早見和真著 『イノセント・ディズ』



              2018-03-25


(作品は、早見和真著 『イノセント・ディズ』    新潮文庫による。)

          

  初出 平成26年8月新潮社より刊行。
  本書 2017年(平成29年)3月刊行。日本推理作家協会賞受賞作品。

 早見和真:
(本書より)
 
 1977(昭和52)年、神奈川県生まれ。2008(平成20)年、「ひゃくはち」で作家デビュー。同作は映画化、コミック化されてベストセラーに。’15年、「イノセント・デイズ」で日本推理作家協会賞(長編及び連作短編編集部門)を受賞。その他の著書に「スリーピング・ブッダ」「東京ドーン」「僕たちの家族」「ポンチョに夜明けの風はらませて」「95キュゥゴー」「小説王」など。   

主な登場人物:

田中幸乃(ゆきの)
田中美智子

横浜緑区の放火事件で母子三人を焼死させ、死刑判決を受ける。母親の持病を受け継いでいるのではとの恐怖感を持つ。
・美智子は幸乃の祖母。

野田ヒカル
(旧姓 田中)

幸乃の母親。17歳の時幸乃を出産。神経が高ぶると意識を失う持病を持つ。

倉田陽子
息子 蓮斗

幸乃の異母姉妹、幸乃より1つ年上。親子4人幸せに暮らしていたが、陽子と幸乃とで両親に対しての違和感を感ずるように・・・。

丹下健生(たけお)
妻 小百合
息子 広志
広志の結婚相手 小西香奈子
生まれた子 翔
(しょう)

丹下産婦人科の医師。田中ヒカル(17歳)が「赤ん坊は堕ろした方がいいんですよね」す相談に来たとき「本当に愛し続けられるか母親の覚悟なんだと思う」と。
・小百合 に自律神経失調症に、広志を産んでやがてガンで亡くなる。
・広志 父に反抗京大法学部卒業、横浜で法律事務所に。
・翔 1歳の誕生日の翌日、田中ヒカルが訪れてきた。陽子と同級生。

“丘の探検隊”の4人 横浜の山手に住む陽子(小4)、幸乃(小3)と男の子二人(丹下翔 小4、佐々木慎一 小3))。「誰かが悲しい思いをしたら、みんなで助けてやること」を約束。
小曽根理子(おぞね) 自分が置いてきぼりになることが怖い。皐月と組んだり、幸乃と仲良くしたりと。田中幸乃の判決を聞き、「これで逃げ切った」安堵感。

山本皐月(さつき)
付き人 恵子と良江

横浜市立扇原中学校の同級生。皐月と小学校からの友人の恵子と良江でたむろしている。それに理子が加わるも、恵子と良江は受け入れていない。
皐月は理子と二人の時と仲間と居るときで態度が変わる。

田中幸乃 扇原中学へはおばちゃん(田中美智子の経営するスナック<みち子>のある)宝町(ドヤ街)から通っている。
丹下翔 “丘の探検隊”のメンバーの一人。田中幸乃が死刑判決を知り、罪と向き合い、穏やかな心出迎えられるようにと・・。
佐々木慎一 “丘の探検隊”のメンバーの一人。中学時代の古書店での致傷事件を目撃していたが逃げ出す。放火殺人事件のニュースを見て、幸乃はまた誰かをかばっていると・・・。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 死刑囚、田中幸乃。その女が犯した最大の罪は何だ。たったひとり幸乃の無実を信じ、最後まで味方であり続けようとする男。なぜ彼は、幸乃を信じることができたのか…。衝撃指数極大値。先入観を粉砕する圧倒的長編。  

読後感:

 裁判で田中幸乃という20代の女性が死刑判決を受け、「生まれてきて、すみませんでした」と言う言葉を残して退廷する。退廷する際傍聴席を振り返りある人物を見据えて微笑みかける。
 裁判を傍聴していた私はこの裁判に違和感を感じる。なぜなら裁判では幸乃の人生を語っていないこと、裁判そのものに熱が感じられなかったことに。

 そういうプロローグの後それを追うように物語が始まる。
 田中幸乃の人生はかくも悲しく、それも正しく語られなかったことか。小学時代”丘の探検隊”で4人の約束「誰かが悲しい思いをしたら、みんなで助けてやること」はいつしかバラバラになり幸乃にとって残っていたのはその頃の思い出か。
 養父からの激しい暴力に曝されたという真相は? 中学時代の強盗強盗致傷事件の真相は? 
 
 井上敬介との離れられない関係と裏切りに対する幸乃のしつっこさ、それは必要とされる人であり続けることへの執念。そして敬介からの別れ話に幸乃の「許さない」から放火殺人事件と見られる真相は? 

 一方死刑判決が出た後の幸乃を救おう(?)、後悔を抱く人たちの物語から、真相が明かされていくうちに、関わっていた人たちがそれぞれの理由で後悔の念にさいなまれている姿、時に死刑判決で自分は救われたとホットする人も居る。

 エピローグで、刑務官の佐渡山瞳が幸乃に生きる執念を呼び戻せることが出来るのか。ミステリーとしても、人間ドラもとしてもグイクイと引き込まれることに。
 読み終わってなんとも言えず、しばし新しい小説を手にすることをためらわせる内容の物語であった。
 
余談1:

 死刑判決を聞き、「生まれてきて、すいませんでした」と呟いた田中幸乃の言葉を目にし、思い起こしたことがある。天童荒太の「永遠の仔」の久坂優希(29歳)が「もう、いやだよ。もう、生きていくのがいやだ・・・。いいことなんて、何も、なかった気がするもの」と小さいとき仲間だった長瀬笙一郎に吐露するシーンでなんだか涙が止まらなかったことを。

 それにしても裁判って何なんだろう。と思ってしまう。人の人生がかかっている。裁判官、検察、弁護士の熱意が全ての事案に100%集中することは難しいだろうけれど・・・。
 それに物語の中でニュースなどを見た時、とかく”それっぽい人間”と見なしているのは自分もそうかも知れないことを反省させられた。


余談2:

 題名の「イノセント・デイズ」の意味が気になる。「イノセント」を英語の辞書で引いたら「無罪の、無邪気な、単純な」の意味が載っている。なんとなく違和感。小説を読んでいたら関連する表現があった。
 
 八田聡が佐々木慎一に田中幸乃に対するイメージ聞いて「小さい頃は、明るくて、屈託がないっていう感じ」と。それに対して八田は「世間のイメージとは見事に逆だね。僕には無垢っていう印象が強い」と。そして「純粋とか無垢なとかって、英語でどう言うか知ってる?」そして「イノセントっていうんだ」さらに、「その”イノセント”には”無実の”っていう意味もあるんだって。不思議だよね。どうして”純粋”と”無実”が同じ単語で表されるんだろうね」と。
 こんなところから出たようだ。

背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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