早見和真著 『神さまたちのいた街で』



              2019-08-25

(作品は、早見和真著 『神さまたちのいた街で』    幻冬舎による。)
                  
          

 初出 「ポンツーン」(2011年3月号から2012年7月号)に連載した「ぼくんちの宗教戦争」を加筆・修正し改題したもの。
 本書 2017年(平成29年)4月刊行。

 早見和真
(本書より) 
 1977年神奈川県生まれ。2008年「ひゃくはち」でデビュー。15年「イノセント・デイズ」が第68回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)受賞。同作は第28回山本周五郎賞候補ともなる。その他の著書に「ぼくたちの家族」「東京ドーン」「95」「小説王」など多数。  

主な登場人物:

馬上征人
(うまうえ まさと)
(ぼく)
妹 美貴子
<ミッコ>
父 浩一

上大岡のおばあちゃん

横浜市立笹原小学校5年1組。丘の上の<サニータウン>の住民。その後丘の下の悪名高き笹原団地N号棟5F建て最上階に。
学校ではニックネームの「ナポレオン」と呼ばれている。
・ミッコ 小学3年生。みんなを明るくする力がある。
・父 工場に勤める父が車で事故起こし骨折入院、長引く。事故から1ヶ月、父に異変。「一信会」の”勉強会”に征人を連れ歩く。
・母 父親とは別の「カナンの地平」の信者。
 両親の諍いが絶えない。
・上大岡のおばあちゃん 「一信会」の信者だった。

中島龍之介

征人の大親友。征人にとって心の支え。
同じ<サニータウン>に住み同じく5年1組。
父親は帰ってくるのは週に一度がせいぜい。
母親は働いていて夜遅い。
ふたりの大学生の兄は家を出ている。

庄司拓巳(たくみ) 今年から赴任の担任の先生、25歳。征人が“ナポレオン”のニックネームを付けられた仕掛け人。
5年一組の生徒たち

・井上香 征人がずっと好きな子だった。1学期は隣の席に。
・オガちゃん ガリ勉のオガちゃん
勉強で龍之介と一二を争う
・相澤さん 女の子の中心、リーダー役。
・愛川くん 不良の中学生にケンカで勝つ。相澤と付き合っていたが・・・。
・酒井さん 中学生の彼氏が居るという噂。

京子さん 征人の母の短大時代の友人。父親がいない間を見計らって家に入り込み、母が精神的に不安定なときに限ってその陰が見え隠れ。
ユミちゃん ミッコの仲良し。両親が離婚、ミッコは「泣いていいんだよ」と。
エルクラーノ ブラジル人。笹原団地のE号棟の屋上の秘密基地にマリアとたむろ。ぼくと龍之介が作戦会議のため屋上に行くと、龍之介は映画や音楽の話で仲良しに。

糸瀬マリア

必然的にぼくとマリアが話すことになり、ぼくは大人の対応で色々アドバイス受ける。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 父が交通事故に巻き込まれたことをきっかけに、父と母は違う神さまを信じはじめ、ぼくの家族には“当たり前”がなくなった。ぼくは担任の先生に助けを求めたが、どうやら先生にも自分の正義があるらしい…。あの頃の“痛み”がよみがえる成長の物語。              

読後感:

 小学5年生といえども親友がいて、悩みを打ち明け戦う姿に、それをサポートする友達が出てき、同じように悩みを抱える大人たちがアドバイスする。家族とは、神とは、そんな問題に正面から戦おうと決心する物語は、読者に起爆剤を投げつけられたよう。

 小学5年生の馬上征人(親友の龍之介以外は、ぼくのことをニックネームの”ナポレオン”と呼ぶ。)の家庭は父と母の言い争いが絶えない。それというのも、父が自動車事故を起こし、足を骨折して入院。治療が長引き、小さな染め物屋の工場が買収され怒った父は会社を辞めたが、不自由な体で就職先もままならず。母親が働いて生活を支えるも限界。父親は「一信会」と言う宗教活動にのめり込み、征人も”勉強会”に連れて行き、ぼくも「一信会」の信者にさせようとする。

 一方母親は「カナンの地平」という違う宗教に入っていて、ぼくやミッコにお前達のためと制裁を加える。そんな家庭にミッコを守るためにもぼくは悩み、龍之介に全てを話す。征人のまわりの人間もじつは色んな悩みを持って生きている。信頼していた拓巳先生にすべてを話して理解してくれたと思いきや、実は・・・。
 以降目を合わせることも避ける状態に。エルクラーノやマリアに相談して大人のアドバイスを受けるがそのアドバイスはマリアの実体験からのものだった。

 征人が家を出ることを決断して龍之介に相談した際に受けた助言「本当に大人たちと戦おうと思ってるなら、少しでもいい、何でもいいから、何か証拠を残してもらえないか」に5年生になってからあったこと、感じたこととかを文章にすることにする。

 そのことから第2の親友が現れ、そしてぼくに発憤されて龍之介も家を出る決断をすることに。井上さんにも自分の気持ちを吐露し理解し合い、拓巳先生にも自らの進路を考える起爆剤となっていた。
 征人の到達した思いはもう一度父と母とミッコと四人で笑っていることだった。
 

余談1:

 物語の中で映画の内容や映画のテーマソングが龍之介やひいては征人に素晴らしい影響を及ぼしている。
 小津安二郎の「秋刀魚の味」
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」星新一の「未来いそっぷ」の「ある夜の物語」、メーテルリンクの「青い鳥」、「ぼくらの七日戦争」そして映画のテーマソング「スタンド・バイ・ミー」など。やはり小さい頃から名画や名作に触れさせておくことは必要だと思う。

余談2:

 作品の中で、クリスマスイブの日がミッコの誕生日なのでそのことに関連して、征人が星新一の「未来いそっぷ」の「ある夜の物語」を読むよう勧めていた。図書館で早速借りて読んでみた。
 それはクリスマスイブにサンタクロースが一人の青年の部屋に訪れ、「何が望みか、それを叶えてあげましょう」と。それに対し、青年は色々思案したが、結局の所、「僕よりももっと気の毒な人がいるはず。そっちへ行ってあげた方がいいんじゃないでしょうか」と。

 そして「もう少し先に治りにくい病気で寝たきりの女の子がいるのでどんなに喜ぶか」と。
 次にサンタクロースが向かった先でも八歳ぐらいの女の子からは「この先に住んでいる金貸しのおじさんなんか。きっとお友だちがいないんじゃないかしら。そこへ行ってなぐさめてあげたら」と。世の中のどこかに、あたしのことを考えてくれている人がいて、自分が辞退してまでサンタクロースのような貴重な権利を回してくれた。そのことだけで充分だった。・・・。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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