東野圭吾著 『卒業』、    
       『眠りの森』


                2011-12-25
                                            



(作品は、東野圭吾著『卒業』、『眠りの森』 講談社による。)

              

『卒業』

 初出 昭和61年(1986年)5月刊行。
 本書 1989年(平成1年)5月刊行。

『眠りの森』
 本書 1989年(平成1年)5月刊行、推理特別書下ろし。

東野圭吾:
 1974年(昭和年)大阪府まれ。2001年「卵の緒」で第7回坊ちゃん文学賞を受賞し、デビュー。二作目の「図書館の神様」、三作目の「天国はまだ遠く」ともに注目を集める。京都府内で中学校の教員として勤務。

物語の概要:

『卒業』文庫本の紹介文より
 
卒業を控えた大学の4年の秋、一人の女子大生が死んだ。親友・相原沙都子は仲間とともに残された日記帳から真相を探っていく。鍵のかかった下宿先での死は自殺か、他殺か。
 刑事になる前の加賀恭一郎、初登場作。

『眠りの森』
 高柳バレー団の斎藤葉留子が事務所に戻ってきたとき強盗と鉢合わせし、花瓶を振り回して殺害してしまう。その後もバレー団の人間が殺され、加賀恭一郎らの刑事は真相を調べるがなかなか真相が見い出せない。

主な登場人物:

 『卒業』
加賀恭一郎

国立T大学に通う4年生、社会学部。剣道一筋、学生選手権を目指している。
沙都子に結婚して欲しいの意思を伝えているが、沙都子には自由であることを告げている。父親は警察官。

相原沙都子 文学部。ある出版社に就職決まっているが、東京で一人暮らしとなり、父親は反対している。高校時茶道部。
金井波香 文学部。女剣士の頂点を夢見ている。学生アパート「白鷺荘」の2階の住人。三島亮子との試合後様子が変に。高校時茶道部。
藤堂正彦 理工学部金属工学科。進学組、教授のおぼえが重要。
牧村祥子

文学部。藤堂の恋人。悪友グループ(沙都子、波香、祥子、華江)の中で男子生徒に一番人気、4人の中で一番おとなしく、迷い娘の呼称も。学生アパート「白鷺荘」の2階の住人。
死んでいるのが発見される、自殺か他殺か?

若生勇 テニス部。兄が昔学生運動の闘士であることで就職への影響を心配している。
伊沢華江 テニス部。若生の恋人。父親は銀行マン。
南沢雅子 県立R高校の茶道部の顧問だった。
誕生日には上の7人(いずれも同じ高校出身)でお祝いの会を持っている。
三島亮子(りょうこ)

国立S大学4年生。
父親は三島グループの重役。剣道の地区予選決勝試合で金井波香と対戦し、勝利する。

佐山刑事 牧村祥子の死を調べている刑事。

『眠りの森』
加賀恭一郎

若い刑事。 父親は警察官。
・太田刑事 加賀の相棒の先輩刑事。
・富井警部 加賀たちの上司。

高柳バレエ団

・高柳静子(経営者)、娘亜希子(プリマドンナ)
・浅岡未緒(有望のバレリーナ、22歳)
・斎藤葉留子(未緒の幼なじみ、22歳。)風間殺しは正当防衛と主張。
・梶田康成(バレーマスター、振り付け師、演出家)
・森井靖子、柳生講介、紺野健彦、中野妙子
・宮本清美

風間利之 絵の画学生。2年前一人でニューヨークに1年ほど留学し、念願の再渡航の2日前に殺される。
青木一弘 絵の画学生。 ニューヨークで高柳バレー団の彼女と恋に落ちるが結局彼女はバレーを選ぶ。

読後感: 

『卒業』
  解説(権田萬治氏)によると “女子校で起こった密室殺人に端を発する連続殺人事件を扱った学園ミステリーの秀作「放課後」(昭和60年)で江戸川乱歩賞を受賞、27歳の若さで推理文壇にデビューした東野圭吾は、若い世代の群像を清新な感覚で描く個性的な本格派の新鋭である。 「卒業」(昭和61年)は、この作家の受賞第1作であり、氏のなぞ解きの本格派としての実力を見事に発揮した青春ミステリーである。” とある。

 とはいえ読み出しのキッカケは「赤い指」や「新参者」で主人公の刑事加賀恭一郎が初めて登場、しかも大学生時代ということで加賀恭一郎の原点を知る意味で興味深かった。
 はたして加賀恭一郎が刑事になった理由、当初は教師か警察官を希望していたが、教師になることを考えていたことがあったことに「おやっ」と思っていたらその理由が南沢雅子先生によって語られていた。

 そして学生時代当時から剣道の腕が優れていたことと、仲間の女性の死に推理を働かしていたことなど興味深かった。
 この作品、トリックの謎解きもおもしろいが、卒業を控えた学生達の就職の不安、生き様、恋愛感情など解説にもある青春群像がなかなかよく描かれていて、それだけでもおもしろく読めた。「赤い指」や「新参者」とは相当異なる雰囲気を感じた。
 


『眠りの森』 

 加賀恭一郎が「卒業」では大学生の時代のストーリーでどうして最終的には警察官になったのかは不明のままだったので、「眠りの森」ではそのあたりが判るのかなと思っていたがはずれた。 卒業後は彼女との間は身体をいたわるようにの手紙のみであった。

 そして今回のバレリーナの浅岡未緒に好意を抱くことに。しかし結果は・・・。
「赤い指」や「新参者」では惚れたはれたの話は話題に上ってこない。そのほかの作品に何かあるのか調べてみたくもあるが・・・。
 さて「眠りの森」のストーリー、引き込まれてしまって「卒業」の雰囲気にも似てなかなかおもしろい。


◇ 印象に残る表現 :

「卒業」 : 沙都子に示した茶道部顧問の南沢雅子の加賀恭一郎に対する見識

「今年の春頃だったかしら、教師か警察官みたいなことを言っていたけれど、結局教師にしたのね。あの子は昔から単なるサラリーマンにはなるまいとは思っていたけど。でも私は警察官のほうが向いているんじゃないかと考えていたのです。ただの教師では、あの子の内側にある熱いエネルギーみたいなものを満足させられないという気がしたから」・・・
(沙都子が加賀から気持ちを告白されたことを話すと)・・・

「加賀君が告白するとはねえ。でもあの子らしいやり方かもしれないわね」・・・
「なるほどね、加賀君はそれで警察官は捨てたのかもしれませんね」・・・
「加賀君はお母さんが出ていったことをお父さんのせいだと思っているわ。お父さんが警察官だったからだと。あの子には警察官とは家族を不幸にするものだという固定観念が出来上がっているでしょう。それでもこの春に、教師か警察官になりたいと言っていたのは、あの子にとっては家族というものが具体的な形を持っていなかったからなのだと思います」・・・
「あなたにプロポーズしたということは、あなたを将来の家族として見るようになったということですわ。つまり、あなたをお母さんのように苦しめたくないという気持ちから警察官を断念したのよ」

fs

余談:

 話の中味に剣道の試合と茶道の儀式にまつわることがかなりのウエイトを占めている。 こういう内容のミステリーも結構珍しくておもしろかった。 雪月花之式の茶会のトリックはなかなか凝った筋立てになっていて頭が痛くなってしまった。
 それとこの「卒業」だけではどうして加賀恭一郎が警察官になったのかがわからない。 さらに作品を読み解いていかないといけないようだ。 チョット楽しみである。

背景画は 本書都は別の表紙絵(講談社文庫)を利用して。

                    

                          

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