馳星周 『少年と犬』


              2022-02-25


(作品は、馳星周著 『少年と犬』    新潮社による。)
                  
          

 
初出 「オール讀物」 
    男と犬    2018年1月号
    泥棒と犬   2018年4月号
    夫婦と犬   2018年7月号
    老人と犬   2020年1月号
    少年と犬   2017年10月号

 
本書 2020年(令和2年)5月刊行。

 馳星周
(はせ・せいしゅう)(本書に記述なし)
 
 1965年、北海道生まれ。横浜市立大学卒業。出版社勤務、書評家などを経て、96年「不夜城」で小説家デビュー。同作で吉川英治文学新人賞、日本冒険小説協会大賞を受賞。98年「鎮魂歌 不夜城U」で日本推理作家協会賞、99年「漂流街」で大藪春彦賞受賞。 主な著書に「生誕祭」「復活祭」「アンタッチャブル」「比ぶ者なき」「神の涙」「暗手」「蒼き山嶺」「雨降る森の犬」など多数。第163回直木賞受賞作品。

主な登場人物:

[男と犬]

中垣和正
姉 麻由美
母親

金が必要で沼口に頼り、仕事を廻してもらっている。ミゲルたち三人組の貴金属店を襲う計画の運転手として。
・姉 30代になったばかり。震災から2ヶ月後、町中のアパートを引き払い、実家で母と一緒に暮らす。
・母 若年性認知症。去年の春震災後症状悪化。以前飼っていた“カイト”を可愛がっていた。

名前は“多聞(たもん)”。飼い主の守り神とみられる。
沼口 高校の先輩。盗品の売買を手掛ける不良。
[泥棒と犬]

ミゲル
姉 アンジェラ

和正から譲り受けた(?)犬を、 幼い頃飼っていた“ショーグン”と名付け、 宮城県警から追われ、 新潟から海外に逃亡を図る。
・姉 2つ年上。幼い頃パパとママは拳銃で撃たれ死に、ミゲルとショーグンとでゴミの山で暮らしていた。

“ショーグン”と呼ばれ、ミゲルと共に行動。
ハーミ

ミゲルと犬を新潟に運ぶトラックの運転手(イラン人)。
ミゲルとのやり取りで「わたしたちはもう兄弟だ」と。

[夫婦と犬]

中山大貴(たいき)
妻 沙英
(さえ)

富山市内でアウトドアグッズの専門店を営むも、エネルギッシュで人見知りというものを知らない楽天的な性格。 冬は山スキーに。
・沙英 40歳になったばかりなのに鏡の顔は60代のよう。
ネットショップで無農薬野菜やステンドグラスの小者を扱い、家計を支える。

“クリント”(沙英名付け)、“トンバ”(大貴名付け)と呼ばれる。荒れた登山道で大貴が遭遇。
[娼婦と犬]

須貝美羽(みわ)

大津市内の林道で車の前に現れた怪我をした犬(シェパードと他の犬とのミックス)を動物病院に。
晴哉に振り回される生活にうんざりの風俗嬢。

晴哉(はるや) キャンブルなら何にでも手を出す美羽の男。金が手に入ると何日も姿を見せない。 兄貴分に当たる森口から借金の返済を求められているのに、連絡取れず、美羽は肩代わりを迫られる。

“レオ”と美羽は名付ける。
埋め込まれたマイクロチップから飼い主は岩手の模様。

[老人と犬]
片野弥一 島根で50年以上続けてきた生業は猟師。庭に迷い込んできたガリガリに痩せた犬を動物病院に。
“ノリツネ”と名付ける。
[少年と犬]

内村徹
妻 久子
息子 光

釜石で受けた東日本大震災で被災し、遠縁を頼って熊本に移り住んで5年、かっての漁師から農家へ転業。
・光 大震災のショック(当時3歳)から口を利かない、笑わない、泣かないの変化。

出口春子 釜石に住む“多聞”の飼い主。
秋田靖(やすし) 釜石でのかっての漁師仲間。
“多聞”。埋め込まれたマイクロチップに記録されている。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 震災のショックで心を閉ざした少年は、その犬を見て微笑んだ…。表題作他、「男と犬」「泥棒と犬」「夫婦と犬」など、全6作を収録。犬を愛するすべての人に捧げる感涙作。

読後感:

 一匹の犬(シェパードと和犬を掛け合わせた犬)“多聞”を主人公?に据え、犬と様々な人との交流を交えて物語は展開する。
 背景に東日本大震災をこうむった事があり、何故か“多聞”は居る先々で特定の方角を見つめている。そのわけがラストの章[少年と犬]で明らかになる。
 
 5年の歳月を経てたどりついた“多聞”の運命はどういうことになるのか。
 行く先々で出会った人々との交流はいずれも哀しい出来事で終始しているようだ。
 
最初に出て来る話の[男と犬]のラストは衝撃的で、その後の登場人物も必ずしも善人とは言えないが、芯は優しい心の持ち主であることも救われる。
 出発点と、終着点である熊本はいずれも地震の災害をこうむった場所で、哀しい結末もやはりのことで、でもこれから先の希望も見えていて救われる。
 犬好きの人にとってはたまらない作品ではなかろうか。


余談:

 本作品は直木賞受賞作品で、やはり選評が気になった。
 感心している評者もいれば、あまり評価していない評者もいて、どちらかというと自身も、ちょっと各篇とも似通った印象を感じ、直木賞か?と思ったり。
 大好きな作家である高村薫氏の評価が「終始平板で深みを欠き云々」とあったのが同感だった。 犬を主人公に擬人化した点は今までにないもので、最初は感動した。
 宮部みゆき氏が「『少年と犬』には負けました。完敗です。」の評も頷けるけど。  

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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