東野圭吾著 
                 『祈りの幕が下りる時』、
           『疾風ロイド』 





                
2014-03-25

(作品は、東野圭吾著 『祈りの幕が下りる時』(講談社)、
               『疾風ロイド』(実業之日本社) による。)


        
 
『祈りの幕が下りる時』 
  本書 2013年(平成25年)9月刊行。書き下ろし作品。

 『疾風ロイド』
  
本書 2013年(平成25年)11月刊行(文庫本)。書き下ろし。

 東野圭吾:
 
 1958年大阪府生まれ。1985年「放課後」で第31回江戸川乱歩賞を受賞。1999年「秘密」で第52回日本推理作家協会賞を受賞。2006年「容疑者Xの献身」で第134回直木賞を受賞。2012年「ナミヤ雑貨店の奇蹟」で第7回中央公論文芸賞を受賞。
 他の著書に「宿命」「白夜行」「手紙」「流星の絆」「プラチナデータ」「白銀ジャック」「真夏の方程式」「マスカレード・ホテル」「夢幻花」など多数。
 加賀恭一郎が登場する作品に「卒業」「眠りの森」「どちらかが彼女を殺した」「嘘をもうひとつだけ」「赤い指」「新参者」「麒麟の翼」がある。

◇ 主な登場人物
『祈りの幕が下りる時』

浅居博美
(芸名 角倉博美)
母親 厚子
父親 忠雄

演出家、脚本家、元女優、滋賀県出身。出し物「異聞・曽根崎心中」(明治座講演)の評判がいい。
生い立ち:
母親は博美が小学生だった頃までは妻と母親役を果たしていたが、その後離婚届を勝手に出し、預金を持って家を出た。
父親はお人好しで温厚、自殺。博美は施設に入れられる。

押谷道子

滋賀県出身、中学時代浅居博美と同級。彦根のハウスクリーニング、家事代行、環境衛生サービスを主の業務とする会社で働く。
葛飾区小菅の越川睦夫のアパートで腐乱死体で発見される。

警視庁捜査一課

・松宮脩平(しゅうへい) 加賀恭一郎の従弟。
 母親 克子
・坂上 松宮の先輩刑事。
・石垣 係長。
・小林 松宮の上司。
・茂木和重 広報課。加賀と警察学校での同期。

加賀恭一郎

警視庁捜査一課にいたが、今は日本橋署の刑事、警部補。
父と母の離婚の事情、母の死に関しての父親との約束は・・。
そして母親の思いとは・・・。

宮本康代

仙台で小料理屋「セブン」という店を経営、田島百合子を雇う。10年経過し大きな変化が。その間百合子は心を開くことはなかった。
田島百合子の付き合っていた綿部俊一も「セブン」に顔を出していた。

田島百合子

仙台に住みたいと東京から、離婚歴有り。宮本康代の店で長らく勤めていたが・・・・変死?。
遺品は息子の加賀恭一郎に。

綿部俊一 田島百合子と付き合っていた男。電力関係の仕事で様々な場所へ行くことがある。
越川睦夫 小菅のアパートの住人。押谷道子の腐乱死体が見つかる。そのとき越川の姿は行方不明。
苗村誠三

浅居博美の、中学2年の時の担任。博美と付き合う仲に。
教師を辞め東京に、その後姿を消す。

諏訪健夫 劇団「バラライカ」の演出家。かって浅居博美と3年ほど結婚していたことがある。諏訪と付き合う前、深い関係の男がいたもよう。

岡村恵美子
(芸名 月村ルミ)

劇団「バラライカ」に所属の元女優。当時浅居と仲の良かった。

金森登喜子
弟 祐輔

加賀の父親が入院していた病院の看護師。
弟の祐輔は名の通った出版社の写真部員。


『疾風ロイド』

栗林和幸
息子 秀人
(しゅうと)

泰鵬大学医学研究所の主任研究員。実質的な管理責任者。
秀人は中学2年生。今スノーボードのとりこに。
・東郷所長

葛原(くずはら)克也 元同研究所の研究員。主に炭疽菌研究を主に担当していたが、生物兵器に使える物(“K−55”)を開発、解雇され、納得せずに盗み出して3億円を所長に要求してくる。

折口真奈美
弟 栄治

同研究所の補助研究員。
根津昇平 長野里沢温泉スキー場のパトロール隊員。2年前にこちらに。
瀬利千晶 スノーボード選手。大会のため里沢温泉スキー場に。根津とは前のスキー場で知り合う。
地元中学2年生

・山崎育美 秀人がスキー場に来て初めて声を掛けられた相手。
・川端健太 高野とは幼なじみ。
・高野裕紀 両親がスキー場で喫茶店「カッコウ」を営む。


物語の概要:図書館の紹介より

『祈りの幕が下りる時』

夢見た舞台を実現させた女性演出家。彼女を訪ねた幼なじみが、数日後、遺体となって発見された。数々の人生が絡み合う謎に、捜査は混迷を極めるが…。東野圭吾、全身全霊の挑戦。2013年、最大のサプライズ。

読後感:

『祈りの幕が下りる時』
 
 加賀恭一郎が出てくるとは思っていなかった。しかし今回の加賀恭一郎は主役というよりは準主役、従弟の松宮という若手の刑事が加賀のアドバイスを聞きながら活躍という感じ。
 しかしながら加賀恭一郎の別れた母親や父親との約束ごとの真相が明らかに(ひょっとしたら「麒麟の翼」で描写されていたのかも知れないが映画で知る限りは父親とのやりとり程度のことしか知らなかった。)。

 それにしてもこの作品、随所に伏線が張ってあるので、それがあとで関係してくるのか神経を尖らせて読まないといけないので緊張しっぱっなし。長編なのでさらっと読んでしまうとこんがらかってきてしまう。
 よくこんな風に書けるなあと感心することしきりである。

 浅居博美の過ごした人生が大きく背景に影を落としている、複雑な人間関係と隠された関係が入り組んで展開する。従ってなかなか人間関係をしっかりと理解していないとなんだか判らないうちに流れていく。しっかりと理解してないと上っ面だけで流されてしまう。
 やはり並の作家ではこの流れは想像できないのではと思うほどの作品である。

 思うに水上勉の「飢餓海峡」をふと思い出させるような感じを抱いた。
 終盤からラストにかけて事の次第がハッキリしてくると、今回は加賀恭一郎自身のことに深く関わりがある事情が明らかになってくる。加賀の人間的な側面が母親の姿が明らかになることで、裏打ちされたようだ。


『疾風ロイド』

 お手軽な痛快小説といったところ。多作作家の著者の本の軽いのりで紡いだ物語といったところか。物書きに手慣れた作家の作品のさいたるもの。読者もそれを承知で気楽に読める。それが悪いともいえないし、楽しめたらいいじゃないか。
 堅苦しい読書の後にはこのような気楽に読める本も必要だし。と言うことでことさら記することもよそう。


余談:

 加賀恭一郎という人物のことが時代を経て作品が創出されるに従って明らかになってゆく点は、高村薫作品の合田雄一郎と重なる部分がある。ただ合田雄一郎の方が歳を経る毎に人間的成長がある点興味を惹かれる。もっとも加賀恭一郎の場合はまだ若い時分だから、今後の変化ぶり、成長ぶりが楽しみな気もする。
 今回の事件が解決したことで、日本橋署から再び本庁に戻ることが明らかにされているのでまたの作品も期待したい。

         背景画は、「祈りの幕が下りる時」の作品中に出てくる橋洗いの行事のひとこま。
           (1911年(明治44年)架橋の日本橋を記念して行われる行事らしい。ネット情報より)。 
       

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