馳星周著 『帰らずの海』
                




              2014-10-25

 (作品は、馳星周著『帰らずの海   徳間書店による。)

               

 初出 「読楽」2012年7月号〜2013年6月号。
 本書 2014年(平成26年)6月刊行。

 馳星周(はせ せいしゅう):(本書より)

  1965年北海道生まれ。96年「不夜城」でデビュー。同書でだい18回吉川英治文学新人賞を受賞。「鎮魂歌−不夜城U」で第51回日本推理作家協会賞を受賞。「漂流街」で第1回大藪春彦賞を受賞。その他、「ダーク・ムーン」「生誕祭」「弥勒世」「煉獄の使徒」「沈黙の森」「光あれ」「ソウルメイト」「ラフ・アンド・タフ」など著書多数。 

物語の概要: 図書館の紹介文より 

 刑事、田原を襲う悲報。殺人事件の被害者は、かつて愛した女だった。この捜査に関わることは、20年前に彼が故郷函館を捨てざるを得なかった、ある事情を追うことと同じこと…。函館を舞台に描く、警察小説の傑作。

主な登場人物:

田原稔
父親

函館出身、道警本部から函館西署刑事課に転任してくる、警部補。
高校時代両親を交通事故でなくし、父親の親友の水野匡の好意で引き取られ暮らす。2つ下の水野恵美とは幼稚園児だった頃一緒に遊び稔にとっては妹と同じ。理由あって函館を去り札幌で刑事に。
・父親は元刑事、吉田秀人と水野建設を探っていたが交通事故で亡くなる。

水野郁夫
妹  恵美
父親 匡
(ただし)
母親 早苗

函館中央署組対の警部。稔とは仲がよかった、妹の恵美を愛し、稔が恵美と結ばれることを切望していた。
・父親は元々は網元だったが建設業界に転身、水野建設の社長で吉田の貯金箱。しかしバブル崩壊で膨大な債務を抱え自殺。
・早苗は吉田秀人に泣きつく。吉田の条件は郁夫が警察官になること。吉田の鶴の一声で函館中央署のマルボウ担当刑事に。

函館西署

・三上 函館西署で水野恵美殺害事件の捜査の相棒、巡査部長。
・作田課長 刑事課の課長、警部。田原稔の父親の部下だった。

吉田秀人 地元選出の衆議院議員。水野郁夫を可愛がる(大いに利用)。
岡島貴博 岡島産業(産廃業者)の社長。吉田秀人の選挙参謀のひとり。票のとりまとめ役。
山辺雅春 高校時代野球部の補欠。札幌の調理師専門学校卒、不景気で店潰れ戻ってきてキャプテンの水野郁夫の幼なじみだったので、泣きつき、<イタリアン・バー ブランカ・ネーヴェ>の従業員に。
遠山可南子 <イタリアン・バー ブランカ・ネーヴェ>のママ。稔の高校時代は2歳年下のませた少女だった。
石川孝 恵美をつけ回しているマウンテンバイクの男。
柏村雪

クラブ<ブルー・ドルフィン>のアルバイトホステス。
ママは水野恵美、源氏名沙織。ママはストーカーに付きまとわれていたと証言。

鷺沼綾 五稜郭の鷺沼クリニックの心療内科医師。恵美ママの診療を行っている。

読後感:

 とにかく舞台が函館ということで出てくる地名に懐かしさを思う。立待岬、外人墓地、五稜郭と昔旅行のためにあちこち調べ、実際に行ったときのことが懐かしくて。
 
 さて物語であるが、20年前にある秘密で函館を去り、再び戻ってくることになった田原稔の警部補が幼なじみで愛しい女性水野恵美が殺害されていた。稔が函館を去った理由を最後まで頑なに隠していたことがラストに来て明かされることに。

 展開は今と20年前の出来事が順序よく区分して描かれているので読者としてはすっきりと理解できて好ましい。
 さてその展開は手慣れた風で調子よく展開していく。まずまずのミステリーといってよいのではないか。ちょっと読んだ後に残るものがないのが残念なところか。

 警察小説の傑作とうたっているのは、田原稔
水野郁夫のふたりが通常のサツカンと異なるところ。このことは意外性で、もうひとつラストの展開を昔で持ってきたところはちょっと感動的だった。

   
余談:
 
 物語の舞台に知っている場所とか、旅行で行って多少知っているところが出てくると、親近感というか、その場の雰囲気までが身近に感じられて、現実味が増すところは不思議なところ。そう言う意味で旅行も自分で苦労して調べ、計画を立てて行ったところはやはり記憶にも印象にも残っていて好ましいと思う。

        背景画は旧函館西警察署の建物。(歴史的建物と言うことで復元されたものらしく色んな変遷があるようだ)



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