1冊。

主な登場人物:

中原道正
元妻 小夜子
(旧姓 浜岡)
娘 愛美(没)

4年前広告代理店の会社を辞め、“エンジェルポート”という動物の葬儀を行う会社を営む。
・娘の愛美(8歳)は11年前強盗に入られ殺される。
それをキッカケに小夜子と離婚。

浜岡小夜子
母 里江
父 宗一
中原道正と離婚後、日山千鶴子の計らいでフリーライターの仕事。
最近万引き依存症のことを調べていて、5年前木場の路上で刺殺される。
仁科史也
(ふみや)
妻 花恵
(旧姓 町村)
息子 翔
慶明大学医学部付属病院小児科の医師。花恵の父親が殺人を犯したことに対して遺族に謝罪の手紙を出す。
町村作造 花恵の父親。浜岡小夜子を殺したと自首。
・母親 克枝。
仁科由美

母 妙子
中原道正の妹。母親から史也に花恵と別れるよう説得するように頼まれる。
蛭川和男
(ひるかわ)
強盗殺人などで無期懲役刑で服役、半年前千葉刑務所を仮出所。
田端祐二 花恵と付き合っていた男。
日山千鶴子 小夜子の同級生で雑誌編集者。
井口沙織 浜岡小夜子が取材対象の万引き依存症の女性。
読後感
 
 なかなか重い主題が背景にある。一つは幼い子供の命をとった殺人犯に対する怒りと自分が救えなかったことに対して自分を許せない気持ち、後悔。妻小夜子は離婚を望み生き甲斐を見つけたのはフリーライターとして「万引き依存症との孤独な闘い」の取材に集中する。そしてもうひとつ「死刑廃止論という名の暴力」と題する出版を願う。

 しかしその小夜子が木場の路上で刺し殺されるという事件が別れた夫中原道正に届き小夜子の生き様を調べ出す。
 読み進めている途中果たして犯罪者に対する死刑論とか無期懲役刑とかそんな論点が中心になり、なんとなく読むのを中断しようかと思うほど。

 ところが後半、一転して一気に感情が高ぶる展開が始まる。浜岡小夜子を殺したと自首してきた町村作造という人物の娘花恵と、夫である仁科史也。その史也の誠実溢れる行為の裏に21年前の暗い出来事が絡んでいて、それが、小夜子が取材していた井口沙織と接点が浮かんでくるところから一気に現実味を呼び覚まされる。

余談:

 人が人を死刑にすることの人道的な点から言うと廃止論には一理がある。一方で被害者側から見て命を奪ったその犯人が生きていることへの怒りを持って行くところのなさは被害者にしか判らないものであろうことは察せられる。
 とかく加害者側の人権を云々することの多い世の中には問題を感じるがこういう問題は本当に正解というものはないのかも知れない。
 そんなことを感じさせる作品でもある。

背景画は小夜子が持っていたという青木ヶ原樹海のフォトをイメージして。 

                    

                          

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