東野圭吾著 
『 悪意 』、『どちらが彼女を殺した』



 

              2016-12-25



(作品は、東野圭吾著 『 悪意 』(新潮文庫)『どちらが彼女を殺した』(講談社) による。)

         
 『 悪意 』
  初出 1996年9月に双葉舎より単行本として刊行。
  本書  2001年(平成13年)1月刊行。

 『どちらが彼女を殺した』

  初出 1996年6月、講談社ノベルとして刊行。
  本書 1997年(平成21年)7月刊行。

 東野圭吾(「悪意」本書より)

1958年、大阪府生まれ。大阪府立大学電気工学科卒業後、生産技術エンジニアとして会社勤務の傍ら、ミステリーを執筆。1985年「放課後」(講談社文庫)で第31回江戸川乱歩賞を受賞、専業作家に。1999年「秘密」(文春文庫)で第52回に日本推理作家協会賞、2006年「容疑者χの献身」(文春文庫)で第134回直木賞、第6回本格ミステリ大賞、2012年「ナミヤ雑貨店の奇跡」(角川書店)で第7回中央公論文芸賞、2013年「夢幻花」(PHP研究所)で第26回柴田錬三郎賞、2014年「祈りの幕が下りる時」(講談社)で第48回吉川英治文学賞を受賞。他の著書に「加賀シリーズ」の「新参者」や「麒麟の翼」(ともに講談社文庫)など多数。 

主な登場人物:

『 悪意 』
加賀恭一郎

かって野々口が教鞭を執っていた中学に社会科の新任教師として赴任してきた。2年で辞め、刑事に。日高が殺された現場で10年ぶりに野々口に再会。
・迫田警部
・牧村刑事

野々口修 児童文学作家。この3月で地元の中学を辞め小説家に。日高邦彦とは同じ中学高で幼なじみ。

日高邦彦
妻 理恵

人気作家。カナダバンクーバーに引っ越す間際。
・理恵 1ヶ月前に結婚。以前出版社に勤務、それがキッカケで日高と出会う。

日高初美 日高邦彦の前の妻。12年前に結婚、5年ほど前に交通事故死。
藤尾美弥子 日高に「禁猟地」作品の版画家のモデルが兄の仁科正哉(既に死亡)で名誉を傷つけられたとして、作品の回収と全面的改稿を要求。野々口は兄の同級生。

『どちらが彼女を殺した』
加賀恭一郎

練馬署刑事、巡査部長。
・山辺係長

和泉康正
妹 園子

愛知県警豊橋署交通課勤務の刑事。両親は亡くなり妹との二人だけ。
・妹の園子は電子部品メーカーの東京支社の販売部勤務。人付き合いは良くない。

弓場佳世子 保険会社勤務。園子の唯一心の許せる友人。愛知県出身で高校で同じクラス、大学で付き合い深まる。
佃潤一

父親は大手出版会社の社長の息子、長男。路上で絵を広げているところで園子と知り合い、付き合い出す。
デザイン事務所”計画美術”でアルバイトしていたが、4月から出版社勤務。

佐藤幸広 佃と同じマンションに住む。佃のアリバイ証明者。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

  『 悪意 』

 
人はなぜ人を殺すのか。東野文学の最高峰。人気作家が仕事場で殺された。第一発見者は、その妻と昔からの友人だった。逮捕された犯人が決して語らない「動機」とはなんなのか。

『どちらが彼女を殺した』
  
 自殺の偽装を施され最愛の妹を殺害された愛知県警豊橋署に勤務する和泉康正は、“現場検証”の結果、二人の容疑者を割り出す。ひとりは妹の親友。もうひとりはかつての恋人。康正は“復讐”のために懸命に真犯人に肉迫するが、その前に練馬署の加賀刑事が立ちはだかる。二人の警察官の“推理の攻防”の結末やいかに。 

読後感 

 『 悪意 』

 
人気作家日高邦彦と親友と思われる野々口修のゴーストライター及び日高の前妻との不倫にまつわる復讐劇とも表面上は思われた殺人事件がお馴染み加賀恭一郎の執拗な推理と緻密な調べで実は**と意外な結末にウ〜ンとうならされることに。
 そこに至るまでの展開は素直に読み進めていると、なるほどと納得しながら野々口に対する日高の意地悪さを印象づけられ、野々口が日高を殺すに至るわけも理解される。
いざ殺人の動機という段になって加賀恭一郎の疑念点が次第に頭を混乱させていく。
作品が色々出てくるのと、中学時代に遡っての過去の二人の間の関係やその時の関係者の見方の多様さ、野々口の告白文とかどれが真実なのか戸惑いばかり。


 『どちらが彼女を殺した』

 愛知県警の交通課の警察官和泉康正と練馬署の刑事加賀恭一郎の犯人捜しの攻防。この作品で出てくる加賀恭一郎はいかにも加賀恭一郎らしくいやらしいほどしつこく些細なことにも付きまとってきて和泉を悩ませる。
 どうもこの頃の加賀恭一郎は「新参者」に見られるような思いやりのある様子は認められない?と思っていたら加賀と和泉が焼き鳥屋で対決するシーンで二人の間に何か通じあえるものを感じた様子が今後の展開に良い傾向を示しているようだ。

 和泉園子が自殺でなく他殺であることを追求する和泉の刑事まがいの活躍が犯人を追い詰めてゆく過程。先行している和泉に着々と迫ってくる加賀に復讐を焦る和泉が犯人と目する相手の話の中に真実かどうかを見極めきれない焦り。そしてラストに加賀の止めるのを聞かずにスイッチを押してしまう結果は・・・。

 ラストはやはり焼き鳥屋での二人の間に醸し出された感情が後押しをしたようだ。
ところで本書の後に「推理の手引き」<袋綴じ解説>西上心太というものが添付されている。
詰まるところ犯人捜しの手引きと言ったところ。この作品の犯人が誰かに最大の興味がある人には面白いかも。 

  

余談1:

 この頃の作品としての加賀恭一郎は特に「新参者」の時代の加賀恭一郎の印象が強いので人格というか人間というかが一致しない印象を受ける。もっとも10年位後ということで変化は当然かもしれない。
 本書の後ろにある解説に桐野夏生が記している「本書が人間の底知れぬ悪意を描きながらも、いつの間にか「記録」することにとらわれて封じ込められた男の悲劇、と読めなくもない」とのコメントは野々口が事件を「記録」しておこうと手記を書き始めたことで「記録」と言う着眼点で捉えているのが面白い。


余談2:

 作品の中に出てくる刑事で特に関心を持っていて好きな人物は高村薫作品の合田雄一郎と、対極にあるのが東野圭吾作品の加賀恭一郎である。まだ読んでない作品もあったので今回は加賀恭一郎の出てくる作品をリストしておこうと思う。
 ・第一の事件 卒業
 ・第2の事件 眠りの森
 ・第3の事件 悪意
 ・第4の事件 どちらが彼女を殺した
 ・第5の事件 私が彼を殺した
 ・第6の事件 嘘をもうひとつだけ
 ・第7の事件 赤い指
 ・第8の事件 新参者
 ・第9の事件 麒麟の翼
 ・第10の事件 祈りの幕が下りる時

背景画は、清流をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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